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堕落の錬金術師 ~最強種の小娘どもが俺のポーション(酒)なしでは生きていけないと迫ってくるんだが~  作者: 星屑ぽんぽん


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11話 お嬢様の遺言


 俺の一声に、少女の護衛騎士はムッとした。

 その表情には『この無礼者が』と書かれていたが、俺は気にせず店主に『バナナミックス』を注文する。


「アレシャ、いいのです。頼み事をしにきたのは私たちなのですから」


 生意気な女騎士とは違い、お嬢ちゃんの方は流儀を弁えているようだ。

 彼女は臆せずに俺の真隣りに腰を落ち着け、堂々と店主にオーダーを飛ばす。


「店主さん、注文をお願いします。私と連れの彼女に、『ばななみっくす』なるものを一つずつ」


 店主に言い渡すその姿は竜娘のシルビーより幼く、しかし子供でありながら妙に堂に入っていた。


 絹のように滑らかな金髪、そして新緑を思わせる翡翠色の瞳。

 肌は白雪のようにきめ細かく、よく手入れが行き届いた美が際立つ。極めつけは所作の一つ一つに織り込まれた上品さが隠し切れていない。


 十中八九……少女は貴族の出だろう。

 ちょうど貴族との繋がりが欲しかった俺は内心でほくそ笑む。

 だが、同時に警戒も引き上げる。


 やんごとなきお嬢様が、護衛を一人しか連れずにお忍びとは……厄介な匂いしかしない。

 万が一にも彼女の父親の逆鱗に触れてしまった場合、後が大変になる。

 

 慎重に、だがこびへつらってはいけない。

 傭兵団サケカッス・ファミリーの権利が不当に奪われぬよう、強くあらねばならない。



「いい趣味をしているな、お嬢さん」


「郷に入っては郷に従えと、お母様が口にしていたもので。貴方を参考にさせていただきました」


 改めて少女と向き合えば、正真正銘の美少女だった。

 そしてその顔に……なんとなく既視感を覚えた。

 どこかでよく見かけたような、そう、あの地獄で————



「闇をまとった漆黒の髪、氷の冷徹さを宿した蒼い瞳……貴方が傭兵団サケカッス・ファミリーの団長さんとお見受けいたします」


 12歳ぐらいのお嬢様は凛とした佇まいで真っ向から尋ねてくる。

 その度胸に免じて、俺もまた真っすぐに見つめ返す。


「ああ、俺が二等勇者のアル・クール団長だ」


 俺がそう名乗ると、なぜかお嬢様は感慨深そうに目を閉じた。

 それから一呼吸置いて、エメラルドの瞳に力を込める。


「貴方は竜娘を連れ歩いているのだとか」


「……下賤な地下賭博場での騒ぎが、やんごとなき方々の耳にも届いているとはな」


 俺はカウンターから立ち上がり、目の前のお嬢さんを客として認める。

 竜娘絡みの話ならば、多少のリスクを抱えるとしても聞くに値する。

 何より、かつての戦友たちが困っているのなら……俺は率先してSAKEを振る舞いたい。

 それこそが、俺が傭兵団サケカッス・ファミリーを立ち上げた理由なのだから。



「店主、奥の部屋を借りるぞ」


「仰せのままに」


 俺はカイ・リキと竜娘のシルビーが待機する部屋へ、お嬢様と護衛騎士を案内した。





「ッ……!」


 お嬢様が入室してシルビーを目にした瞬間。

 彼女は少しだけ動揺していた。


 その緑の瞳の奥で揺れた感情は、果たして竜娘に抱く恐怖なのか……それとも侮蔑なのか。


 少なくとも、お嬢様の瞳からそういった色の感情は浮かんでいない。

 どちらかと言えば安堵。いや、友愛か?


 とにかく、戦友を大切に思ってくれるのなら何よりだ。

 さて俺の値踏みの方は終わったが、あっちの値踏みは終わってはいない。


 お貴族様ってのは格式や歴史やら、何かとこだわる。

 それはきっと奴らの偉さの根源が祖先の偉業にあるからだ。如何に自分が由緒正しい血筋で、偉大な人物の子孫であるかの証明こそが奴らの基準だ。


 だから目の前の小娘が俺に頼みごとがあったとしても、それは果たして願うにふわさしい相手なのか。十分に吟味した上で判断する。

 そして自分たちにそぐわぬ者なら、名乗りすらせずに立ち去るのがお貴族様の常套句。


 だから俺は開口一番に相手の名を聞かなかった。

 すでに値踏みは始まっていると察していたからだ。


 その辺、俺は熟知している。

 なぜなら戦場での上官にはいけすかないお貴族様がごまんといたからな。



「それでお嬢さん。竜娘がなんだって?」


 さあ、俺の歴史とやらを、これからの会話で存分に判断してもらおうか。

 プライドの高いお貴族様が、頭を垂れて懇願するにふさわしい相手かどうかをな。


「私の竜娘の体調が芳しくありません」

「私()、竜娘ねえ」


 戦後、壊れなかった竜娘をペットとして飼う貴族はいた。

 時に用心棒として、時に夜の愛玩者として、色々と活用のし甲斐はあるからだ。

 だが、今ではそのほとんどが理性を失い殺処分されつつある。

 どこにでもある珍しくない話だ。


 とはいえ、このような少女に竜娘が与えられるのは珍しい。

 竜娘とは常に暴走のリスクがある。貴族が大切な我が子の傍に、竜娘を置くなんて狂気の沙汰だ。


「聞けば貴方は、数日前に奴隷商から竜娘を買い付けたそうですね」


「ああ、後ろのシルビーがそうだ」


「奴隷商に囚われていたというのに、随分と健康状態が良好ですね」


『私の』と所有物扱いすると思えば、『囚われていた』と人間扱いしたり……このお嬢様は竜娘をどう見ているのか、いまいち掴みどころがない。

 だが、今までの会話から相手が何を望んでいるかは明白だ。

 だから先んじて相手の求める答えを口にしてやる。



「俺が竜娘を治した」


「……ッ!」


 その驚愕は喜びと安堵。

 どうやらお嬢様はご自分のペットを治療したくて、下賤の町まで足を運んだらしい。


 


「では……私が亡くなった後に、私の竜娘のめんどうを見てはいただけませんか?」


 しかし、お嬢様の願いとやらは俺の予想の斜め上だった。




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