第六章 同じ粉から違う料理
翌朝。
蓮は店に入るなり、注文数を書いた板を外した。
リナが尋ねる。
「もう数えないの?」
「ああ」
「計算の練習だったのに」
「別の紙でやってくれ」
クレールもメニュー表を見直していた。
「増やしすぎね」
「減らそう」
二人で話し合い、定番の料理だけを残す。
それでも一つ、物足りなさがあった。
「なあ」
「何?」
「一緒に作ってみないか」
「何を?」
「日本の料理でもフランスの料理でもないやつ」
クレールが首を傾げる。
「この世界の食材を使って、俺たちの料理を作る」
その日の午後。
なぜかシポとアウリまで試作会へ参加していた。
「頼んでないぞ」
「面白そうだから」
シポは大量の植物を持ってきた。
「これは?」
「香草」
「食えるのか?」
「もちろん」
「前にお前が『食える』って言った草、三時間舌が痺れたぞ」
「量を間違えたんだろう」
「説明しろよ!」
アウリは森で仕留めた大きな鳥を持参した。
「これ、店で使っていいのか?」
「うまい」
「それ以外の情報をくれ」
「鶏に近い」
「最初からそう言え」
鳥肉。
山のキノコ。
香草。
蕎麦粉。
店の厨房に食材が並ぶ。
まず蓮が鳥の骨から出汁を取った。
そこへキノコを加える。
クレールは鳥肉を焼き、香草のソースを作る。
「それ、蕎麦に合うかな」
「食べてみればいいでしょう」
完成した温かい蕎麦。
鳥肉とキノコの香り。
そこに香草を少しだけ添える。
リナが食べる。
「おいしい」
「本当か?」
「うん。でもこれ入れすぎると苦い」
シポが頷く。
「その香草は加熱すると苦味が出る」
「早く言え!」
次はガレット。
クレールが蕎麦粉の生地へ、同じ鳥肉とキノコを包む。
蓮が考え、少量の出汁を煮詰めたソースをかけた。
「フランス人に怒られないか?」
「ここにフランス人は私しかいないから大丈夫」
「強いな、その理論」
ルイが味見。
「おいしい!」
「知ってた」
しかしそこでルイが思いついた。
「蕎麦、入れよう」
「何に?」
「これ」
ガレットを指す。
蓮とクレール。
「え?」
茹でた蕎麦をガレットへ包む。
二人とも露骨に嫌そうな顔をした。
「焼きそばパンみたいなもんか?」
「何それ」
「いや、何でもない」
リナが試してみる。
「意外とおいしい」
「本当か?」
蓮も食べる。
「……悪くない」
クレールも。
「……悔しいけど」
ルイが胸を張る。
「ぼくの料理!」
「お前は入れただけだ」
「料理!」
「はいはい」
その日の新作は、
『四人の旅人蕎麦』
と、
『旅人のガレット』
と名付けられた。
リナがメニューを書きながら尋ねる。
「どうして四人なの?」
蓮は、シポとアウリを見た。
「四人で旅したときに食べたものを、全部混ぜたような料理だから」
正確には、当時こんな料理を食べたことはない。
ただ、旅の中で四人はそれぞれ違う食事をしていた。
蓮は米を恋しがった。
クレールはパンとチーズの質に文句を言った。
シポは野草を摘んで煮た。
アウリは森へ入ると知らないうちに獲物を持って戻ってきた。
それぞれ違った。
それでも同じ火を囲んだ。
「いい名前ね」
クレールが言う。
「ああ」
試作の終わった厨房で、四人は久しぶりに同じテーブルへ座った。
リナとルイも加わる。
昔は、ここまで簡単ではなかった。
一つの料理について話すことさえ難しかった。
それでも今は、
「塩が足りない」
「そうか?」
「少し」
「次は増やす」
という会話が自然に続く。
蓮は、ふと笑った。
「何だ?」
シポが尋ねる。
「いや。平和だなと思って」
「今さらか」
その通りだった。




