第26話:深淵の払拭と、更新される現在地
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凄まじい閃光と、ドーム全体を揺るがす爆音。
ルカとアリアの魔力がコンマミリ秒の狂いもなく衝突して生まれた「水蒸気爆発」は、深層の冷たい空気を一瞬にして超高温の地獄へと書き換えた。
防御力無視の絶対的破壊力。
アビス・リーパーは自らを庇うように漆黒の大鎌を交差させたが、気体となって全方位から侵入し、内部から膨張する破壊エネルギーの前では、いかなる物理装甲も意味を成さなかった。
『ガ、ァ……ァァァ……エラー……致命的、ナ……ッ!!』
バグを起こした音声データのような断末魔。
濛々と立ち込める白煙が晴れると、そこには半身を完全に吹き飛ばされ、四本腕も外套もボロボロに崩壊した階層主の姿があった。
「……対象の完全消滅を確認。……私たちの勝ちよ」
ミクが双剣を収め、静かに告げる。
直後、アビス・リーパーの残骸は光の粒子となって霧散し、床には深層の階層主を討ち取った証明である、巨大で淀みのない『深淵の魔石』だけが残された。
「ははっ……、っ痛ぇ……」
ガルドが黒鉄の大盾を取り落とし、その場に仰向けに倒れ込んだ。リーパーの絶死の一撃を弾き飛ばした両腕は、限界を超えた負荷で痙攣している。
「ガルドさん! 大丈夫ですか!?」
ルカが駆け寄り、回復魔法を展開する。
「おう、癒やされるぜ……。だが、最高の一撃だったな、お前ら」
ガルドは天井を見上げながら、ニカッと笑った。
「当然だ。君たち前衛が私の魔法の『安全領域』をコンマ一秒まで完璧に維持した。ならば、私と彼女の同期が最高出力を叩き出すのは、論理的な帰結に過ぎない」
ルカもまた、魔力枯渇で杖を杖代わりにしながらも、不遜な笑みを崩さなかった。
だが、その視線は確実にガルドとミクに対する「絶対の信頼」を帯びていた。
(……ゼロ秒の『委ね』。前衛と後衛が完全に役割を分担し、一切の迷いなく互いを信じ抜くことで、私たちのシステムはついに深層の壁をぶち抜いた)
ミクは『深淵の魔石』を拾い上げ、熱を帯びた瞳で仲間たちを見渡した。
「四人の完全同期テスト、文句なしの合格よ。……さあ、一旦地上へ戻りましょう。私たちの『現在地』を、ギルドに更新させにいくわよ」
数時間後、冒険者ギルド。
「……間違い、ありません。第40層階層主、アビス・リーパーの魔石です……!」
鑑定士の震える声が響き渡った瞬間、ギルドの酒場は爆発的な歓声に包まれた。
「マジかよ!? あいつら、中層を踏破したばっかりだろ!?」
「第40層っていったら、深層の最初の巨大な壁だぞ! トップパーティーですら、入念な準備と犠牲を払ってようやく突破する場所だ。それを、あの四人だけで……!」
周囲の冒険者たちが、信じられないものを見るような目で『トライ・リンク』の四人を取り囲む。
もはやそこに、かつての「追放された女剣士」や「扱いづらい変人魔法使い」という蔑称は欠片も存在しない。
「おい見ろよ、あのガストンの大盾……。深層ボスの攻撃を受けたってのに、中心の機構がまったく歪んでねえ。どれだけ完璧な受け流しをしてるんだ」
「ルカとアリアの連携も異常だ。あのプライドの高い『水狂い』が、仲間に背中を完全に預けてるんだぞ。……あいつらを繋ぎ合わせているミクって女、底が知れねえ」
畏怖と称賛の入り交じる視線の中心で、ミクは受付嬢から討伐報酬の金貨が入った重い袋を受け取っていた。
「ミクさん、皆様……本当に、信じられないペースでの階層更新です。ギルドマスターも、あなたたちの戦術データを『次世代の標準モデル』として分析したいと仰っているくらいで……」
「光栄ね。でも、私たちのやり方は、特別な魔法や才能に依存しているわけじゃないわ」
ミクは振り返り、歓喜に沸く仲間たち――新しい盾の手入れを自慢げに語るガルド、それに呆れながらも付き合うルカ、満面の笑みで笑うアリアを見つめた。
「それぞれの長所を活かし、短所を補い合い、ただ互いを信じて役割を全うする。……バグを取り除き、システムを最適化すれば、誰だってここまで来られるはずよ」
ミクの言葉は、ただの謙遜ではなく、彼女の根底にあるシステムエンジニア的な真理だった。
「さて、今日は最高の祝杯をあげましょう! 装備のメンテナンスと補給が済んだら、次は第41層よ!」
ミクの号令に、三人が力強く応える。
深層の入り口という巨大な壁を、最高の「合体魔法(主砲)」と「信頼」で打ち砕いた『三律の連環』。
彼らの快進撃は、もはや誰にも――そして、かつて彼らを切り捨てた賢者たちにすら、決して追いつけない次元へと加速していくのだった。
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