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エトランゼ 4

2人はまず靴を脱ぐと、それを持っていた袋に入れた。

次にポケットからスプレー缶を取り出したカクゲンが、ドアノブの根元とドア上部の金具にそれを吹き掛ける。

シューッ!!

そしてゆっくりとドアノブを下げ……

緩和され、更にそろりと開く扉は、先ほどのようなぎこちない音を立てない。

アオとカクゲンも気配を忍ばせて、ゆっくりと家の中に入って行く。

「「………」」

シャワー音の出どころは、正面の階段の向こう側。

アオが黙ったまま2階を指差すと、それにカクゲンがこくりと頷いた。

2人は1階と2階に分かれ、部屋を物色し始める。

暗闇には慣れている。

アオは居間のドアを開け、そっと中へ踏み込んだ。

黒い金で、立派なもんじゃのぅ…。

大きな家。

高価な調度品。

手袋を嵌め、まずはタンスから。

細々としたいろんなものが乱雑に放り込まれている引き出しには、目的のものは入っていない。

タンスを諦め、今度はソファの下へ。

……しかしまー、クサイ家じゃ。

掃除しとらんのか?

深呼吸が邪魔になるほどの気分を覚えながら、部屋を散らかさぬよう物を剥がして行く。

歩を進めると一度、フローリングの軋む音が僅かに漏れた。

まだ出てくるなよ……万全でやりたいけぇのぅ…。

シャワーの音はすでに聞こえて来ない。

怪しい場所は調べてみたが、なかなか目的のものは見つからない。

「フーッ…」

溜息が出たのは、意外と手間取っていることへのむずかり。

確か、隣の部屋はあいつの趣味の部屋じゃったのぅ…。

アオは居間を出て廊下を横切り、隣の部屋のドアを慎重に開けてみる。

が、中を見て驚いた。

……何じゃ、この部屋は。

暗い中でもよく分かる、その散らかりよう。

話が違うで。

こん中から探せってか…!?

げんなりしながらアオが1歩踏み出した、その時だった。

背後のドアが勢い良く、

バタンッ!!

瞬時に振り返るアオ。

「ほらあッ!!いると思った!!!」

低い大声と同時に、細長い何かが振り下ろされるのが目に入った。

認識した瞬間に頭を下げて前転し、それをかわす。

バキバキと何かを踏む音は、自分の立てた音。

ドスッ!という鈍い音は、こちらからは判断できない影が立てた音。

「ッ!!」

アオの残像を追うように、その棒は再び空を切り、今度はバキッと音を鳴らして壁を叩く。

「○○○のモンが!!」

影が叫んだ。

「………」

何と騒がれようが意に介さず、アオは表情すら変えはしない。

「どうなんだよッ!○○○かお前!!」

顔も見られたくなければ、声も聞かれたくはなかった。

だがここまで来ると、もうその必要はない。

ここで眠ってもらう以外に方法はないのだから。

確か、カメラはない言うとったが……。

アオは一瞬で部屋の八方を見渡し、それから、

「……フーッ……じゃあ、ソレで」

「ああ!!?」

「○○○でエエ言うとるんじゃ」

その声は、いつもよりも数段に静かなもの。

「アア~~ッ?!1人で乗り込んで来たってかあッ!ウチのモンが黙ってねぇぞ!!」

「……ほうね」

影は体から湯気を上げながら、棒を振るう。

床や壁、天井がバキバキと派手な音を立て、しかしそれも気にすることなく、縦横無尽に暴れまくる。

アオはそれを上下左右に器用に避けながらも、途中影の光る視線がちらりと左に動いたのを見逃さなかった。

「ハアッ!ハアッ!ハ……ッ」

荒い息遣いは影だけのもの。

それが振り回す棒はことごとく空を切り、アオの体を掠りもしない。

ガンッ!!

バキバキバキッ!!

ボスッ!

