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堕落の錬金術師 ~最強種の小娘どもが俺のポーション(酒)なしでは生きていけないと迫ってくるんだが~  作者: 星屑ぽんぽん


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9話 サケカッス・ファミリー


 格闘賭博の一件は、概ね俺の予定通りで幕を閉じた。

 特に金貨を倍々に増やせたのは美味かった。


 元々シルビーを介してネットに金貨30枚を渡し、俺に賭けてくれと伝えておいたのがこれほど綺麗にハマるとはな。


 ネットが最終ラウンドで賭けた金貨30枚は、ショバ代として3枚が引かれ、27枚での賭け金となる。

 金貨27枚で俺のオッズは2倍、からの最終ラウンドで3倍。

 つまり6倍に増えて金貨162枚に膨れ上がった。

 

 この時ばかりは、ネットですら『フーリン様様だ』と喜んでいた。

 これで許嫁を寝取られた鬱憤が少しでも晴れるといい。


 もちろん分け前として、ネットには金貨10枚。

 そしてシルビーにもお小遣いとして金貨10枚を与えた。



「アル。角、なでる」


 どうやら銀髪の竜娘が褒めて欲しい時は、頭に生えた双角をなでてもらいたいらしい。

 俺が『よくやった』と褒めながら角をなでれば、今度は無言で角をこすりつけてくる。

 嬉しいって気持ちを表現しているのだろうが、当たり所によっては少し痛い。


 そういえば青い髪の竜娘【蒼界(そうかい)のブルーノラ】も、戦闘終わりには鼻先の角をよくこすりつけていたっけな。


 竜娘は人間形態でもどこかしら竜の身体的特徴が消えない。

 シルビーだったら頭の双角だし、ブルーノラは鼻が角のままだった。

 他にも爪だの牙だの鱗だの尻尾だの翼だのと色々あるが、とにかく竜娘にはそれぞれの個性があった。


 そしてシルビーは竜娘の中でも特に心配性な気質らしい。



「ねね、アル。本当に一人で行く……?」


 俺が改めてゲース・フーリンの工場を辞めるのと、試合の出場料をもらいに行くと伝えれば、自分もついていくと言って聞かない。


「ああ。シルビーと一緒に行けば、俺がビビってると思われるしな」


 それにゲース・フーリンは、腐ってもこの23区を取り仕切ってる傭兵団の団長だ。

 面子(めんつ)ってものがある。

 俺が竜娘を引き連れて脅すような態度を取れば、引くに引けなくなるだろう。


「どうかシュゴウのジュース屋でいい子にしていてくれ」

「うーん……アルに何かあったら、暴れていい……?」


「ジュース屋ではやめてくれ。どうせならフーリン製鉄工房で……いや、あそこにも日銭を稼ぐ労働者がいるから……空、なんてのはどうだ?」

「空、いい! 飛ぶ! きもちいい!」


「じゃあ店主のシュゴウによろしく伝えておいてくれ」

「はい!」


 シルビーはまるで子供だ。

 竜娘の大半は『竜化』の奇跡を授けられた時点で精神年齢が止まっている。

 13、4歳前後に見えるシルビーだが、その中身はおそらく8歳ぐらいのままなのだろう。


 この無邪気さは、戦争の歪みによって作られたものだ。

 彼女の将来を、未来永劫に奪った戦争が……。


 シルビーに戦争の爪痕を見て、俺は一歩前に進む。

 戦争帰りの兵士たちを労働地獄に落とす、ゲース・フーリンの支配が……未だにその爪痕を深く刻もうものなら、俺は俺のやり方でけじめをつけよう。





 フーリン製鉄工房で俺を出迎えたのは、もちろんゲース・フーリンだった。

 しかし、俺の歓迎会は以前とは違って物々しい。


 まず工房内の労働者たちは、雇い主の前だからあからさまな歓待の態度を取りはしない。が、寄越してくる視線が温かい。

 中には無言で頭を下げてくる者もいる。

『この間は儲けさせてくれてありがとう』と、そんな言葉が滲んでいた。


 片や雇用主側のフーリン傭兵団はピリついた空気をまとっている。

 護衛の数がいつもは2~3人なのに、20人もの剣を携えた男たちが鋭い眼光で俺を睨んでくる。



「来たか、アルゥ」


