第103話:ハードウェアの個体差と、非同期化するアップデート進行
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【真・ダンジョン トレーニングルーム】
地道なエージング作業(慣らし期間)を経て、ミクの内臓はついに2.1倍のプレッシャーを完全に克服した。
そして、それぞれの段階を着実にクリアしてきた『三律の連環』の七人は、次なる過負荷環境へのステップを踏み出そうとしていた。
「設定を更新するわ。私のプロファイルは【2.5倍】。そして……他の六人は、ついに大台突破の【2.1倍】よ」
ミクがコンソールを操作し、実行キーを叩く。
空間全体に重力の負荷パッチが適用された瞬間、六人の身体に、2.0倍の閾値を超えた「内臓を押し潰すプレッシャー」が襲いかかった。
「ぐぅッ……! な、なんだこりゃあ……。胃袋が床に引っ張られてるみてえだ……!」
ガストンが顔をしかめ、腹を押さえる。
「……フシューッ。確かに、筋肉じゃどうにもならねえ重み(内臓へのDDoS攻撃)だな」
ガルドも太い息を吐き出した。
だが――ミクが以前2.1倍に直面した時に感じた「呼吸すら困難になるほどの激痛」に比べると、前衛組の三人(ガストン、ガルド、ヴァレリア)の反応は、思いのほか軽いものだった。
「あれ……? あんたたち、意外と普通に立ってられるのね」
ミクが2.5倍の極圧環境の中から、不思議そうに声をかける。
「ガハハッ! そりゃあ内臓は気持ち悪ィけどよ、アタシらの骨格と分厚い筋肉(筐体)が、ある程度プレッシャーを吸収してくれてるみたいだね!」
ヴァレリアが、重力に逆らって胸を張り、大斧を担ぎ直した。
ミクは納得した。巨漢である彼らの肉体は、元々尋常ではない厚みの筋肉と強靭な骨格で覆われている。その強固な物理装甲(ハードウェアの厚み)が、重力による内臓への直接的な圧力をある程度和らげる「ショックアブソーバー」として機能しているのだ。
しかし、前衛組の堅牢な筐体設計とは対照的に、全く別の深刻なエラーを吐き出している者たちがいた。
「がっ……、ぁ……っ!!」
「ルカさん!!」
後衛組であるルカが、膝から崩れ落ちて激しく咳き込んでいた。
その隣で、ユリウスとアリアも杖を杖代わりにして必死に身体を支えているが、二人の顔面は血の気が引き、土気色(致命的エラーの色)に染まっている。
「……息、が……吸えな、い……っ」
アリアが胸を強く押さえ、苦痛に顔を歪ませる。
「魔法組……っ!!」
ミクは息を呑んだ。
日頃から魔力の扱いに特化し、物理的な筋力や骨格の厚みを持たない魔法組(サーバー用筐体ではない設計)にとって、2.0倍の壁を超えた内臓へのプレッシャーは、ミクが感じたそれの比ではなかったのだ。
薄い筋肉の装甲を容易く貫通した超重力が、彼らの心臓や肺といったコア・コンポーネントを直接押し潰しにかかっている。
「ユリウス、無理しないで! 一度設定を下げ……」
「……いや、下げる必要はない(ロールバックは不要だ)……」
ユリウスが、震える足で立ち上がり、ミクを手で制した。
「……肉体の個体差(スペック差)で、適応に時間がかかるのは当然だ。だが、この大台(2.1倍)を乗り越えなければ、アース・エリアの後半戦を生き残ることは絶対にできない……。私たちも、意地でこの負荷に『慣れて』みせるさ」
「……分かったわ。ただし、HP(生体モニター)の管理は厳重にね」
こうして、同じ【2.1倍】の空間にありながら、前衛組と後衛組の間で、適応速度(コンパイル時間)に明確な差が生まれ始めた。
* * *
数日後。
基礎的なハードウェア性能が高い前衛組の三人は、後衛組が呼吸を整えることに苦労している間に、早々と2.1倍の重力下での「内臓のエージング(慣らし)」を完了させてしまった。
「よし、アタシらの内臓は完全に2.1倍の環境に適応したよ! 筋肉の方もバリバリだ!」
ヴァレリアが大斧を軽快に振り回し、動作テスト(ユニットテスト)のクリアを宣言する。
「ああ。これなら次の重力にも進めるぜ」
ガストンたちも余裕の表情だ。
一方、後衛組の三人は、ようやく2.1倍の空間で「通常通りに呼吸をし、魔力を練る」ことができるレベルに達したところだった。完全に適応するには、まだ少し時間がかかる。
「仕方ないわね。ここからは、パーティー全員の足並みを揃える(同期処理する)のは非効率だわ。個別のスペックに合わせて、非同期でアップデート(進捗)を回していくわよ」
ミクがコンソールを操作し、トレーニングルームの環境変数を三つの階層に分割して再設定した。
『――個別プロファイルの更新を完了しました』
『ユーザー:ミク 【2.7倍】』
『ユーザー:ヴァレリア、ガストン、ガルド 【2.5倍】』
『ユーザー:ユリウス、アリア、ルカ 【2.3倍】』
「さて、ここからが本当の地獄よ」
【2.7倍】という、もはや岩石すらも自重で崩れそうな異常重力の中心で。
ミクは鉛のように重い双剣を構え、汗にまみれた顔で不敵に笑った。
「前衛組は2.5倍の圧力に耐える筋肉の再構築を! 後衛組は2.3倍での魔力詠唱の最適化を! 全員、自分の限界ギリギリの負荷でシステムを回し続けるわよ!!」
「おうッ!!」
「……了解、しました……ッ!」
巨漢の前衛組が2.5倍の空間で荒々しく武器を振り、魔法組が2.3倍の空間で歯を食いしばりながら魔力を練る。
そしてミクは、最も過酷な2.7倍の極圧下で、次なる階層の理不尽を切り裂くための超高速機動をひたすらに研ぎ澄ませていく。
焦らず、着実に。
『三律の連環』のハードウェアは、個々の特性に合わせた最適なチューニングによって、真・ダンジョンを攻略するための「本物のバグキャラ」へと、泥臭く進化を続けていた。
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