第104話:焦燥のオーバークロック(空回り)と、三者三様のエラーハンドリング
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【旧迷宮(レガシー環境)・第85層】
「くそっ、クソッ、クソォォォッ!! あの女、どうやってあの速度(処理)を出しやがった!?」
迷宮の壁を蹴り、残像を残しながら魔獣の群れを切り裂く『アニマルズ』のリーダー、ガロ。
しかし、その動きにはいつもの野生特有の滑らかさ(最適化されたルーティング)が欠けていた。酒場でミクに見せつけられた「指先一つの超機動」が脳裏に焼き付き、無意識のうちに自身の身体を限界以上にオーバークロックさせてしまっていたのだ。
「オラァッ!!」
ガロが力任せに手甲鉤を振り抜く。だが、速度を上げすぎたせいで踏み込みの座標が数ミリずれ、魔獣の反撃の爪が彼の肩を浅く掠めた。
「ガロ!! 焦らないで、動き(フレームレート)がブレてるわよ!!」
シオンが叫びながらカバーに入る。
「うるせえッ! 俺たちが一番速いはずなんだ! 機動力で負けたら、俺たちのシステムに価値はねえんだよ!!」
魔法を捨て、回避と速度に極振りした彼らのアーキテクチャは、一度リズムが崩れ(競合状態に陥り)被弾し始めると、途端に脆さを露呈する。
圧倒的な格上の存在を突きつけられた焦りが、彼らの長所である『直感(野生)』を濁らせ、無駄なリソースを消費する致命的な『空回り(スラッシング現象)』を引き起こしていた。
* * *
【旧迷宮(レガシー環境)・第90層】
「チッ……! ハッタリだ、あんなのはただのハッタリだ!!」
さらに深層。
『魔剣神』の魔剣士マルコは、苛立ちを隠せないまま、炎の魔力を剣に注ぎ込んでいた。
酒場で感じた、あのガストンの大盾の『異常な質量(アクセス拒否)』。自分の最大火力をぶつけても傷一つ付けられないのではないかという恐怖(エラー予測)が、彼のプライドを激しく逆撫でしていた。
「ドーガ! もっと敵をまとめろ(トラフィックを集中させろ)!! さっさとブッ飛ばして次に行くぞ!!」
「リ、リーダー! 今日はチャージのペースが荒い(不安定だ)ぞ! 俺の盾の角度が保てねえ!」
マルコの苛立ちは、パーティー全体のタイミング(同期処理)に微小なズレを生じさせていた。
タンクであるドーガが支える大盾に、通常以上の負荷がガンガンと削りを入れる。後衛の回復魔法もギリギリの自転車操業だ。
「うるせえ、俺の魔剣(火力)を信じろ!! 吹き飛べェェッ!!」
ズガァァァァァンッ!!
マルコが強引に放ったバッチ処理(極大魔法剣)が、ボスモンスターを吹き飛ばす。
結果として第90層はクリアできた。しかし、その陣形はいつものような美しいウォーターフォールではなく、エラーと警告ログを無視して強引にコンパイルを通したような、非常に危うい勝利だった。
「ハァ、ハァ……。見たか、俺たちの火力は最強だ……!」
マルコは荒い息を吐きながら、強がるように魔剣を鞘に収めた。
多少のイラつき(ノイズ)を抱えながらも、彼らは立ち止まるわけにはいかない。第99層に到達し、自分たちの仕様こそが正解であると証明しなければ、あの酒場での屈辱(オーバースペックの余韻)を振り払うことはできないからだ。
* * *
【迷宮都市・冒険者ギルド VIPルーム】
対照的に、最も冷静に『三律の連環』の異常性を受け止めていたのは、『氷炎の魔女』ファイリールだった。
彼女はギルドの個室で、優雅に紅茶を傾けながら、手元の羊皮紙にペンを走らせていた。
「……私の最大魔力量が『100』だとして、あのユリウスという男の帯域幅は、少なく見積もっても『500』。アリアやルカでさえ『300』は超えていたわね」
ファイリールは、悔しがることも、焦ることもなかった。
ただ冷徹に、自分と相手とのスペック差を『数値』として割り出し、現状のシステムにおける敗北を客観的な事実として受け入れていた。
「感情でエラーを無視しても、システムは成長しないわ。圧倒的な差があるなら、それを埋めるためのインフラ改修を行うだけよ」
彼女は、ボロボロになって待機している前衛たち(スレーブノード)を一瞥した。
「あなたたち、今日でクビ(プロセス破棄)よ。退職金(ポーション代)は弾むから、さっさとギルドから出て行きなさい」
「えっ……!? ふ、ファイリール様!」
「聞こえなかったの? 今の私の魔法出力では『三律の連環』には届かない。魔力帯域を拡張する間、さらに長時間の詠唱が必要になるわ。あなたたちの耐久力(装甲)では、私の足手まといになるのよ」
容赦のない切り捨て。
ファイリールはすでに、より強靭な肉の盾(高耐久ハードウェア)の再調達と、自身の魔法圧縮アルゴリズムの根本的なリファクタリングへと、完全に思考を切り替えていた。
(待っていなさい、『三律の連環』。私が完璧なマスターノードとして君臨するためのベンチマークとして、あなたたちのその規格外のステータス……存分に利用させてもらうわ)
◆自らのスピードを見失い、焦燥に駆られて空回りする『野生』。
◆苛立ちを火力で塗り潰し、強引に深層へと突き進む『意地(魔剣神)』。
◆事実を冷静に分析し、冷酷にシステムの再構築を図る『氷炎』。
『三律の連環』という巨大なバグキャラが見せつけた王者の余裕は、覇権を争う三組のアーキテクチャに、三者三様の深刻な影響を及ぼしながら、迷宮都市のパワーバランスを静かに狂わせていくのだった。
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