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【連載版】悪役貴族に転生したので破滅エンドを避けるために継承権を放棄したら、激重感情の美少女家臣達が曇り始めた  作者: しんこせい


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3/8

全力


 公爵家の継承権を放棄できた俺は、さっそく独立先の候補地を探していくことにした。


 もっとも、継承権を放棄したからといって家名を捨てるわけではない。

 母上からもしばらくは公爵領内に住むよう言われているし、あくまでも視察に留めておくつもりだ。


 俺はまだ十六歳。

 ぶっちゃけ鍛えに鍛えたおかげで『七つの聖剣』の最強格である聖剣持ちのネームドキャラにも勝てるくらいの実力はあると思うが、俺はあくまで腕っ節がいい子供でしかないからな。


「ご希望に関しては以前と同じで問題ございませんか?」


 そう言いながら秘書として続投してくれているクロエが手元の資料をめくる。

 俺の秘書をしてくれている彼女に答えながら、俺は馬車の窓から空を見つめていた。


「ああ、森と川が近くにあって、狩りや釣りをしながらのんびり暮らせる場所がいいな」


 この十年間、俺はほとんど休むことなく自分を鍛え続けている。

 ぶっちゃけた話相当疲れたし、年寄り臭いがのんびりとできるような場所で暮らせたらいいなぁと思う。


「それでしたら、後一時間ほどでつくウェスティア村に、条件に合う土地がございます」


 クロエがページを括る手を止め、びっしりと書き込みの入った資料をこちらに見せてくる。


 何々、周囲にいくつか小さな村があって、公爵家の領都までもそんなに離れていないと……。


 利便性はさほど高くなさそうだけど、気合い入れて走れば一時間もすれば領都まで来れるだろうし。

 正に俺がイメージする片田舎のど真ん中だ、さすがクロエ、俺の好みをよくわかってる。


「静かそうでいいな」


「こちらは現在公爵家の直轄地になっておりますので、奥様の許可が得られれば問題なく住めるようになるかと」


「見て良さそうだったら、母上に聞いてみるよ」


「承知致しました。ちなみに移住に際して必要な、屋敷の登記を始めとした各種書類はこちらで用意しておきますので」


「おぉ……」


 クロエの頼もしさが天元突破している。


 俺は書類系はめちゃくちゃ苦手なので非常に助かる。

 クロエがいなければ多分、まともに物件を探すこともできず適当に調べたクソ田舎で延々と自然と戯れることになっていただろう。


「めちゃくちゃ助かるよ」


「……もったいないお言葉です」


 クロエはこちらを向くと、ゆっくりと頭を下げた。

 頼られることが嬉しいからか、少しだけ耳の先が赤くなっている。


「レオンハルト様、道中の護衛はお任せ下さい」


「ああ、頼りにしてるぞ、セレスティア」


「はい!」


 にこやかだったクロエの笑みがぴしりと固まり、セレスティアが対抗するように胸を張る。


 今朝の稽古でも思ったが、彼女は本当に真面目だ。

 六年前の初めて会った時からずっと変わらず、今でも俺より早く起きて剣を振り続けている。


 あの時は身体強化が使えずに力押ししてくるやつらに負けていたが、俺がしっかりと鍛えたおかげで今では才能も開花。


 騎士団でも上位に食い込めるくらいの実力者になっている。

 ……まあ俺についてくるってことで、騎士団は辞めちゃったんだけどな。


「……ん?」


 俺の第六感が、妙な気配を捕らえた。

 探知魔法を使い確かめてみると馬車の進行方向、街道から少し外れた森の中に大きめな魔力反応がある。


「レオンハルト様!」


「ああ……森の中に、何かいるな」


 セレスティアが表情を引き締め剣を握った次の瞬間、御者の悲鳴と共に魔物の叫び声が轟いた。


「馬を抑えてくれ!」


 慌てて飛び出そうとする馬を宥める御者の向こう側から、巨大な魔物が姿を現した。


 体長はおよそ十メートルはあるだろうか。

 全身が黒い鱗に覆われ、やや前のめりになった二足歩行の化け物だ。

 頭部からは巨大な角が生えており、その口からは鋭い牙が覗いている。

 口から吐き出す吐息から黒い魔力が漏れ出していた。


「あれは……ベヒモスか」


「ベヒモスですか!?」


 ベヒモスは『七つの聖剣』の世界において、終盤にかけて出現するモンスターだ。

 冒険者ランクはAであり、騎士団が中隊規模であたって討伐を行う魔物となっている。


 危険地帯にしか出ないような魔物なんだが……街道にこんなのが出れば、普通の旅人はひとたまりもない。


「レオンハルト様、お下がり下さい!」


 セレスティアが剣を抜きながら飛び出していく。

 その動きには一切の迷いがない。


 クロエは震えながらもいざという時は身代わりになろうと、覚悟が決まった顔をしながら俺の前へと飛び出していく。


「……安心しろ」


 このまま放置していれば、公爵領に甚大な被害を出すだろう。

 そんなやつを野放しにできるほど、俺は神経が太くない。


 馬車の幌を開き、片手を突き出す。

 発動させるのは俺の最大にして最強の魔法。


「『元素分解』(ディスインテグレイト)」


 魔法が発動した次の瞬間。

