第58話 割れたスイカと即興デザート。夏の味は格別に甘い
僕の右肩の尊い犠牲によって、なんとか無事に(?)真っ二つに割れた巨大なスイカ。
「伊織、肩ほんとに大丈夫? ごめんね、私が変な方向教えちゃったから……」
「気にするな。ひなたのフルスイングを食らったのがスイカじゃなくて僕の肩だったおかげで、中身は無傷で済んだからな」
「……なんか嫌味っぽく聞こえるのは気のせいかしら」
むすっと唇を尖らせるひなたを横目に、僕と絵海里は海の家のテラス席を借りて、即興のデザート作りにとりかかっていた。
「伊織がクーラーボックスに白玉団子を仕込んでたなんて、驚いたよ。さすが和菓子職人だね」
「海で冷たい甘味が食べたくなると思ってな。朝、店を出る前に茹でておいたんだ」
僕は真っ二つになったスイカの果肉をスプーンで丸くくり抜き、大きなボウルに移していく。そこに、氷水でキンキンに冷やしておいた白玉団子と、サイダーをたっぷりと注ぎ込む。
特製の『和風フルーツポンチ』のベースだ。
「よし、僕の方は準備完了だぞ。そっちは——」
振り返った僕は、思わず目を丸くした。
「わあ……絵海里ちゃん、すごい! なにこれ、お花みたい!」
「……えみりちゃん、魔法使い……」
ひなたとななか先輩が、身を乗り出して感嘆の声を漏らしている。
絵海里は持参していた小さなフルーツナイフを使い、残っていたスイカの皮や、クーラーボックスに入っていた桃などの果物を、見事な手さばきで飾り切りにしていたのだ。
「ふふっ、お店のケーキに飾るフルーツでよく練習してるからね。……はい、出来上がり!」
絵海里が飾り切りにした色鮮やかなフルーツをボウルに盛り付けると、ただのサイダーポンチが、まるで高級ホテルのラウンジで出てくるような華やかな夏のデザートへと早変わりした。
「すごいな。食べるのがもったいないくらいだ」
「えへへ。伊織の白玉と、私のフルーツの合作だね。冷たいうちに、早くみんなで食べよっ」
夕暮れが近づき、少しだけ涼しくなった海風がテラスを吹き抜ける。
「「「いただきまーす!」」」
ひなたが勢いよくスプーンを口に運び、目を輝かせた。
「んんっ! 美味しい! スイカ甘っ! 白玉もっちもち!」
「……サイダーがシュワシュワしてて、フルーツもキラキラ。……幸せ」
ななか先輩も、ふにゃりととろけるような笑顔でポンチを頬張っている。
「本当だ、美味しいね伊織! 白玉の食感、すっごくいい!」
「絵海里の飾り切りのおかげで、見た目も涼しげだしな。最高だよ」
隣に座る絵海里と顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。
目の前には、オレンジ色に染まり始めた広い海。
肌を撫でる潮風と、口の中に広がるスイカの甘さ、そしてサイダーの弾けるような爽快感。
ドタバタと騒がしかったけれど、みんなでこうして囲む冷たいデザートは、格別に美味しかった。
「あーあ。なんだか、あっという間だったわね」
ふと、ひなたが沈みゆく夕陽を見つめながら、ぽつりと呟いた。
その声に、僕たちも自然と海へと視線を向ける。
「うん……なんだか、今日が終わっちゃうのが少しだけ寂しいね」
絵海里が、少しだけ名残惜しそうに微笑む。
その横顔をオレンジ色の光が優しく照らしていて、僕はその景色を、胸の奥にそっと焼き付けた。
僕らの熱い夏はまだ続くのに、今日が終わるのがどうしようもなく寂しい。そんな、切なくて愛おしい味がした。