「ああ」


 小太りのゲース・フーリンは、相変わらずの赤ら顔で俺に笑みを向けていた。

 表向きは余裕のある雇い主を演出しているのだろう。



「この間の格闘試合は見事だったなあ。おかげで格闘賭博は大盛り上がりだったぞ」


「ああ。フーリン傭兵団の粋な計らいで(・・・・・・)、労働者連中の懐も潤っただろう」


 お前らが描いたシナリオと小細工のおかげで、みんな儲けさせてもらった。

 そんな風に嫌味の一つをこぼしておけば、俺を監禁したのが誰かはわかっていると伝わるだろう。


「ま、まあ……たまにはな、身を粉にして働く者への感謝を示さないと、な」


「にしても随分と手厚い感謝だったな」


「そ、そうだ。だからフーリン傭兵団は昨夜の健闘を祝して、お前にとっておきのプレゼントを用意した」


「プレゼントだと?」



「なんとなあ、アルゥ! それなりのポストでお前をフーリン傭兵団に迎え入れてやろう! そう、俺様の右腕としてなあ!」


 小太りのゲース・フーリンは、これこそが特大級の賛辞だと言わんばかりに両手を広げる。

 大方、俺が竜娘を手懐けているのを見て……その突起戦力が欲しくなったのだろう。

 反吐の出る誘いだが、これは俺にとって決して悪い話ではなかった。


 フーリン傭兵団の規模はおよそ70人。

 そして、その下で労働に勤しむ者が200人。

 23区を仕切る傭兵団の副団長って肩書きはかなり強力だ。


 俺がこれからやることを考えると、フーリン傭兵団に所属した方が効率はいいかもしれない。

 内部から乗っ取り、権力を奪い取るのもまた面白そうだ。



 でも、な。

 俺の友はどう思うだろうか。


 戦争帰りの兵士の弱みに付け込んで、安い賃金で工場勤務を負わせるゲース・フーリンの傭兵団なんかに入ったと知れば。

 ネットの奴はなんと言うだろう。



「なあ、アルゥ。お前を見込んで話すが、フーリン傭兵団はもっとでかくなるぞぉ」


「……なぜだ?」


「俺様はなぁ、昨夜の格闘賭博で痛感したんだ。一度で大金が動く勝負の方が、やっぱり美味いってなぁ」


「フーリン傭兵団は大損したって噂になってるぞ?」


「昨夜に限ってはな。ネットの野郎が金貨30枚も賭けやがって……まあ、そんな寝取られ衛兵からも学びはある」


「どんな学びだ?」



「豚箱には豚の糞尿しか積もらねえ。だが、天上の木には金の卵が産み落とされるって話だぁ」


「……労働者階級のビジネスから、貴族階級に手を広げるのか?」


「さすが俺の右腕だぁ、よくわかってんなぁ。あんな地下格闘賭博なんざ、所詮は平民や落ちぶれた奴の娯楽だろぉ?」


「掛け金も、はした金ばかりって言いたいのか」


「競馬はどうだ?」


「……裕福な商人階級や、貴族の上流階級に受けがいいな」


「そうさ。野蛮な殴り合いと違って、ご令嬢たちも楽しめる演目だしなあ。だから俺は競馬場を押さえる。そして馬主たちとの契約もな」


「かなりの大金を注ぎ込む気か」


「近々、フーリン競馬場を切り盛りする予定だ。お前も一緒にどうだ?」



 そうか。

 俺は今、自分とこいつとの決定的な違いに気付いた。


 ゲース・フーリンは市民から搾取した金で、今度は上流にすり寄ろうって魂胆だろう。そして低層市民は自分の格を上げるための駒で、使い捨て。


 だが俺がしたいことは違う。

 俺はポーションで、平民も、貴族も、分け隔てなく口説き落としたい。

 何より、戦場帰りで燻っている連中に、同胞にSAKEを振る舞いたい。

 ただ、それだけだ。



「誘いは嬉しいが、断るよ」


「そうか、残念だ」


「じゃあ今回の報酬の話を——」


「ああ。お前の竜娘が出した損害はザっとこんなもんだぁ」


 ゲース・フーリンが顎で示すと、手下の一人が羊皮紙を渡してくる。

 そこには『リングの破損修理費、金貨2枚』『フーリン格闘賭博の安全と信頼性の風評被害、金貨10枚』と記されていた。

 

「これらの被害から、アルゥ。お前に支払われる報酬は金貨8枚だ」


 

 リングの修理費はまあ、わかるが……フーリン格闘賭博の風評被害?