 ベヒモスの巨体はさらさらと音を立て灰になって消えていった。


「な……」


「は……?」


 セレスティアもクロエも、そして御者も、全員フリーズしてしまっていた。


「よし、問題ないな」


 対象を原子レベルにまで分解する俺の必殺魔法。

 威力は凄まじいが周囲に影響がなくて済むので、魔法戦闘においては俺が非常に重宝している魔法である。


 馬車も無事で、街道にも傷一つついていない。

 うん、やっぱり便利な魔法だ。


「……レオンハルト様」


「どうかしたか?」


 セレスティアが、ゼンマイ人形のようにギギギとこちらに首を向ける。


「今の魔法は?」


「俺が使える超級魔法の『元素分解』だな。対象を指定してそいつの身体の構造を魔力で崩す魔法だ」


「ちょ、超級魔法!?」


「あれ、セレスティアは知らなかったっけ?」


 この世界の魔法は初級・中級・上級・超級の四つに分かれている。

 俺は基本的に全属性の魔法を超級で使うことができる。


「……私も、初耳です。レオンハルト様は超級魔法を使うことができるのですか?」


「ああ、一応全属性できるぞ」


「全属性で、超級魔法を……?」


 俺の言葉に、クロエは言葉を失い呆然とその場に立ち尽くしていた。


 この世界の魔法は火・水・風・土・光・闇・無の七属性に分かれている。


 前までは三属性しか使えなかったんだが、前世の記憶を取り戻してからは七属性全てを使うことができるようになった。


 魔法に最も大切なのはイメージ力。

 前世の科学知識やゲームや漫画で強固なイメージを持っているのが大きいんだろう。


 そしてそれらを極めた結果、全ての属性で超級魔法をつかうことができるようになったのだ。


 まあ超級魔法って終盤のラスボス戦ではほぼ必須だからな。

 使える程度では大したことはないと思ってたが……


「レオンハルト様……凄すぎます」


「さすがはレオンハルト様です……私の評価は、まだまだ過小だったようですね……」


 二人の反応を見る限り、どうやら超級魔法が使えるというのは相当にすごいことらしい。

 他人からどう評価されるかなんて気にせずにひたすら鍛え続けてたからなぁ。

 この辺りのギャップは、後々しっかり直していきたいところだ。


「セレスティア、ごめんな。お前の活躍の機会を奪ってしまった」


「いえ、そんなことは……」


 少しだけ物足りなさそうな顔をしていた彼女にフォローを入れておく。


「たかがAランクの魔物に、万が一にもお前を失いたくはないからな」


「レオンハルト様……ありがとうございます。騎士としては失格ですが……その、とても、嬉しいです」


 そう言ってはにかむ彼女を見て、俺も釣られて笑う。

 やっぱりセレスティアは笑っている方が魅力的だ。


 今から六年前、セレスティアと出会った時のことを思い出す。

 彼女の剣の腕は、同年代の中ではピカイチだった。

 ただ彼女は、戦い方を知らなかっただけだ。


 動きを読むのも上手ければ反射、反応の速度も速い。

 身体強化を使ってある程度の膂力を手に入れれば間違いなく化けるという確信があった。


 彼女は俺の護衛見習いとして教えを請い、数年の後に公爵家の騎士団員と戦っても勝利を収めることができるほどの強さになった。


『やったな、セレスティア!』


『……はいっ!』


 あの時の笑顔を見た時に、俺は思ったのだ。

 いつか彼女は、俺の背中を任せられるような騎士になるだろうってな。


「とりあえず魔法で消しちゃったから素材も残ってないし、ひとまずこのまま目的の村に……」


「た、助けて下さいっ!」


 そのまま馬車行を再開させようと思っていると街道の向こう側から、一人の少女が走ってくる。

 服は泥だらけで、脇目も振らずに走るその顔はあまりにも切迫していた。


「村が……村が森から出てきた魔物の群れに襲われているんです!」


 多分あのベヒモスから逃れるために、魔物達が大移動をしたんだろうな。

 森の魔物達が大挙して押し寄せてきたとなれば、小さな村ではひとたまりもないだろう。


「クロエ、近くにある村は?」


「いくつかございますが……ウェスティア村でしょうか? コイイ村でしょうか?」


「ウェ、ウェスティア村です!」


 なんと彼女は、俺がこれから住もうかと考えている村の住民だったらしい。

 そういうことなら話は早い。

 案内してもらおうじゃないか……俺のセカンドライフの予定地に。


「よし、案内を頼む。助けに行こう」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ、せっかくの安息の地を魔物なんぞに潰されてたまるか」


 俺が向き直ると、先ほどまで呆然としていたセレスティアは戦士の顔に戻っていた。


「セレスティアはそのまま住民の避難を頼む。俺は先に森に向かって魔物の処理に移る」


「はっ、承知致しました!」


「頼んだぞ……期待している」


 俺の言葉に、セレスティアの表情が揺れる。

 彼女なら大丈夫だ。俺が魔物を皆殺しにするまで、きっちりと全員を守ってみせるだろう。

 安住の地を襲おうとする魔物共は、俺が片付けてやる。

 久しぶりに出すか……全力ってやつをな。

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