13話 やんごとなきメス堕ち
フレアに『銀紅玉の竜酒』を飲ませて数日が経った頃。
伯爵様からの使いに応じて、俺は再び伯爵邸に足を運んでいた。
「アル・クール団長よ、此度は助かった」
ギャンブール伯爵はずっしりと重そうな金貨袋を用意して俺を出迎えてくれた。
「再び娘の心からの笑顔を見れて嬉しく思う。きみのおかげだ」
今回は昼食を共にするのではなく、中庭を一望できるテラスで紅茶を嗜むようだ。
眼下には庭園に咲き誇る花々と。
楽しそうに本を一緒に読む二人の少女が見えた。
すっかり体調が良くなった竜娘のフレアと、ソレイユ伯爵令嬢だ。
笑顔を咲かせた娘たちに、伯爵は優しい眼差しを向けている。
しかし、その瞳には影と憐憫がまとわりついていた。
「……長くは、ないのですね」
「ああ、あの子には【運命紋】があるからな」
運命紋とは優れた才能を持つ者に現れやすい。
そして運命紋の持ち主は、ソレイユ伯爵令嬢も例にもれず短命である。
神々に愛されし者は、神々が寵愛するあまりに攫ってしまうとか。
とにかく理不尽に運命を定める神々を、教会は『神の寵愛』と伝えているが……その真相はわからない。
「だからこそ、娘には幸せな日々を一日でも多く過ごしてほしいのだ」
俺は一瞬、言うべきか迷った。
スキル『貯蔵』に入っている『勇者の聖液』には運命紋を白紙に戻す効果があると。
つまり、ソレイユ伯爵令嬢を救えるかもしれない。
しかしその代償は……。
「アル・クール団長。どうやら娘を救える算段でもあるのかね?」
俺が逡巡していると伯爵は鋭い視線を向けてくる。
その眼力は凄まじく、わずかな虚も見落とすまいと、全てを見通すように凝視してきた。
「……お察しの通りです」
「なに、私の眼はごまかされんさ」
さすがはその慧眼で敵軍の戦略を見抜き、推し測り、それを逆手に大戦果を上げた閣下だ。
『目推しのギャンブール』と噂された眼力は未だ衰え知らずだった。
「しかし……ご息女の運命を、自分などにお任せになるのは……」
「なに、確率論よ」
閣下の瞳には、『幾多の戦いを生き抜いた勇者が、今さら自分や娘を裏切る確率は著しく低い』と物語っていた。
とんでもない期待とプレッシャー、そして閣下の瞳の奥には『どんな手段でもいいから娘を死の運命から救ってほしい』との狂気が渦巻いている。
「やってくれるな? アル・クール団長」
「し、しかしッ」
「かつての同胞に命令などしたくはない」
ギャンブール伯爵はやはり生粋の貴族だ。
伯爵は領主で、俺は領民。強権こそ使わずにいてくれるが、愛する娘のためなら厭わない。
それでも戦場を共にした俺を尊重して、未だに命令は下していないと。
「では、ご息女の運命を白紙にできた際は——」
「よかろう。ルーレ・トスロット・ギャンブールは、傭兵団サケカッス・ファミリーの後ろ盾になろう」
伯爵家が後ろ盾になる。
すなわち資金力が潤沢になるだけでなく、その格はフーリン傭兵団を容易く凌ぐ。
そんな破格の条件を出してもらった手前、俺はその場で頷き、団長として取引きを結ぶしかなかった。
それから伯爵様は、すぐさまソレイユ伯爵令嬢を俺の前に呼び出す。
使用人やメイドたちは慌ただしく準備を整え、すでに引き返せないところまで来てしまった。
「少将閣下……効果の保証は、できません」
「この私の【予見眼】が。娘の運命をきみに賭けよと囁くのだ。娘の死の運命が白紙に帰すとな」
いや、真っ白にはなるかもしれないけど。
娘さんの頭は、その、真っ白に染まってしまうかもしれない。
このポーションを飲んだ瞬間から、俺の種づけを求める衝動に目覚めるかもなんて……麗しき伯爵令嬢に向けて言える言葉じゃない。
下手したら、あまりの侮辱にその場で切り捨てられる可能性もある。
「閣下、ひとまずこのポーションをご息女に飲ませる前に……ご説明させていただきたいことがありまして……」
「いや、いい。そなたを信頼している」
「えっと、その……これを飲むと、種づけ——」
「どんな結末だろうと受け入れる!」
やっぱりやめた方が……いや、今更できませんなんて言える空気じゃないぞコレ。
しかしどのみちソレイユ伯爵令嬢を死する運命から救う手段はコレしかない。
や、やれることは全部やったよな?
