表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕落の錬金術師 ~最強種の小娘どもが俺のポーション(酒)なしでは生きていけないと迫ってくるんだが~  作者: 星屑ぽんぽん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

3話 傭兵団と金貨時代


 俺は火花が飛び散る工房を歩く。

 屈強な男たちの汗と、鉄を鍛える炎の匂いが充満している。

 

 ここはフーリン製鉄工房。

 馬の蹄鉄(ていてつ)から調理器具、武器の製造と何でもござれの製鉄工房だ。


 ハンマーを握り、鉄を生活の一部に変える男たちの瞳には……暗い炎が揺れていた。

 鉄を懸命に熱して、叩いて、潰して、どんなに力を込めようとも彼らの生活は一向に良くならない。

 ほとんどの利益がここのオーナーに吸い取られているからだ。


 胸の奥底に沈んだ不満が火種となって(くすぶ)っている。

 そんな目をした連中の間を、俺は無言で通り過ぎる。



 用事があるのは、工房の中でも綺麗に整えられた団長室。

 そこには常に暴力が染みついた笑みを浮かべる男が二人、見張りとして立たされている。

 そのうちの一人が俺を目にすると団長室へと入っていった。

 しばらく部屋の前で待っていれば、見張りの男が出てきて入室を促してくる。


「ボスがお待ちだ。労働者の遅刻が気になっているそうだ」


「ああ」


 こちらを見下すように足元へツバを吐いた見張りへ、俺は片手を上げて応える。

 そのまま団長室に足を踏み入れると——

 


「ようようよう、二等勇者殿ともあろう者が遅刻とは随分じゃないかあ?」


 入室するなり、大袈裟な手振りで俺を出迎えたのは小太りの男だ。

 身なりだけは上品だが、そのゲスな品性はいくら着飾ろうとも隠せてはいない。


 彼の名はゲース・フーリン。

 このフーリン製鉄工房の主であり、フーリン傭兵団の団長であり、俺の雇い主でもあった。


 革製の椅子に踏ん反り返った彼の背後には、護衛の手下が二人ほど控えている。

 その存在をこれ見よがしにアピールしながら、自分の優位性を誇示する態度が小物らしい。



「アルゥ、いけないねぇ。白昼堂々と労働の義務を怠るなんて、お前に勲章を叙勲された国王陛下の顔にぃ、泥を塗るようもんじゃないかねえ」


 フーリンは『それに』と、欲望が詰まった赤ら顔を凄ませる。

 

