表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/101

第24話:信頼のプロトコルと、零(ゼロ)秒の「委ね」

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!



深層第32層。黒い岩肌が迷宮のように入り組んだ通路で、『トライ・リンク』の快進撃は続いていた。


「ガルド、左! アリア、足元の影を焼き払って!」

「応ッ!」

「はいっ! 『ファイア・ボルト』!」


ミクの指揮のもと、四人の通常連携は完璧だった。新調された装備のスペックも相まって、深層の魔物相手でも危なげなく、着実に階層を更新していく。


しかし、その安定感とは裏腹に、ミクの表情は晴れなかった。合体魔法の実戦テストは、依然として「成功率50%」という、システムとしては極めて不安定な状態(不安定なビルド)のままだったからだ。


「……また失敗ね。タイミングがコンマ数秒、後ろにズレているわ」


戦闘後、倒れ伏した魔物を前に、ミクは厳しい表情でログ(戦闘記録)を振り返るように呟いた。

ルカは不機嫌そうに杖を突き、アリアは申し訳なさそうに肩を落とす。


「……おかしいな。計算上、私の構成速度と彼女の詠唱は同期しているはずだ。だが、発動の瞬間にどうしても微かな『ノイズ』が混ざる」


ルカの言葉に、ミクは自身の動きを思い返した。


(ガルドの防御も、私の誘導も、完璧に『的』を作れている。なのに、なぜ二人の魔法が最後の一線で噛み合わないの……?)

ミクは二人の様子を観察し、ある「挙動ラグ」に気づいた。


魔物がガルドの盾を叩く瞬間、あるいはミクが敵の攻撃を紙一重でかわす瞬間。後衛の二人の視線が、一瞬だけ魔法から逸れ、前衛の「安全」を確認しようと動いているのだ。


「ルカ、アリア。……原因が分かったわ」


ミクは二人の前に立ち、静かに、だが断固とした口調で告げた。


「あなたたち、魔法を撃つ瞬間に、私たちのことを見てるでしょう?」


二人がハッとしたように顔を上げる。


「それは……前衛が押し込まれたら、詠唱を中断して防御に回らなきゃならないから……」

「そうだよ。ガルドさんやミクさんが危ないと思ったら、どうしても……」

「それが『ノイズ』よ」


ミクは二人の言葉を遮った。


「深層の合体魔法は、精神のすべてを魔法の同期シンクロに注ぎ込まなきゃ成功しない。それなのに、あなたたちは『私たちが突破されるかもしれない』という不安を抱えて、意識の数パーセントを防御に残している。……それが、コンマ数秒のラグを生んでいるのよ」

「……しかし、それはリスク管理として当然の判断だろう。前衛が崩れれば後衛は死ぬ」


ルカの合理的な反論に、今度はガルドが前に出た。


「ルカ、お前、俺を誰だと思ってんだ?」


ガルドはひしゃげた箇所一つない、黒鉄の大盾をドスンと床に置いた。


「俺はタンクだ。お前ら後衛に、指一本触れさせねえためにここに立ってる。俺が『大丈夫だ』って言ったら、たとえ目の前に火を吹くドラゴンがいようが、俺の背中は絶対に安全なんだよ」


ガルドの言葉に、ミクも頷き、双剣を鞘に納めて二人に歩み寄った。


信頼トラストの問題ね。……ルカ、アリア。あなたたちは、自分たちの魔法を完成させることだけを考えて。敵がどれだけ迫ろうと、私たちがどれだけ傷つこうと、一切、後ろを振り返らないで。……私たちを、100%信じて(フル・トラスト)」

「……後ろを、振り返らない……?」


アリアが震える声で繰り返す。


「そう。あなたたちが魔法に集中しすぎて、もし敵に殺されそうになっても……その時は、私たちの責任。……それくらいの覚悟で、自分たちの『機能』を完全に分離して(デカップリング)。前衛は防御と誘導に、後衛は破壊に。お互いの領域ドメインを、完全に信じて預けるの」


それは、技術論を超えた「パーティーとしての覚悟」の要求だった。

ルカはしばらく沈黙していたが、やがてフッと自嘲気味に笑った。


「……完璧主義者の私に、自分の命を他人に委ねろと言うのか。……全く、論理的ではない提案だ」


ルカは杖を強く握り直し、アリアの肩を叩いた。


「だが、お嬢さん。……システムを回すための最後のパッチが『信頼』だと言うなら、試してやる価値はありそうだ」

「……はい! 私、もう後ろは見ません。ミクさんとガルドさんを信じて、魔法だけに集中します!」


その直後。通路の奥から、さらに強力な魔物――『黒鋼の甲虫エボニー・ビートル』の群れが現れた。

今までの失敗を繰り返せば、全滅もあり得る強敵だ。


「テスト開始よ。……全システム、同期開始!」


ミクの声に応じ、ガルドが咆哮と共に前線へ躍り出た。


甲虫の鋭い鎌がガルドの盾を切り裂き、火花が散る。ミクもまた、死角から迫る敵を紙一重でいなし、敵を一点に集めていく。


「ルカ、アリア! 今よ!!」


二人の背後数メートルまで、別の魔物が迫っていた。

普通なら、恐怖で詠唱が乱れる。あるいは自衛のために回避に移る場面だ。


しかし、二人は動かなかった。背後の魔物の咆哮すら耳に入っていないかのように、ただ、杖の先に集中し、お互いの魔力波長だけを見つめていた。


((――信じてる。――任せたよ!!))

二人の意識が、かつてない純度で一つに溶け合う。


「「『水蒸気爆発スチーム・エクスプロージョン』!!」」


――ドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

これまでの失敗が嘘のような、完璧な衝撃波。

敵の装甲を無視し、内部から沸騰させて粉砕する純粋な破壊の奔流。


立ち込める蒸気の中、最後まで立ち続けていたのは、一切の傷を負わなかった二人の後衛と、その前に立ちはだかり、迫る敵をすべて叩き伏せていたミクとガルドの姿だった。


「……成功、ね」


蒸気の中で、ミクは静かに微笑んだ。


「ははっ……すげぇ威力だ……! 完璧だったぜ、お前ら!」


ガルドが親指を立てる。

ルカは肩で息をしながら、自分を守り抜いた前衛の背中を見つめ、静かに呟いた。


「……背中に目がついていないというのは、これほどまでに魔法に没頭できるものだったか」

「はい……! ミクさんとガルドさんが、本当に守ってくれるって、心から信じられたから……!」


アリアの瞳には、安堵と、新しい絆への確信が宿っていた。


技術と理論。そしてそれを繋ぐ「絶対的な信頼」。

『三律の連環トライ・リンク』は、深層という過酷な戦場を経て、ようやく一つの完成された生命体へと進化した。


もはや、彼らを止めるものは何もない。四人の鼓動が重なる時、その先に待つどんな強敵も、計算済みの障害に過ぎなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

ページ下部にある【ブックマークに追加】と、

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆のモチベーションが爆上がりします!


明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