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第80話 宣戦布告と、受けて立つ看板娘。私たちの恋は、ここからが本番!(ひなた視点)

 夜空を彩った大輪の花火が終わり、お祭りの喧騒も少しずつ熱を冷まし始めていた帰り道。


「ちょっと喉渇いたな。二人とも、お茶でいいか? そこの自販機で買ってくるよ」

「あ、うん。お願い」

「わたしも、冷たいのならなんでも」


 気を利かせたのかただの天然か、伊織が小走りで通り沿いの自動販売機へと向かっていく。


 神社の裏手へと続く薄暗い静かな道に、私と絵海里ちゃんの二人だけが残された。

 遠くで鳴る虫の声と、カランコロンと鳴る下駄の音だけが響く。

 少しだけ気まずいような、でも嫌じゃない沈黙。

ふと、隣を歩いていた絵海里ちゃんが、ピタリと足を止めた。


「……ひなたちゃん」


 呼ばれて振り返ると、淡い金魚柄の浴衣を着た彼女が、私をじっと見つめていた。

 いつものフワフワとした、おっとりした笑顔。

 でも、その大きな瞳の奥には、今までに見たことがないくらい真っ直ぐで、静かな熱が宿っていた。


「わたしね……伊織の隣は、譲りたくないから」


 ドクン、と。

 私の心臓が、花火の音みたいに大きく跳ねた。


 それは、意地悪なマウントでも、ただの勝ち気な言葉でもない。

 ずっと抱えていた迷いをふわりとほどいて、自分の本当の気持ち(恋心)に気づいた彼女なりの、どこまでも誠実で、真っ直ぐな『宣戦布告』だった。


 あの日、泣きじゃくっていた迷子の女の子はもういない。

 私の目の前に立っているのは、フランスで本場の技術を身につけた天才パティシエールであり、誰よりも伊織の笑顔を願う、最強の恋のライバルだ。


 一瞬だけ目を丸くした私だったけれど。

 すぐに、自分でもわかるくらい、口角がニッと持ち上がっていくのを感じた。


「……ふふっ」

「え……」

「上等じゃない。それでこそ、私がわざわざおはぎを作ってハッパをかけた甲斐があったってものよ」


 私は腕を組み、絵海里ちゃんに向けて、三色堂の看板娘としての最高に挑戦的な笑顔を返した。


「でも、甘く見ないでよね。伊織がウンウン唸って作ったお菓子を一番に味見する『特等席』は、私のものだって……きっちり教えてあげるから」

「……うん。負けないよ」


 バチバチッ! と。

 夜の暗闇の中で、私たち二人の視線がぶつかり合い、見えない火花を散らす。


 それは、お互いの実力と想いを認め合っているからこそ生まれる、最高に心地よくてヒリヒリするライバル関係の始まりだった。


「おーい! 待たせた! 麦茶とほうじ茶しかなかったけど、どっちがいい?」


 そこへ、両手にペットボトルを抱えた鈍感な幼馴染が、私たちの間に流れるバチバチの空気になんて微塵も気づかずに、のんきな声で駆け寄ってきた。

 私と絵海里ちゃんは顔を見合わせると、同時にクスッと吹き出した。


「もう、伊織は本当に鈍感なんだから」

「ふふっ、そこが伊織らしいよね」

「えっ、なに? 僕、また何か変なこと言ったか!?」


 首を傾げる伊織の両腕に、私と絵海里ちゃんは左右から同時にギュッと腕を絡ませた。


「っ!? ふたりとも、なにして……!」

「さあ、帰るわよ! 私たちの夏は、まだまだこれからなんだから!」

「うんっ。伊織、手繋ごっ」

「うわっ! 近いっ! 近いってば!」


 照れて顔を真っ赤にする伊織を両側から引っ張りながら、私たちは夜道を歩き出す。


 季節はこれから、少しずつ秋へと向かっていく。

けれど、私たちの恋の熱は冷めるどころか、ますます加速していくばかりで。

 お菓子作りも、恋の行方も。

 甘くて、熱くて、少しだけもどかしい三人の関係は――ここからが本番だ。


【第二部・完】


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