影は棒を回しながら、徐々に左にある机の方へと近づいて行く。

「ああッ!?ナメんじゃねぇぞ!!ウチと張り合おうってかぁ!!ああ!?」

「………」

影は怒鳴り散らしながら机に到達すると、持っていた棒をアオに向かって投げつけた。

それはアオの右腕によって振り払われ、キンッ!という金属音を鳴らして床に転がり落ちる。

暗い中、影が机の引き出しに飛びついた。

何とか開けようと両手を掛けるが、焦っているのか、それはガタガタと音を立てるばかりで上手く開かない。

「……ハーッ!ハーッ!…クソッ!!」

ちらちらとこちらを窺いながら大きな体を丸めて目先の手を動かす姿は、シルエットだけでも滑稽なもの。

そこで、パチッという音とともに辺りが明るくなった。

照明の紐を引いたのはアオ。

それに驚き、振り返る影。

―――― 2人にとっての、的。

「……は?お前、誰だ!?○○○のモンか?知らねぇぞ!?」

素っ頓狂な声を上げた的は、丸裸だった。

アオは殊更ゆっくりと、的に向き直る。

「……知らんか?まぁエエじゃないか、もう何も考えんで。……のう?」

「何を言っ……何だお前……ッ!?」

正体不明に怯えた的は、見極めようとアオを凝視している。

でっぷりとした腹をこちらに突き出し、訳が分からないといった表情で。

状況把握にそれどころではなくなったのか、引き出しを弄る行為は止めていた。

的の事情など知らないが、動きを止めたとなると大変に仕事がやりやすい。

アオは呆れたように的を見遣る。

何と間抜けなことだろう。

この時点でも、今から自分に起こることへの想定も、顰める表情も見受けられないとは。

「アンタぁ、ワシらの的なんよ。観念してくれぇや」

「的?お前誰だ!?」

「…ったく、誰でも良かろう。知ってどうするんじゃ」

アオはそう応え、右腕の袖を捲り上げた。

その拳から肘の手前までは、銀色に光る鉄で覆われている。

「まったく鈍臭い奴じゃ。ワシらに気付かんかったら、万が一にも生きとれたかもしれんのに…」

「ハアッ!?」

「ハアッって!それが最後でエエんじゃの?……行くで」

それを合図に、アオは一気に的の懐に入り込み、右拳を顎下から打ち上げた。

ゴキッ!!

骨を砕く、鈍い音。

的にとっては何をする時間もなかった。

一瞬後、的は力なくその場に崩れ落ちる。

ドサリッ!!

その体の下で、バキバキッと何かが壊れる小さな音。

「……やれやれ」

美醜で例えるならば、醜。

この光景の中心にいる自分に、毎度舌を出す思いがする。

「……チッ!血が出たわい。掃除が面倒じゃ」

これは自分への言い訳なのだろう。

男は素っ裸の魯鈍な格好で完全に顎が上がり、不自然なほどに後頭部を背中に倒して横たわっていた。

……連れ出して、外で消す予定じゃったのにのぅ。

口から血を流した男を見て、もう一度やれやれと溜息を吐く。

そこへ、2階にいたカクゲンが物音を聞きつけ、部屋に入ってきた。

「……仕留めた?」

「おう」

まるで蝸牛のように横たわる的を、しばらく2人で見下ろしたまま。

「「………」」

専制であろうがなかろうが、ここに立っているのは我ら2人。

中産階級で何かの部品でも作っていたい、……そう考えたのは、遠い日の愛。


……聞こえとるか?

心を怖れちゃぁいけんのんじゃ。……ワシらはの。

それが、さだめなんじゃ。

素晴らしい明日は、まだ見れそうもないのぅ…。

愁いに任せて飛んでみるんもエエかもしれん。

抽象はワシらの宿命じゃ。

今は思えんでも、そのうち道標の方が踊るじゃろう。


「まぁ……やってしもうたんじゃ、しょうがないわい。掃除は後じゃ。アレを探すでェ」

「………」

アオの言葉で、2人はその部屋を端から物色し始めた。

邪魔な的は、取り合えず廊下に引き摺り出しておく。

的が所構わずゴルフクラブを振り回したお陰で、部屋はより一層収拾のつかないものになっており、足の踏み場もない。

「しかし何じゃ、この部屋は!おもちゃでいっぱいじゃんか!コイツ、子供なんかおらんじゃろ!」

「……マニアさ。リストに書いてただろ」

「そうだったかいのぅ?」

ごった返した部屋には沢山のプラモデルなどが飾られ、その空き箱などが部屋中に散乱している。

アオと的が踏み潰したプラスチックの破片も、そこら中に跳ね返っている。

それを飛び越え、アオは先ほど的が執拗に開けようとした引き出しを探ってみた。

案の定、中からは1丁の飛び道具。

更にその奥を探ると、いくつかの弾丸。

「……ふん」

その時、

「……あったよ」

「!ほんまか!」

タンスの上のプラモデルの箱を漁っていたカクゲンが、その中身をアオに見せた。

そこにはぎっしりと詰まった紙幣。

新しい綺麗なお札から、何度も人の手を渡り歩いたであろうお札まで。

「ハハッ!キレイな、キタネエ金じゃ」

「………」

それらの紙幣は、空き箱15個に振り分けられていた。

恐らく15個。

いくら隠されているのかは聞いていないので、2人はここで一度手を止める。

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