 むしろ俺が戦って勝利したことで、フーリン格闘賭博の評判は上がっている。ジュース屋の連中も、町を駆け回るヤンチャなガキどもですら、昨夜の熱戦を楽しそうに語っている。


 それを風評被害といちゃもんをつけるのも大概にしてほしい。

 これが、フーリンのやり方か。


 まあ約束の金の半分ももらえはしないが、手付金だと思えばいい。



「わかった、金貨8枚で手を打とう」


「半分でも残してやるんだぁ。ありがたく思えよぉ?」


 奴の捨て台詞に、俺は鋭い視線を向ける。

 ここまで譲歩してきたのは、戦場帰りの俺を雇ってくれた恩があったからだ。


 膝が悪くなって、ほぼ片足状態の俺でも仕事をくれた。魔力を碌に練れなくとも、最低限の賃金を保障してくれた。

 ただ、わかりきっていた。

 ゲース・フーリンの性根は戦場に置いてきた死体より腐っていると。



「そうか……フーリン。お前が戦場帰りの兵士をどう思っているのか、正確に理解できたよ」


 正当な報酬をあげてやる価値などない。

 正当な評価をするに値しない捨て駒だと。

 その信条と金貨を受け取った俺は、ゲース・フーリンを冷ややかに見下ろす。



「俺は、俺たちは、お前から受けた扱いを忘れない」



「はんっ。せいぜい強がってみせろよぉ、二等勇者殿」



 俺の宣戦布告に近い独立を、ゲース・フーリンは鼻で笑った。

 だが、手下たちの前で。

 労働者たちの目の届く範囲で。


 俺の意思を容認したと、23区を取り仕切るボスを頷かせたのだ。







「ああん? それでお前はゲースの誘いを断っちまったのかあ!?」


「引き受けてくださいよぉ、アルの旦那ぁ!」

「そんでもって俺らの給金を内側から上げてくださいよお!」


 シュゴウのジュース屋に行けば、ネットを筆頭に多くの男どもに囲まれた。

 そして日が傾くにつれて、男たちは集まり、ジュースの杯を交わして語る。


「店主、こっちに『激甘シロップストロベリー』を一つ!」

「こっちは『アッポォジュース』をくれええ!」

「しゃああッ、昨日の賭けに勝ったから今夜は奮発だ! 『シュワシュワヒップホップラムネ』を頼む!」


 労働を終えた男たちが、クタクタになりながらも笑顔を咲かす。

 そんなシュゴウのジュース屋が俺は好きだ。


 俺たちの居場所と言えば、ここしかないだろう。

 そして未だ自分の居場所を見つけられない者にも、このジュースの温かみをいつか味わってほしい。



 ここから、そうここからだ。


 俺は店主に目配せをして、予め用意していた新製品を出していいと合図する。


「店主、例のものをみんなに」


「みなさん! こちらは二等勇者アル・コール様と共同開発した新商品です! 今夜は祝勝会! 我々、労働者の勝利を祝って、勇者様からこちらのSAKEは(おご)りとなります!」


「うおおおお! 我らが二等勇者! アル・コールに乾杯だあああ!」

「「「アル・コール!」」」

「「「アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール!アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール! アル・コール!」」」



