第113話 二人きりになれない三人
プラネタリウムや射的でひとしきり遊んだ後、僕たちはグラウンドに立ち並ぶ模擬店の食べ歩きエリアへとやってきた。
ソースの焦げる香ばしい匂いや、甘いクレープの香りが初秋の風に乗って漂ってくる。
「あ、あそこのたこ焼き美味しそう! ちょっと買ってこよっと」
ひなたが小走りで屋台へ向かい、ホカホカと湯気を立てる舟皿入りのたこ焼きを買って戻ってきた。
「伊織、熱いうちに半分こしよ! ほら、冷めないうちに……はい、あーん!」
「えっ、あ、うん。あー……」
ひなたが爪楊枝で刺した大きなたこ焼きを僕の口元へ運んできた、その瞬間。
「あ、たこ焼き! わたしも一口ちょうだい!」
横からひょっこりと顔を出した絵海里が、僕の口に入る寸前だったたこ焼きをパクリと横取りしてしまった。
「……んっ! 熱いけど、お出汁が効いてて美味しい! ひなたちゃん、ごちそうさまっ」
「ちょ、ちょっと絵海里ちゃん! それ伊織にあげようとしてたやつ! 抜け駆けは禁止って言ったでしょ!」
「えー? でも『半分こ』って言ってたから、わたしも混ざりたくなっちゃって。ふふっ」
プンプンと怒るひなたを、絵海里がふんわりとした笑顔で躱す。
すると今度は、絵海里が僕の左袖をくいくいと引っ張った。
「伊織、あっちの校舎で綺麗なステンドグラスの展示やってるみたいだよ。すごくロマンチックなんだって。……二人で見に行こ?」
「えっ、ステンドグラス? いいけど……」
「私も行くに決まってるでしょ!!」
僕が頷きかけるより早く、ひなたが僕の右腕をガシッとホールドした。
「薄暗いアート空間で、絵海里ちゃんと伊織を二人きりにさせるわけないじゃない! ほら、三人で行くわよ!」
「ふふっ、ひなたちゃんは本当に伊織のことが心配なんだねぇ」
「し、心配っていうか、監視よ、監視!」
隙あらば僕と二人きりになろうと牽制し合うひなたと絵海里。
しかし、昔からずっと一緒に育ってきた幼馴染同士だからか、お互いの行動パターンが読めすぎているらしい。
「あ、伊織、喉渇いたでしょ。わたしのお茶……」
「伊織、私の麦茶……」
僕が「少し歩き疲れたな」と息を吐いた瞬間、全く同じタイミングで、左右からペットボトルが差し出された。
「……」
「……」
ピタリと動きを止める二人。
差し出されたペットボトルを持ったまま、ひなたと絵海里は顔を見合わせた。
「ちょっと絵海里ちゃん、タイミング被りすぎ……」
「ひなたちゃんこそ。伊織が喉渇くタイミング、完全に把握してるんだもん……」
数秒の沈黙。
お互いのあまりにも必死で、そして息の合いすぎている牽制行動に、どちらからともなく口元が緩み始めた。
「……ふふっ」
「……あははっ。もう、なんなのよ私たち。お互い必死すぎじゃない?」
「ほんとだね。ひなたちゃんのブロックが早すぎて、わたし全然伊織と二人きりになれないや。あははは!」
二人は顔を見合わせて、お腹を抱えるようにして大笑いし始めた。
さっきまでのバチバチとした火花はどこへやら、そこにはただ、昔からずっと変わらない「気の置けない幼馴染同士」の心からの笑い声があった。
「なんだよ二人して……僕を挟んで笑わないでくれよ」
僕が少しだけむすっとしながら言うと、二人は涙目になりながら僕の両腕をポンポンと叩いた。
「ごめんごめん! だって、やっぱりこの三人が揃うと、どうしてもこうなっちゃうのよね」
「うん。抜け駆けしたかったけど……やっぱり、この三人の時間が一番騒がしくて、楽しいかも」
二人の弾けるような笑顔を見ていたら、僕の胸の奥にも、じんわりと温かいものが広がっていった。
コンテストの優勝や、ななか先輩の爆弾発言で少しだけ遠くへ行ってしまいそうだった日常が、しっかりと僕の足元に戻ってきた気がした。
右に元気な看板娘、左に甘いパティシエール。
結局二人きりにはなれなかったけれど、この騒がしくて心地よい一体感こそが、僕にとって何より代えがたい「特等席」なのかもしれない。
「さてと。そろそろカフェのシフトの時間だろ? 戻ろうか」
「そうね! 準備してきた私たちのメニューで、学校中のみんなを唸らせてやるわよ!」
「伊織の和菓子とわたしの洋菓子、最強のコラボだもんね。頑張ろう!」
秋の高く澄んだ空の下。
僕たちは三人並んで、大盛況の僕たちのクラス――「和洋折衷カフェ」へと足取り軽く向かっていった。