「雇い主でもある、この俺様の顔にも泥を塗ってねえか? あぁ?」


 仕事をサボるなんて舐めてるのか? と、お怒りのようだ。

 まあフーリンはこの辺を取り仕切ってる人物だし、周囲に軽んじられないよう振る舞っているのだろう。

 労働者一人も好きにできないって舐められでもしたら、足元をすくわれるほどには他方から恨みを買ってるしな。



「フーリン、遅刻したのは悪かったと思ってる。ただ理由があってな」


「ほう? この俺様を蔑ろにしてもいい理由があるなら聞いてやろう」


 納得のいかない理由なら、後ろの二人が黙っていないと。

 そう脅しをかけてくるフーリンを俺は笑った。


「気付かないか? まあ、ここで働く俺らを虫としか思ってないお前は気付けないか」


「あぁ?」


「戦場での怪我が完治した。だからフーリン、あんたの工房で世話になるのはここまでだ」


 俺が普通に歩けるのを今になって気付いたフーリン。

 それからマジマジと俺を見つめ、わざとらしい作り笑いを浮かべた。


「おお、アルゥ! お前、まさか膝が治ったのかあ!? なら、話は簡単だ!」


 フーリンはウィンクをかまして、俺に詰め寄ってくる。

 さっきまでの高圧的な態度から一変して、愛想を振りまく姿はまさに狂気を孕んだピエロだ。

 こいつの本性はわかりきっている。

 次に浮かんだその顔に、支配的な笑みが深く刻まれていたからだ。



「喜べ、アルゥ。お前は虫から犬に昇進だぁ」


「というと?」


「うちのフーリン傭兵団に入れ。なあ、今まで面倒を見てやったよしみでなぁ?」


 ここで言うフーリン傭兵団とは、金で雇われ戦場を駆ける傭兵団とは違う。

 戦争が終わって、傭兵団の仕事内容も年々変わってきている。

 フーリン傭兵団はこの製鉄工房の護衛と管理、そして地下格闘賭博を開催している。


 つまり裏社会の経営を意味している。

 この辺の治安維持を名目に、暴力で牛耳っている連中ってわけだ。

 まあ、街に居座るゴロツキの行き着く先はそんなもんだ。


 とはいえ、フーリン傭兵団がここまで幅を利かすようになったのは、ゲース自身の生まれも関係している。


 彼は意外にも、由緒正しいお家の出自らしい。

 こいつの親父が貴族の三男坊で、実家を出てこの工房を建てたそうだ。

 眉唾だと思ってた連中もいたが、フーリンには貴族の親戚がいるからと実際に兵役を免除された。


 もちろん、だいたいの貴族は戦場に出る。

 臆病風に吹かれたと、貴族の風上にも置けないと言われるからだ。


 しかしゲース・フーリンは違った。

 なにせ王国から武器製造の依頼を取り付け、戦時中にそれを売りさばいて財を成したのだ。

 おかげで戦争が終わった今でも、王国との取引きは続き、俺たちみたいな元兵士は食い扶持を稼がせてもらっている。


 足の悪い俺を雇ってくれたのは感謝している。

 しかし、それもまたフーリンの戦略の一環だと知っている。


 傷ついた二等勇者を雇えば、フーリン製鉄工房の評判は上がる。

『戦い抜いた兵士に敬意を示している』とな。


 その評判が、新たな元兵士の労働者を集めてゆく。

 だからコイツの手癖が少しばかり悪くても、彼に文句を言う者はいなかった。



 なにせゲース・フーリンは出兵してた連中の女房を寝取ったり、娼館に売り飛ばしたりと、やりたい放題だったのだ。

 ちなみに衛兵長補佐のネット・ラレールの許嫁を寝取ったのもコイツだ。


 そんなわけで。

 今日でウンザリする顔を見なくちゃいけない日々ともおさらばだ。



「いいや、俺は辞めるよ」


「やめるって唐突だなぁ、アルゥ」


 タダで辞められると思ってるのか?

 そうフーリンの眼は語っていた。


 やつの背後で静かに立っていた男たちがスッと前に出る。

 まるで俺を威圧するように、いつでも殴り飛ばせると指なんかポキポキ鳴らしている。


「落ち着け、アルは腐っても二等勇者殿だ。足が治ったんなら、お前ら二人がかりでも抑えきれねえ」


 フーリンは冷静に分析しながら、(ねぶ)るように俺を見る。


「アルゥ。お前がやめるってなると、損失はザっとこれぐらいだ。払えるかぁ?」


 提示された金額は金貨20枚。銀貨にすると2000枚相当で、労働者階級の年収ほどの金額だ。



「フーリン……提案がある」


「あぁ? 勲章に生かされて、過去にすがりつくお前が? 俺様の温情で働かせてもらっているお前ごときが、俺様に交渉を持ちかけるだと?」


「……」


「どうした。何も(さえず)らねえのか?」


 こういう時は、へたに口出しはしない方がいい。

 フーリンみたいな人物は、自分の思い通りにいかないとすぐに暴発する。

 戦場での士官や上官には、プライドの高い連中がウジャウジャいた。そのプライドが時に暴発し、頭に血が登った代償は大きかった。

 一つの判断ミスが、命令ミスが、多くの兵士の死を招いたからだ。


 その点、ここが戦場じゃないのは感謝できる。

 そして扱いやすいゲース・フーリンには感謝すらしてしまう。



「ふぅーったく、これだから傷もんは扱いづらいねぇ。鳴かず、飛べず、餌だけはしっかり(むさぼ)る。そんな鳥を世間はなんて言うか知ってるか?」


「いいや」


「いいとこ(どり)の卑怯者だよ、二等勇者殿」


 吐き出してやればいい。

 こちらへの怒りも、挑発も。

 そうして初めてフーリンは落ち着きを取り戻し、打算を巡らせるだろう。


「まあいい。さんざん世話してやった鳥が、いいとこ(どり)なのは許してやろう。二等勇者殿の頼みなら、聞いてやるぐらいの懐はあるさぁ」


 ただ、条件を出すのはこちら側だとフーリンは言う。



「俺らフーリン傭兵団が仕切ってる格闘賭博があるだろ。そこの選手として出場しろ。出場料金は金貨20枚でどうだぁ?」


 金を取るどころか報酬を出すとはきな臭い。



「大きく出たな……俺に八百長(やおちょう)試合をしろって話か?」


「別にそんなのはいらねえ。二等勇者殿が出場するってなったら、客が増えるだろうが」


「俺に賭ける気か?」


 よくある手法で、民衆は大番狂わせや大物倒れを期待する。

 二等勇者である俺が負けそうな演技をすれば、大熱狂になるだろう。

 そして第一、第二、第三ラウンドへ進むにつれて胴元であるフーリン傭兵団は叫ぶ。


『今なら倍率は2倍だ! 3倍だ! 10倍だ! もっと賭ける奴はいるか!?』 とな。


 大物が倒れる姿を期待して、みなが大金を突っ込む。

 そして俺の対戦相手に賭ける者が増えれば増えるほど————


 俺が逆転勝利をした時、胴元は賭け金を丸々かすめ取れる。

 いわゆる大儲かりだ。



「いいや? お前の対戦相手に賭けるに決まってんだろぉ?」


 ニタリとゲース・フーリンは微笑む。

 その瞳は嗜虐の色に染まり、愉悦に浸っていた。


「二等勇者殿がボコボコになる姿が楽しみだなぁ」


 正真正銘、俺に勝てる格闘士を準備するらしい。

 いや、それどころか俺を試合で殺してしまえば……出場料の金貨20枚も支払わずに済む。そして客も大入りで大儲かり。

 使えない駒はギリギリまで絞って使い捨てる、フーリンの考えそうなことだ。


「アルゥ。お前はただ、本気で戦えばいい。俺様の縄張りで足掻いて見せろぉ」


 ルールも、試合前のコンディションも。

 色々な意味であっちの思うがままだ。


 でもまあ気にすることもない。

 ゲース・フーリンが試合前に人を寄越(よこ)し、ちょっかいをかけようものなら全員潰せばいい。


 今の俺には『SAKE』があるしな。







銅貨……100円

銀貨……1000円

金貨……10万円


金貨20枚は200万円ですね。

労働者の実収入は税金やらなにやらで搾り取られ、手取り140万円ぐらいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