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第86話 絶叫二連戦! 限界突破の遊園地デート

「さあ、まずはこの遊園地で一番の目玉、超特大ジェットコースターよ!」


 ゲートをくぐって真っ先にひなたが指差したのは、空高くそびえ立ち、垂直落下を繰り返す凶悪な鉄の塊だった。遠くからでも、乗客たちの凄まじい悲鳴が聞こえてくる。


「うわぁ……すっごく高いね。わたし、ちょっと怖いかも……」

「大丈夫よ絵海里ちゃん、こういうのは勢いだから! ほら伊織、行くわよ!」


 相変わらずの強引さで列に並ばされ、いよいよ僕たちの順番が回ってきた、その時。


「はい、それでは安全のため、二名様ずつ横に並んでご乗車くださーい!」


 係員さんの明るい声に、僕たち三人はピタリと動きを止めた。

 二名ずつ。つまり、三人組の僕たちは、誰か一人が一人で乗るか、次の回に回らなければならない。


「……伊織の隣は、もちろん私よね? 私が言い出しっぺなんだし」

「えっ。でも、わたし絶叫系苦手だし、一人で乗るなんて絶対に無理だよぉ……。伊織、助けて……?」


 ひなたが腕を組み、絵海里が上目遣いで僕の袖をキュッと掴む。

 バチバチッ! という火花が、轟音を立てて走るコースターの音すらかき消しそうな勢いで散っている。


「え、あ、その……」


 どっちかを選べば、もう片方に恨まれる。このままじゃ一生コースターに乗れない。

 数秒のフリーズの後、僕は和菓子職人の卵として(?)あるまじき、究極の自己犠牲を思いついた。


「わ、わかった! じゃあ僕が二回乗る! 最初は絵海里と乗って、次はひなたと一緒に乗るから! それでいいだろ!?」

「「……しょうがないね(わね)」」


 というわけで。


「ひゃあああっ! い、伊織ぃぃ!」

「大丈夫だ絵海里! 落ちないから、な!?」


 一回目の乗車。

 フワフワなパティシエールは、カタカタと頂上へ登っていく途中で完全に涙目になり、僕の右手にギュッと全力ですがりついてきた。

 「手、繋いでて……!」と震える声で言われ、僕の心臓は落下する恐怖と、手に伝わる柔らかい感触へのドギマギで限界寸前だった。


 そして、フラフラでホームに帰還した直後。


「はい伊織、休んでる暇はないわよ! 次は私の番!」

「えっ、ちょ、ちょっと待っ——ギャアアアア!!」


 二回目の乗車。

 待ち構えていたひなたに首根っこを掴まれ、休む間もなく再び悪夢の最上階へ。


「最高ーっ! ほら伊織、バンザイ! バンザイして!」

「む、無理無理無理! ひなたと違って三半規管死んでるからぁっ!!」


 隣でキャーキャーと満面の笑みではしゃぐ元気な看板娘の横で、二連続の垂直落下と遠心力を浴びた僕の三半規管は、完全にスクラップと化していた。


「あー、楽しかった! やっぱり絶叫系は最高ね!」

「…………」


 二回目のライドが終わり、出口へと続く階段。

 僕の足は完全に生まれたての小鹿のようにガクガクと震え、まともに歩くことすらできない。


「ちょっと伊織、だらしがないわね! 男の子でしょ、しっかりしなさい!」


 僕の背中をバシバシと叩きながら、ケラケラと笑うひなた。

 そこへ、先に出口で待っていた絵海里が、小走りで駆け寄ってきた。


「伊織! だ、大丈夫!? すっごく顔が真っ青だよぉ……!」

「ああ……うん。ちょっと、世界が、回ってて……」

「ほら、伊織。わたしの肩、掴まって?」

「甘やかしちゃダメよ絵海里ちゃん! ほら伊織、次はあっちのバイキングに行くわよ!」

「ヒィッ!?」


 右から「しっかりしなさい!」とお尻を叩かれ、左から「大丈夫!?」と心配そうに顔を覗き込まれる。

 ぐるぐると回る視界の中で、僕の波乱に満ちた遊園地デートは、まだ始まったばかりだった。


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