表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/88

第87話 甘いクレープと、二人の「あーん」対決ふたたび!

 アトラクションでズタボロにされた三半規管を休ませるため、僕たちは甘い匂いが漂うフードコートへとやってきた。


「んーっ、美味しい!」


 ベンチに座って一息ついていると、いちごバナナクレープを買ってきた絵海里が、目をキラキラさせて声を上げた。


「この生地、すっごくフワフワ! 卵白をしっかり泡立てて空気を含ませてるのかな。それに、中のクリームもほんのりオレンジの香りがして……ねえ伊織、これすっごく勉強になるよ。食べてみて?」

「え? いや、でもそれ、絵海里が今齧ったばかりじゃ……」

「いいからいいから。はい、伊織。あーんっ」


 絵海里は僕の躊躇いなんて全く気にせず、コテンと首を傾げながら、クレープを僕の口元へとグイッと押し付けてきた。

 無防備な笑顔と、至近距離から香る甘い匂い。フランス帰りのパティシエールは、お菓子のことになると本当に距離感がおかしくなる。


「あ、えっと……」

「ほら、口開けないとクリーム落ちちゃうよ? あーん」


 とろけるような笑顔で急かされ、僕は抗いきれずにクレープをパクリと齧った。


「……美味い。確かに、生地がすごく軽いな」

「でしょ? ふふっ、伊織とおんなじ味、共有できちゃった」


 花がほころぶように笑う絵海里の言葉に、僕の顔が一気にカッと熱くなる。

 間接キスという事実を、彼女は自覚してやっているのか、それとも天然なのか。どちらにせよ、このグイグイくる無自覚な甘さは、心臓への負担が大きすぎる。


「ちょっとおおおおお!!」


 その時、チュロスを買いに行っていたひなたが、鬼のような形相で戻ってきた。


「あんたたち、遊園地に来てまで学校の昼休みの再放送やってんじゃないわよ! 絵海里ちゃん、抜け駆け禁止って言ったでしょ!」

「えー? でもひなたちゃん、チュロス買うの迷ってたから。美味しいものは早く伊織に教えてあげないと」


 フワフワと微笑む絵海里に、ひなたは「キィーッ!」と悔しそうに地団駄を踏んだ。

 しかし、転んでもただでは起きないのが三色堂の看板娘だ。ひなたは手に持っていた長〜いシナモンチュロスを、まるで剣でも構えるようにビシッと僕に突きつけてきた。


「上等じゃない! 伊織、クレープの次はチュロスよ! 揚げたてで外はサクサク、中はモッチリなんだから! ほら、口開けなさい!」

「えっ、ちょ、ひなた!? さすがに立て続けには——」

「問答無用! はい、あーっん!!」


 有無を言わさず、ひなたはチュロスの先端を僕の口めがけて勢いよく突っ込んできた。


「ンガッ!? ちょ、ひなた、長い! 喉の奥まで刺さるって――むぐうっ!?」

「ほらほら、しっかり噛んで味わいなさい! 絵海里ちゃんのクレープより、私の選んだチュロスの方が美味しいでしょ!?」

「ふふっ、ひなたちゃんったら強引だなぁ。伊織、クレープのクリームもまだ余ってるよ? チュロスにつけて食べる?」

「ンンンッ!!(訳:もう口の中がいっぱいだからやめて!!)」


 右から押し込まれるサクサクのチュロスと、左から差し出される甘いクレープ。

 絶叫マシンの恐怖からは解放されたはずなのに、僕の胃袋と心臓は、幼馴染二人の容赦ない「あーん」対決によって、別の意味で休まる暇が全くないのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