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第84話 週末の予定は? 幼馴染二人のマウント合戦、ふたたび

 放課後。少しだけ涼しくなった秋の風が吹き抜ける、僕の家の縁側。

 温かいほうじ茶と、僕が試作した秋の練り切りを囲んで、いつもの三人が集まっていた。


「ということで! 絵海里ちゃんの転校祝いと、私たちが無事に仲直りできた記念を兼ねて、今週末はパーッと遊びに行きます!」


 ひなたが湯呑みを片手に、高らかに宣言した。

 夏祭りを経て、雨降って地固まった僕たち三人。こうして縁側に並んで座っていると、なんだか昔に戻ったみたいで居心地がいい。


「わあ、賛成! みんなでお出かけ、すっごく楽しみ。どこに行くの?」

「ふふん、もちろん伊織の好みに合わせるわよ。伊織って、お菓子作りの息抜きには思いっきり体動かすのが好きじゃない? だから、スポッチャとかアスレチックはどう? ほら伊織、春休みに二人で行った時も、すっごく楽しそうにしてたもんね!」


 ひなたがチラリと絵海里を見て、ニッと得意げに笑う。

 それは「最近の伊織のことは、私が一番知ってるんだからね」という、勝気な幼馴染からの分かりやすい牽制だった。


「え、あ、うん。あれは確かに楽しかったけど……」


 僕が頷きかけると、左隣に座っていた絵海里が、ふんわりと微笑んだままコテンと首を傾げた。


「えー? でも伊織、お菓子作りに集中した後は、静かなところでまったりと過ごすのも好きだよね?」

「えっ?」

「綺麗な景色を見ながらのんびり歩くの、昔から好きだったもん。ミュージアムとか、景色のいい庭園とかどうかな。……ね? フランスにいても、わたし、伊織の本当の好みはちゃんと分かってるよ」


 ふにゃりと甘く笑う絵海里の言葉に、ひなたの肩がピクッと跳ねた。


「ちょっと、それいつの話よ! 今の伊織はアグレッシブなんだから!」

「ふふっ。でも、伊織の根本的な優しさやペースは、ちっとも変わってないよ? わたしには分かるもん」


 絵海里は一切の攻撃性を感じさせない、持ち前のフワフワとした笑顔のままだ。けれど、その直感的で真っ直ぐな言葉は、確実にひなたの牽制をふわりと受け流し、同時に「昔からの深い絆」という強烈なカウンターを放っていた。


 バチバチッ!

 僕の頭上で、再び見えない火花が散る音がする。


「伊織! 体動かすのと、まったりするの、どっちがいいの!?」

「伊織の行きたいところでいいよ? ……わたしと一緒に、のんびりしたいよね?」


 左右から詰め寄られ、僕はほうじ茶を吹き出しそうになった。

 どっちかを選べば、確実に片方が不機嫌になる(あるいは泣きそうな顔をする)という、命がけの究極の二択。


「あ、あのさ! ふ、二人とも落ち着いて! どっちも好きだから! だからその……遊園地はどうかな!?」

「「……遊園地?」」


 僕の苦し紛れの提案に、二人が同時にキョトンとする。


「ほ、ほら。遊園地なら、ひなたの好きな絶叫系のアトラクションに乗って思いっきり体も動かせるし! 疲れたら、絵海里の言うようにカフェでまったりしたり、観覧車で綺麗な景色も見られるだろ? だから、その、ね?」


 必死でプレゼンする僕の顔を、二人はじっと見つめていたが……やがて、お互いの顔を見合わせてクスッと笑った。


「……なるほど。いいじゃない、遊園地! ジェットコースターで私の隣で泣き叫ぶ伊織が見られるわね!」

「ふふっ、賛成。わたしは観覧車で、伊織とゆっくり景色を見たいな。……楽しみだね、伊織」

「お、おう……!」


 右からはジェットコースターの挑戦状、左からは観覧車の甘いお誘い。

 遊園地という広大なフィールドで、僕の身が真っ二つに引き裂かれる未来がうっすらと見えた気がした。

 けれど、縁側で笑い合う二人の楽しそうな顔を見ていると、僕の胸の奥も自然とポカポカと温かくなってくる。


 騒がしくて、ドキドキして、でも最高に楽しい。そんな僕たちの週末のお出かけが、こうして決まったのだった。


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