第43話(幕間):非推奨(デプリケーテッド)となった賢者と、終了したプロジェクト
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迷宮都市の巨大な治癒院。
その最も奥にある重症患者用の特別室で、Sランク重戦士ガストンは、全身を分厚い包帯とギプスで固定され、天井の木目を虚ろな目で見つめていた。
ガラッ、と乱暴に扉が開く。
「ガストン! いつまで寝ているつもりだ! お前のSランクの体力なら、高位ポーションを浴びるように飲めば数日で動けるようになるはずだろう!」
純白の魔導衣を新調した賢者ユリウスが、血走った目で怒鳴り込んできた。
「……ユリウス、か。悪いが、俺はもう迷宮には潜らねえ(パーティーを抜ける)よ」
ガストンは首だけを動かし、掠れた声で答えた。
「なっ……! ふざけるな! お前という前衛がいなければ、私の火力が活かせないだろうが! 神官の補充なら今ギルドで探している! すぐに『星の導き』を再結成して、あの忌々しい黒死竜にリベンジを……!」
「補充、だと……?」
ガストンが、初めてユリウスを鋭く睨みつけた。
「あいつは……俺たちの背中をずっと守ってくれてた神官は、ただの『替えが利くパーツ(消耗品)』じゃねえ! ……俺が、俺が前線で敵の猛攻を抑えきれなかったから、あいつは死んだんだ……!」
ガストンの目から、後悔の涙が溢れ落ちる。
「俺をスカウトした時、お前は言ってたな。『火力不足の無能な女剣士をクビにしたから、圧倒的な防御力を持つお前を前衛に据える』ってな」
ガストンの言葉に、ユリウスがピクリと眉を動かす。
「だがな、ユリウス。深層じゃあ、どれだけステータスが高い重戦士だろうが、力任せの盾一つで四方八方からのヘイトを捌き切れるわけがねえんだよ。……お前が『無能』と切り捨てたその女剣士の役割こそが、前衛の負荷を分散させるために絶対に必要な『潤滑油』だったんだ」
ガストンはゆっくりと目を閉じ、完全に拒絶の意思を示した。
「最初から、お前の組んだ陣形は欠陥品だったんだよ。……俺のハードウェア(肉体)は、もう限界だ」
「……ッ!! この、臆病者め! お前などいなくとも、私一人で最強のパーティーを再構築してやる!!」
ユリウスは吐き捨てるように病室を後にし、冒険者ギルドへと向かった。
しかし、ギルドでの現実は、迷宮の底よりもさらに冷酷だった。
「……は? Sランクの賢者パーティーへの加入依頼? 冗談じゃない」
「誰があんな『神官を囮にして自分だけ逃げ帰ってくる』ようなパーティーに入るかよ」
ユリウスが声をかける度、冒険者たちは露骨に顔をしかめ、蜘蛛の子を散らすように離れていく。
「な、なぜだ! 私は賢者だぞ! 私の圧倒的な火力さえあれば、お前たちに最高の報酬を約束できるんだぞ!!」
ユリウスがギルドの中心で叫ぶが、返ってくるのは冷たい嘲笑だけだった。
「お前の『火力』を撃つために、前衛がどれだけボロボロになってたか、ギルドの連中はみんな知ってんだよ」
ベテランの斥候が、呆れたように鼻で笑う。
「ミクっていう優秀な回避盾を追い出して、代わりにSランクの重戦士を入れたまでは良かったがな。結局、その重戦士一人に全部の負担を押し付けて、最後は回復役を死なせた。……お前の組む陣形はな、仲間を使い潰すだけの『欠陥品』なんだよ。そんなもんの下で命を懸けるバカは、この街には一人もいねえ」
「け、欠陥品だと……!? 私の、私の完璧な論理が……!」
ユリウスはよろめき、ギルドの掲示板に手をついた。
誰も自分を見ない。誰も自分の論理を評価しない。
圧倒的な個の力を集めれば最強になるという、彼の信奉していた定理。
それは、ミクという「連携の要」をリプレース(交代)した時点で、すでに破綻(非推奨)していたのだ。
ふと、ユリウスの視界の端に、談笑しながら明日の消耗品を買い込んでいる四人組の姿が映った。
『三律の連環』。
火力不足の女剣士、落ちこぼれの重戦士、偏屈な魔法使い、臆病な炎使い。
個々のスペックでは、かつての『星の導き』の足元にも及ばないはずのポンコツ(低スペック)の寄せ集め。
だが、彼らのシステムは、どんなエラーが起きても決して止まることなく、互いの欠点を完璧に補い合いながら、今まさに深層のさらに奥へと進もうとしている。
(……私が、間違っていたというのか……? 個の力ではなく、繋ぎ合わせる力(連携)こそが……この迷宮の最適解……?)
ユリウスはその場にへたり込み、二度と戻らない栄光の幻影に手を伸ばした。
だが、彼のシステムを再起動してくれる仲間は、もうどこにも存在しなかった。
かつて最強と謳われたトップパーティー『星の導き』は、ここに完全に解散を迎えたのだった。
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