第85話 右腕の元気と、左袖の甘い香り。波乱の休日デート、開幕!
週末の朝。見渡す限りの澄んだ青空が広がる、テーマパークの正面ゲート前。
休日の混雑の中で待っていた僕の耳に、聞き慣れた二つの声が飛び込んできた。
「おっまたせー! 伊織、早く来すぎじゃない?」
「伊織、おはよう。……待った?」
振り返った僕は、思わず言葉を失って立ち尽くしてしまった。
そこに立っていたのは、気合の入った私服姿の幼馴染二人だった。
ひなたは、秋らしいマスタードカラーの薄手ニットに、元気な脚が見えるデニムのショートパンツ。活発な彼女らしさの中に、いつもより少し大人っぽい女の子らしさが混じっていて、思わずドキリとする。
一方の絵海里は、ふんわりとした白いブラウスに、淡いミルクティー色のロングスカート。フランスで磨かれた洗練さと、彼女本来の柔らかい雰囲気が合わさって、その甘い魅力をこれでもかと引き立てていた。
タイプは全く違うけれど、二人とも、すれ違う人が思わず振り返るくらいに可愛い。
「ふふん、どう? 私の私服に見惚れちゃった?」
「伊織。……わたし、似合ってるかな?」
得意げに胸を張るひなたと、少し上目遣いで首を傾げる絵海里。
二人に同時に見つめられて、僕の顔は一気に熱くなった。
「うん。ふたりとも、すごく似合ってる。その、……すっごく可愛い」
「なっ……! ば、バカ伊織! そういうのサラッと言うんじゃないわよ!」
「ふふっ。伊織にそう言ってもらえて、嬉しいな」
真っ赤になって照れ隠しに僕の背中をバシバシ叩くひなたと、嬉しそうに花が咲くような笑顔を見せる絵海里。
「さあ、チケットもあるし、行くわよ! まずは絶叫系から制覇するんだから!」
ひなたが、僕の右腕にギュッと自分の腕を絡ませてくる。元気な体温と、ほんのりと香るシャンプーの匂い。
「あ、ひなたちゃんズルい。……伊織、はぐれないようにね」
負けじと、今度は絵海里が僕の左側の服の袖を、ちょこんと摘むように握りしめてきた。こちらからは、お菓子のような甘くて優しい香りがふわりと漂ってくる。
「ちょ、ちょっとふたりとも! これじゃ歩きにくいってば!」
「男の子がしっかりエスコートしなくてどうするのよ!」
「伊織、わたしのペースにも合わせてね?」
右腕には勝気で可愛い看板娘。左袖には、フワフワで甘いパティシエール。
すれ違う周りの男たちの「なんだあいつ、両手にあんな可愛い子を……!」という嫉妬の視線を全身にチクチクと浴びながら。
職人の卵である僕は、最強の幼馴染二人に両側から完全にホールドされたまま、タジタジになって休日の賑やかなゲートをくぐるのだった。




