ウェスティア村
村に到着した時には、既に戦闘は始まっていた。
どうやら村に在住していたらしい冒険者達がなんとか戦ってくれてはいるが、大量の魔物の前では焼け石に水。
あの調子じゃそう長くは持たないだろう。
無属性の探知魔法、『探査』を使い周囲の魔物反応を探知。
魔物の数は……余裕で百は超えてるな。
「セレスティア」
「はい、お任せをッ!」
俺の言葉を聞いたセレスティアが、そのまま応戦をしている冒険者達の下へと駆けていく。
彼女の一刀がオークの首をスパンと断ち斬ったのを確認しながら、俺は地面を蹴った。
森の中には、今にも飛び出しそうなほどに魔物が溢れていた。
巨大な二つ頭の狼であるダブルウルフや、ギザギザと鋭い牙を生やしたイノシシであるリップソウボアーなど、Bランククラスの魔物がゴロゴロいる。
村にやってきていたのはEランクの魔物がほとんどだった。
おそらくは最初は低ランクの魔物が高ランクの魔物達に追い立てられる形で、玉突き事故のように移動を行っているんだろう。
こいつらが全員村へ向かえば、さすがのセレスティアであっても守り切ることはできないだろう。
「さっさと仕留めるか」
目を閉じ、精神を集中させる。
『探査』の魔法で把握した魔物の位置に、脳内で一つ一つピンを刺していく。
魔法の多重起動は脳の処理能力を使うから、あんまり連発したくないんだが……そんなことを言ってられる状況でもないしな。
『多重元素分解』
超級魔法である『元素分解』を複数箇所に同時発生させる『多重元素分解』を使うと、視界に移る魔物達がさらさらと砂の粒子になって消えていく。
俺が一度で倒せる魔物は二十体前後。
奥の方にいる個体までを倒しきるには、合わせて十二回ほど魔法を使う必要があった。
「さすがに……ちょっとしんどいな」
魔法の使いすぎと脳の酷使で出てきた鼻血を拭き、再度『探査』の魔法を発動させる。
……よし、魔物は完璧に殲滅できたな。
これで後は村の状況を確認するだけだ。
村へ戻ると、既に土魔法で作っていた即席のバリケードは突破され、中央広場でセレスティアが冒険者達を率い、魔物達相手に乱闘を繰り広げていた。
どうやら魔物寄せの香を使っているらしく、魔物達は目を血走らせながらセレスティア目掛けて飛びかかっている。
「――シッ!」
銀色の髪が風に舞い、鈍く重い輝きが魔物の命を刈り取っていく。
剣閃が走る度に魔物が血を噴き出しながら倒れていき、大量の魔物に囲まれながらも見事に戦いを続けている。
一撃で倒せない相手はしっかり足を傷つけてからトドメをさしており、状況判断も完璧だ。 六年前、初めて見た時とは比べものにならないほどに美しい、見事な剣技だった。
だが既にある程度高ランクの魔物もやってきているらしく、中にはCランクやBランクの魔物がゴロゴロと混じり始めていた。
「GUAAAAA!!」
一つ目の巨人、サイクロプスの一撃を受けたセレスティアの顔が顰められる。
完全に攻撃の衝撃を殺しきることができず、どこかを炒めたらしい。
「KISYAAAA!!」
そしてその隙を衝く形で、炎を吐き出す大蜥蜴であるフレアリザードの火炎放射が放たれる。
身体を反らして攻撃を避けフレアリザードの首を一閃で打ち落ちしたセレスティアだったが、無理な機動をしたことで足下がふらつきその場に崩れ落ちそうになる。
トドメをさしきれていなかったサイクロプスの棍棒の棍棒が彼女に振り下ろされ……
「よく頑張ったな、セレスティア」
俺が発動させた『多重元素分解』によって、持ち主のサイクロプスごと分解されて粒子となって消えていく。
「レ、レオンハルト様!」
「セレスティア、無事か?」
「はい! ですが……申し訳ありません。恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
どうやら彼女は、自分一人で魔物を倒しきれなかったことを悔やんでいるようだ。
唇をキツく噛みしめている彼女を見て、やれやれと嘆息する。
「何を言ってるんだ、セレスティア」
俺はぐるりと周囲を見渡した。
魔物によって家屋は倒壊し、畑は踏み荒らされている。
けれどこの場に、血を流し倒れている村人は一人もいない。
「お前が守ったんだろ……この村の人達を」
「ですが……」
まだ納得していない様子のセレスティアの頭を、強情だなと軽く小突く。
「あだっ!?」
「俺が森の魔物を倒して、お前が村の皆を守った……だから全員、助けられた。俺一人じゃ、こうはいかなかったよ」
『多重元素分解』は発動までに時間がかかるし、連発ができない。
もし俺が村で防衛戦に参加していたとしたら、森からやってくる魔物を犠牲なく処理できていたかは怪しいところだと思う。
「私は……お役に、立てたのでしょうか?」
「もちろん……言っただろ」
セレスティアは強くなった。
俺が頼ってもいいと、思えるくらいに。
「俺の背中は、お前に任せたってな」
「……っ! レオン、ハルト様……」
セレスティアの目に涙が貯まっていき、彼女はその場に膝立ちになると、声を殺しながら泣き始める。
「……ぅっ……」
嗚咽を押し殺しながら泣く彼女を、俺はそっと抱きしめてなだめることしかできなかった。 女の子が泣き出した時は、こうやって側に寄り添ってあげるのが一番いい。
セレスティアは涙を拭うと、再びその場に立ち上がった。
凜々しい雰囲気を身に纏う彼女は、なんだか以前より活力が増したような気がする。
湿っぽい雰囲気を振り払うため、俺は話題を変えることにした。
「そうだ、独立後の護衛隊の隊長は、セレスティアに任せたいと思ってるんだ」
「私に……ですか?」
「ああ、俺が一番信頼できる騎士はお前だからさ。どうだ、受けてくれるか?」
セレスティアはその場で瞑目し、しばらく感じ入るように口を噤んでいた。
そしてこちらに深々と頭を下げながら、
「この命に代えても……」
「命は懸けなくていいからな?」
本当に一所懸命とかをやり出しそうなセレスティアを宥めながら苦笑する。
こんな風に真面目な彼女だからこそ、俺も安心して背中を預けられる。
これからも頼りにしてるぜ、セレスティア。
さて、そうしたらイレギュラーはあったけど……ウェスティア村の視察の方に移っていくか。
俺の理想のセカンドライフができるかどうか、しっかり見定めさせてもらおうじゃないか。




