第25話:極限の負荷(プレッシャー)と、試される絶対防壁
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「ルカ、アリア! 撃てッ!」
ミクの鋭い合図と共に、蒼と紅の魔力が薄暗い迷宮の通路で完璧に交差した。
凄まじい水蒸気爆発が巻き起こり、深層の魔物である『シャドウ・ウルフ』の群れが、悲鳴を上げる間もなく一瞬で蒸発していく。
「……よし。これで直近の合体魔法の成功率は、約9割に到達したわね」
ミクはストップウォッチ代わりの魔道具を見つめ、満足げに頷いた。
「フン。私たち後衛が自己防衛のタスクを完全に放棄し、魔法の同期処理だけにリソースを全振りしているんだ。この程度の精度が出なければ困る」
ルカが相変わらずの不遜な態度で杖を回す。だが、その言葉とは裏腹に、彼の立ち位置は以前よりもずっと無防備で、ミクとガルドの背中(絶対安全圏)に完全に収まっていた。
「でも、たまに失敗しちゃう1割の時は、やっぱりガルドさんたちに負担をかけちゃいますね……」
申し訳なさそうにするアリアに、ガルドが豪快に笑う。
「気にすんな! 失敗した時は俺が殴り飛ばすだけだ。お前らはただ、前だけ見て最大火力をぶっ放せばいいんだよ!」
「信頼」というプロトコルを実装したことで、二人の合体魔法の起動速度と威力は飛躍的に向上していた。100%とはいかずとも、実戦で十分に計算できる「主砲」として機能し始めている。
四人の歯車は、かつてないほど滑らかに回っていた。
――だが、その「前提」が揺らぐ時が、遂に訪れた。
迷宮第40層。深層における最初の関門。
巨大な黒曜石で縁取られた両開きの扉の前に立った瞬間、四人は同時に息を呑んだ。
扉の向こうから漏れ出す、濃密で、冷たく、そして圧倒的な死の気配。
中層のボス『オリハルコン・センチネル』の時とは比べ物にならない。扉の前に立っているだけで、本能が「引き返せ」と警鐘を鳴らすほどのプレッシャーだ。
「……信じられない魔力密度ね。これが、深層の階層主」
ミクの額に、冷たい汗が伝う。
「おいおい……扉越しでこれかよ。盾を持つ手が痺れてきやがる」
ガルドが顔を引きつらせ、黒鉄の大盾を握り直す。アリアは杖を抱きしめるようにして小さく震え、ルカでさえ、無言で額の汗を拭っていた。
通常の魔物であれば、一度合体魔法に失敗しても、ガルドの防御とミクの誘導による「リカバリー」が利いた。
しかし、この扉の向こうにいる規格外の存在相手に、もし合体魔法が不発に終わり、無防備な隙を晒せばどうなるか。
リカバリーなど不可能。その一瞬のラグが、パーティーの「全滅」に直結する。
(桁違いのプレッシャー……。この極限の緊張状態の中で、二人は本当に『後ろを振り返らずに』魔法を同期させることができるのか?)
ミクは深呼吸をし、仲間たちに向き直った。
「作戦の基本構文は変えないわ。ガルドが抑え、私が隙を作り、ルカとアリアが主砲を叩き込む。……桁が変わろうと、私たちがやるべき処理は同じよ。自分の役割だけを、完璧にこなしなさい」
「……ああ。分かっている」
「は、はいっ!」
「任せとけ、リーダー!」
三人の返事を聞き、ミクは扉を押し開けた。
ドーム状の広大な空間。その中央に、周囲の光をすべて吸い込むような漆黒の外套を纏った、四本腕の魔人が浮遊していた。
深層第40層の階層主――『深淵の刈り手』。
四つの手にはそれぞれ、触れるものを空間ごと切り裂くという巨大な大鎌が握られている。
『――命ノ、鼓動……刈リ取ロウ……』
地を這うような怨嗟の声と共に、アビス・リーパーの姿が「フッ」とブレた。
「速いッ! ガルド、上段!」
「おらぁぁぁッ!!」
ミクの叫びと同時、ガルドの真上に転移するように現れたリーパーの大鎌が振り下ろされる。
ドゴォォォォンッ!!
黒鉄の盾が悲鳴を上げ、ガルドの巨体が膝から崩れ落ちそうになる。先ほどまでの「余裕の防御」など欠片もない。一撃で盾ごと両断されかねない、規格外の重撃だ。
「ルカ、アリア! チャージ開始!!」
ミクはガルドの援護に回りながら、後衛に指示を飛ばした。
「同期開始……! アリア、私の魔力波長に合わせろ!」
「はいっ!」
二人が杖を構え、合体魔法の詠唱に入る。
その巨大な魔力の高まりに気づいたアビス・リーパーの、兜の奥の赤い双眸がギロリと後衛へと向けられた。
『……鬱陶シイ、光ダ……』
リーパーの四本腕のうち、二本がガルドを抑えつけ、残りの二本が――無防備に詠唱を続けるルカとアリアへと向けられた。
「させないわよッ! 『連斬』!」
ミクが双剣で鎌を弾こうと飛び込むが、リーパーの硬い外套に刃が滑り、軌道を逸らしきれない。
死を運ぶ漆黒の大鎌が、ルカとアリアの首を刎ね飛ばそうと迫る。
(……来る! 躱せ、ルカ、アリア!!)
ミクの心の中で、思わずエンジニアとしての計算が理性を裏切り、警告の悲鳴を上げた。
普通なら、回避行動を取らなければ確実に死ぬ距離。
しかし――。
ルカとアリアは、迫り来る大鎌を見ても、目を逸らさなかった。
恐怖に顔を引きつらせながらも、一切の防御行動を取らず、ただ互いの杖の先だけを見つめ、極限の集中力を切らさなかったのだ。
((――前衛を、信じる!!))
その絶対の信頼に応えるように。
「舐めるなぁぁぁぁッ!!」
膝をついていたはずのガルドが、自らの腕の筋肉を千切らんばかりの力で大盾を跳ね上げ、リーパーの拘束を強引に解除。そのままの勢いで、後衛へ迫っていた大鎌の側面に、渾身のシールドバッシュを叩き込んだ。
ガィィィィィンッ!!!
大鎌の軌道が数ミリ逸れ、ルカとアリアの鼻先を掠めて床を粉砕する。
完璧な防壁。絶対の守護。
「……テンポは揃った」
「今ですっ!!」
死の恐怖という最大のノイズを、「仲間への信頼」で完全に弾き返した瞬間。
二人の魔力が、深層の冷たい空気を焼き尽くすほどの熱量を持って、寸分の狂いもなく衝突した。
「「『水蒸気爆発』!!」」
深淵の死神の眼前に、極限まで高められた絶対の破壊が解き放たれようとしていた。
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