第七章 国王、ご来店
新メニューが評判になると、今度は思わぬ客が現れた。
「国王陛下が本日いらっしゃいます」
朝一番、近衛騎士が店へ来た。
蓮は蕎麦粉をこねる手を止めた。
「何で?」
「食事に」
「それは分かる」
「勇者様の店が評判なので、ぜひ一度と」
クレールが笑った。
「いいじゃない」
「よくない。絶対騒ぎになる」
その予想は正しかった。
昼前。
近衛騎士が十数人。
侍従。
毒見役。
王宮料理人。
店の前が埋め尽くされる。
「帰ってください」
蓮は騎士団長へ言った。
「しかし陛下の安全が」
「店が入れない」
「ですが」
「陛下一人で入ってもらってください」
「勇者様!」
押し問答の末、国王本人が馬車から降りた。
「蓮。余はただ食事に来ただけなのだが」
「なら普通に来てくださいよ」
「普通に来たつもりなのだが」
後ろに騎士が二十人いる。
普通ではない。
結局、護衛二人だけを残して店へ入ることになった。
すでに昼時なので満席。
「席がありません」
侍従が青ざめた。
「お待ちください、すぐに庶民を――」
「追い出すな」
蓮が止める。
すると常連の職人が手を上げた。
「陛下、こちらどうぞ」
四人掛けの席に二人で座っている。
国王は少し驚いてから、
「よいのか?」
「相席でよろしければ」
「もちろん」
国王が職人と相席する。
侍従の顔色はさらに悪くなった。
「何を頼めばよい?」
国王が尋ねる。
「蕎麦です」
蓮が即答する。
厨房からクレール。
「Galette!」
「今俺に聞いたんだ!」
「両方食べていただけばいいでしょう!」
国王は笑った。
「では両方」
「ほら」
「何が『ほら』だ」
リナが注文を取りに来る。
「陛下、ガレットの具は何にしますか?」
「おすすめは?」
「今日なら鳥とキノコです」
「ではそれを」
国王相手でも普段通りだった。
しばらくして料理が運ばれる。
国王はまず蕎麦を食べた。
静かに二口。
「不思議な味だな」
「嫌いですか?」
「いや。これまで食べた麺より軽い」
次にガレット。
「これはパンに近いが、ずいぶん香ばしい」
「蕎麦と同じ粉です」
「同じものから作るのか」
国王が二つの皿を見比べる。
「なるほど。面白い」
食事を終えるころには、隣の職人と市場の話までしていた。
会計の際、国王が言った。
「王室御用達とするか?」
「嫌です」
蓮が即答。
「なぜだ」
「近所の人が入りづらくなる」
「だが名誉だぞ」
「十分名誉はもらいました」
勇者。
魔王討伐者。
伯爵位まで与えられそうになったが断った。
勲章も屋敷も、必要以上には受け取らなかった。
「ここは普通の飯屋でいいんです」
国王はしばらく蓮を見た。
「そうか」
それ以上は言わなかった。
店を出る前。
国王がリナとルイを見る。
「よい店だ」
リナは笑った。
「ありがとうございます」
ルイ。
「また来てね!」
侍従が卒倒しそうになった。
国王は大笑いする。
「ああ。また来よう」
その日から、
『国王も職人と相席する食堂』
という新しい噂が広がった。
結果。
翌日からさらに客が増えた。
「陛下、余計なことしてくれたな……」
蓮は頭を抱えた。
クレールは楽しそうだった。




