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第55話 ビーチバレー白熱戦。先輩の秘められたポテンシャル

 砂の造形勝負で引き分けた後。

 僕たちは海の家でレンタルしたビーチボールを持って、波打ち際から少し離れたコートへと移動していた。


「よーし! 伊織、さっきの砂遊びの分もここで決着をつけるわよ! 負けたチームが海の家で全員分のお昼ご飯奢りだからね!」


 ネット越しにビシッと指を突きつけてくるひなた。オレンジ色のビキニにラッシュガードという完全防備だが、やる気だけは誰よりも満ち溢れている。

 チーム分けは、ひなたとななか先輩、そして僕と絵海里のペアだ。


「ふふっ。伊織、足引っ張らないでね?」


 隣に立つ絵海里が、ミントグリーンの水着姿で悪戯っぽく笑う。フワフワとしたお嬢様のような見た目に反して、彼女も意外と負けず嫌いだ。


「絵海里こそ。ひなたのサーブ、結構えげつないから気をつけて……って、あれ?」


 僕はネットの向こう側を見て、思わず首を傾げた。

 ひなたの隣にいるななか先輩が、砂浜に座り込んで完全に「無」の表情になっているのだ。黒のビキニとパレオ姿は相変わらずモデルのように美しいが、生命力という名のオーラが完全にオフになっている。


「……暑い。動きたくない……」

「ちょっと先輩! こんなところで寝ないでっ! 私一人じゃあの幼馴染コンビに勝てないじゃない!」


 ひなたが慌てて先輩の肩を揺さぶるが、先輩は「……お腹すいた。もう帰りたい」と省エネモード全開だ。

 これなら僕と絵海里の圧勝だな、と油断したその時だった。


「そういえば、あそこの海の家……」


 絵海里がふんわりとした声で、ネット越しに呟いた。


「さっき看板に『限定・特盛シーフード焼きそば』と『練乳たっぷり白くまかき氷』って書いてあったよ。すごく美味しそうだったなぁ」


 ピクッ、と。

 ななか先輩の肩が揺れた。


「……えみりちゃん。それ、ほんと?」

「うんっ。エビとかイカとか、シーフードがいっぱい乗ってて——」

「……ひなたちゃん」


 ななか先輩が、ゆらりと立ち上がった。

 伏せられていた長いまつ毛が上がり、そのミステリアスな瞳に、かつて見たことのない猛禽類のような鋭い光が宿る。


「……早く終わらせて、海の家に行く。サーブ、打って」

「えっ?」

「……私にトス、全部集めて」

「ひっ!? わ、わかったわよ……!」


 ピーッ! という架空のホイッスルが鳴った気がした。

 次の瞬間。


「いくわよバカ伊織! 幼馴染のくせに抜け駆けした罰よっ!」


 キュッと砂を蹴り上げ、ひなたが軽やかに宙を舞う。長袖のラッシュガード越しでもわかるしなやかな体のバネと、デニムのショートパンツから伸びる健康的な脚が、眩しい太陽の下で躍動した。

 パーンッ! という小気味良い音と共に、強烈なジャンプサーブが僕たちのコートに飛んでくる。


「わあっ!?」


 反応が遅れた僕の横から、ミントグリーンの水着がふわりと飛び出した。


「えいっ!」


 絵海里が両腕を突き出し、ボールの下へ滑り込む。ポスッ、と少し鈍い音がしてボールが高く上がった。

 その瞬間、フリルがあしらわれた胸元が弾むように揺れ、柔らかな白い肌に砂が張り付く。


「あたた……伊織、お願いっ!」

「ナイスレシーブ、絵海里!」


 砂まみれになりながらも上目遣いで僕を見るその姿が破壊力抜群で、一瞬思考が飛びそうになるが、僕は慌ててボールの下へ入り、ネット際へトスを上げた。


「いっけええええ!」


 絵海里がパタパタと助走をつけて跳び上がり、一生懸命なフォームでスパイクを打ち込む。


「甘いわね!」


 それを待ち構えていたひなたが、スライディングで完璧に拾い上げた。


「先輩、お願いっ!」


 ひなたがボールを上げた先。

 そこには、先ほどまで「無」だったはずのななか先輩が、いつの間にか重力を無視したような高さで跳躍していた。

 黒いホルターネックのビキニと艶やかな亜麻色の髪が、神々しい後光を背負って空中で静止する。


「……特盛シーフードッ!」


 ドスッ!!

 先輩の華奢な腕から放たれたスパイクが、まるで大砲のような音を立てて僕たちのコートに突き刺さる。


「はえっ!?」


 あまりの速度に、僕と絵海里は一歩も動けず顔面に砂しぶきを浴びた。


「……練乳、白くまっ……!」


 その後も先輩の暴走は止まらない。ひなたの献身的なトス(というより怯えながらの献上)から、容赦のない弾丸スパイクが次々と叩き込まれる。


「ひぃぃっ! 先輩、ナイスキー! ナイスキーです!!」


 味方であるはずのひなたすら、あまりのポテンシャルに怯えて砂浜にひれ伏している。


「伊織、ボールがっ、速すぎて見えないよぉ……!」


 涙目で僕の背中にしがみついて隠れる絵海里。背中に押し当てられた柔らかな感触に、ドキドキしている余裕すらない。


「絵海里、下がってろ! あれはもうバレーじゃない、食欲という名の暴力だ!」


 結果は言うまでもない。

 シーフード焼きそばとかき氷という最強の人参をぶら下げられたななか先輩の前に、僕と絵海里は文字通り手も足も出ず、完全なるストレート負けを喫したのだった。


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