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第92話 和風か、洋風か。それが問題だ

 「メイド喫茶」という全男子の煩悩と二人のヒロインの思惑が一致した結果、僕たちのクラスの出し物は満場一致で決定した。

 しかし、問題はここからだった。


「まあ、決まったからには仕方ないわね! やるからには、うちのクラスが絶対に学園祭で一番を取るわよ!」


 ホームルームの後半、詳細なメニューを決める話し合いに移った途端、ひなたがバンッと立ち上がって力強く宣言した。


「でも、ただのメイド喫茶じゃありきたりでつまらないでしょ。だから、やるなら絶対に『和風メイド喫茶』よ! 厨房には和菓子職人の卵である伊織がいて、ホールには三色堂の看板娘である私がいるんだから、クオリティは完璧じゃない!」


 腕を組んでドヤ顔を決めるひなた。

 確かに、着物風のメイド服に身を包んだひなたが、お茶とお茶菓子を運ぶ姿は容易に想像できるし、何より彼女は僕の得意分野を活かそうと、真っ直ぐに引っ張り上げようとしてくれている。


「おおっ! 和風メイド! 丈の短い着物でフリフリのエプロン……最高じゃないか!」

「甘野の作る和菓子なら味も保証付きだしな! 賛成!」


クラスの男子たちも(主に衣装の妄想で)大いに賛同し、一気に和風喫茶へと空気が傾きかけた、その時だった。


「ふふっ。和風も素敵だけど……やっぱり、正統派のフリフリなメイドさんのお洋服には、洋風のカフェが似合うんじゃないかな?」


 ふんわりと、しかし圧倒的な甘さを持って、左側から絵海里が口を開いた。


「紅茶のいい香りに、焼き立てのクッキーや、綺麗なケーキ。フランスのカフェみたいに、オシャレで可愛い空間にしたいな。……それに」


 絵海里はコテンと首を傾げると、上目遣いで僕をじっと見つめてきた。


「わたし、伊織と一緒に洋菓子を作りたいな。伊織も、一緒にケーキ焼いてみたい……でしょ?」

「っ……!?」


 直感的で無防備な、けれど破壊力抜群のおねだり。

 純粋に僕と一緒に料理を楽しみたいという、彼女の甘い本音に、僕の心臓はまたしても大きく跳ね上がる。


「なっ……! ちょ、ちょっと絵海里ちゃん! ここは伊織の和菓子スキルを活かす場面でしょ! 伊織、あんたも和風がいいわよね!?」

「えー? でも伊織、この間わたしのお菓子ノートすっごく真剣に読んでたよ? 洋風カフェ、やりたいよね?」


 右からは「絶対に私を選びなさいよ」という看板娘の無言の圧力。

 左からは「わたしと一緒に作ろうね」というパティシエールの甘い引力。


「え、あ、いや……和菓子も洋菓子も、どっちも魅力的で、その……」


 板挟みになった僕が冷や汗を流してしどろもどろになっていると、教室中から一斉に生温かい、そして容赦ないツッコミの嵐が飛んできた。


「はい出た! 甘野を巡る静かなる正妻戦争、学園祭メニュー編!」

「和菓子の幼馴染 vs 洋菓子の幼馴染……これもう、宗教戦争だろ」

「いいかお前ら、よく聞け。和風だろうが洋風だろうが、俺たちの目当てはメイド服だ! 甘野は裏で一人で皿洗いでもしてろ!!」

「そうだそうだ! 甘野爆発しろ!!」

「なんで僕ばっかりこんな目に遭うんだよ!?」


 クラスメイトたちの理不尽なヤジと、両隣から放たれる熱い視線。

 学園祭まであと一ヶ月。和風か、洋風か――究極の選択を前に、僕の胃袋はまたしてもキリキリと贅沢な戸惑いの悲鳴を上げるのだった。


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