いいんだよな?
何度も逡巡する俺に……伯爵は無言のまま、深く深く頷いてしまった。
もうどうやったって拒否権はない。
うん、そうだ。
大丈夫だ、きっと。
仮にソレイユ伯爵令嬢が衝動に駆られても、周囲のメイドたちがすぐに取り押さえられる準備をしてくれている。
「時にアル・コール団長。この私に何か言い忘れてないか?」
「それはもうございます。このポーションを飲んだが最後——」
「違うぞ、私が求めているのは確率の話だ」
「……と、申しますと?」
「運命紋を白紙に戻す、その確率をさらに上昇させる手段もあるのでは?」
「や、いや……その、はい……あるにはありますが」
俺が牢屋にいるときに作った『拷問のゴブレット』【ランク:性杯】は、確かにポーションの効果を増幅させる。しかし、これは……。
「あるのだな?」
なんでこの人はこういうところも無駄に見透かせるのだろうか。
これが【予見眼】の力か。もう嫌になる。
「頼む」
「しかし、この……すぅー……こちら『拷問のゴブレット』でポーションを飲みますと、感覚効果が30倍になります。ですが——」
「30倍とは素晴らしい」
「ですが種付け衝動も30倍に——」
よし、いけた!
サラっと言ってやれたぞ!
「賭けよう! そなたのこれまでの戦績に、その称号に。そなたになら娘の運命を任せられる! なに、竜娘などよりよっぽど信頼できるからな」
それは有無を言わさぬ口調で、中断するのは伯爵の信頼を拒絶する行為に他ならない。
不敵に笑う閣下を見て、もう覚悟を決めるしかなかった。
俺はごくりと唾を呑み込み、『勇者の聖液』を伯爵令嬢へ恐る恐る手渡す。
「ソレイユ伯爵令嬢……私が10歩離れて、それからメイドたちが壁を作ってから、それをお飲みになってください」
「かしこまりましたわ」
ソレイユ伯爵令嬢にも俺の緊張が伝わったのか、表情はやや硬い。
しかしフレアの暴走を防いだ功績から、彼女の双眸には俺に対する信頼の光が滲んている。
凛としたその表情は、まさに誇り高き貴族の娘だ。
「では、いただきます……!」
意を決してソレイユ伯爵令嬢が『勇者の聖液』を飲めば————
重苦しい沈黙が周囲を支配した。
伯爵も、メイドたちも、俺も、そしてソレイユ伯爵令嬢すらも微動だにしない。
この場の全員が令嬢に起きる変化に注目していたのだ。
そしてその変化はすぐに起こった。
おもむろにソレイユ伯爵令嬢は自らドレスのスカートをたくしあげ、眩しい足を披露する。
一見すると淫乱すぎる行為だが、彼女の場合は理にかなっている。
「だ、旦那様! 御覧になりましたか!?」
「お嬢様の太ももに刻まれていた運命紋が!」
「消えております!」
全てのメイドたちが瞳を潤ませながら大歓喜する。
それは父であるギャンブール伯爵も例外でなく、わなわなと顔を震わせて涙をこぼしていた。
そう、誰もがソレイユ伯爵令嬢の太ももを注視するあまり気付いていなかったのだ。
彼女の、そのだらしなく俺を見つめる表情に。
「アッ、ヘェ……!」
ギャンブール伯爵は娘の声を聞き、『随分と淡泊な反応だ』と呟く。
「我が娘はッ、豪胆にすぎるぞ、はははっ。運命属性が白紙に戻されたのに、『あっ、へえ』だけとは……! 親の、親の心配を、私がどれほど、この日を待ち望んでいたか……!」
閣下。
涙混じりに感動しているところ申し訳ないのですが、よくご息女のお顔を見てください。いや、見ないでください。
お嬢様の母親ゆずりの高潔さと、凛とした佇まいが————
蝶よ花よと大切に教養を叩き込まれたご令嬢が、絶対に父親の前ではしてはいけない表情になっています……!
「ア、ヘェ……」
俺の懸念は的中してしまい、伯爵令嬢様はトロンとした顔で……だらしなく口を開け、両目は上を向いて全身をビクビクと跳ねさせ始める。
ギャンブール少将閣下は、俺にとって数少ない尊敬できる上官だ。
そんな人の娘に————メス堕ち強要。
「アヘェッ」
おい、まて。まてまて、マテ茶。
「アヘェッ、イッ、イクぅッ!」
誰もが歓喜に号泣するなか——
12歳の少女は、俺を見ただけで絶頂した。