 俺の名前がコールされまくり、夜のジュース屋は大盛り上がりだ。


「さあさあ、竜の嬢ちゃんも一緒に飲み明かそう!」


 最初は竜娘のシルビーを見て慄いていた男連中も、今では一緒にジュースを飲んでいる。

 シルビーはちびちびとジュースを飲み、男連中が騒ぎ立てる様子をにこやかに眺めていた。


 その光景はかつての戦場の夜を思い出させる。

 焚火を囲んで、メシを食らい、互いの戦果を大袈裟に語る。


 死の恐怖に打ち勝つため必死に強がる男たちを、同胞の死を無理に笑い飛ばそうとする男たちを、竜娘たちは見守るように遠巻きに眺めていた。


 そうだ、あの地獄のような日々の中でも俺たちには確かにあった。

 何か説明のできない、絆のような繋がりが。

 それは今もまた同じだ。

 この繋がりこそが、生きる糧となる。



「このSAKEの名前は『ファミリーサワー』です!」


 ファミリーサワーの効果は特にない。

 ただ、アルコール4度ってだけのSAKEだ。


「様々な果実をブレンドしたミックスジュースを元に、様々なお客様に楽しんでいただけるよう開発いたしました!」


 その味わいはまるでこのジュース屋だ。

 多くの人々が集まり、語らい、色々な味を出す。

 そして至福の甘さと、世知辛い酸味が舌を刺激する。


 それぞれの人生を表現したかのようなSAKEがみなに振る舞われると、店内はさらにお祭り騒ぎとなった。


「な、なんだこりゃあ! ふわふわすっぞ!?」

「おあああ、きもちぇええ!」

「疲れが吹っ飛ぶううう」


『ファミリーサワー』には何の効果もない。

 だが燃えるような情熱と、温かな空間を作れる、そんなSAKEだ。

 俺はここぞとばかりに杯を掲げる。


「俺はここに! 新たな傭兵団サケカッス・ファミリーを立ち上げる!」


 傭兵団の由来はもちろん酒の神バッカス爺さんからだ。

 SAKEとバッカス。サケカッス、そしてファミリー。



「このSAKEが新時代を作る! 俺たちが新時代を築く! この素晴らしいSAKEを世界に広めるぞ! さあ我こそはと思う男は、俺についてこい!」



「ねね、アル。男じゃなくても、いい?」


 シルビーのそんな質問に、周囲はドッと吹き出した。



「ゲハハハッ、勇者の旦那ぁ、男女差別はよくないぜえ」

「嬢ちゃん! よく言ったぞ!」

「しっかし嬢ちゃんが名乗り出て、男連中が尻込みしてんのは情けねえよなあ!?」


 ネットの煽り文句に一番に乗ったのは、身長190cmを超える大男だ。


「アル・コール曹長! 俺、カイ・リキを傭兵団サケカッス・ファミリーに入団させてください!」


 軍式の敬礼をピシッと決めたのは、先日ここで客を殴り飛ばす騒動を起こした戦場帰りの元兵士だった。

 今の彼は以前のように恐怖に怯えた目をしていなかった。

 戦場でのトラウマや幻視を振り払うように、その瞳に強い輝きを宿している。


 なにせ彼にはシュゴウ店主を通じて、すでに『忘れられた黒酒(コークハイ)』を無償で譲っていた。

 おかげで、彼の精神疾患も完全に回復している。


「無論、歓迎だとも。カイ・リキ一等兵」

「感謝いたします!」


 それからカイ・リキに続き、次々と男たちが声を上げる。

 この数日、シュゴウ店主の伝手によって戦傷をSAKEで癒した元兵士が多く見受けられたが、中にはフーリン製鉄工房に務める者もいた。

 彼を見限って、俺たちの傭兵団に飛び込んでくれたのだ。


 中年の経験豊かな男も、血気盛んな青年も、強さに焦がれた若人も。

 みながサケカッスの名の元に絆を結んでゆく。


「傭兵団サケカッス・ファミリーに乾杯だ!」

「衛兵長補佐のお墨付きだぞおお!」

「飲め飲めええ! サケカッスを祝うなら飲みまくれええ!」

「「「サケカッス! サケカッス! サケカッス!」」」


 男たちの熱いコールが唱和する。

 こうして傭兵団サケカッス・ファミリーの立ち上げは、23区の人々に容易に受け入れられた。



 総勢13名。

 たった一晩で、精悍な顔つきの兵隊たちが俺の前に集った。





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