第112話 女神のあとの大逆襲! 幼馴染たちの甘くて危険なエスコート要求
「ほら伊織、ボーッとしてないで早く行くわよ!」
「ふふっ、伊織、今日は一日エスコートよろしくね」
ひなたに右腕を引かれ、絵海里に左腕を抱きかかえられるようにして、僕は学園祭の喧騒の中へと引きずり出された。
コンテストでのななか先輩の「大切なひと」発言の余波は凄まじく、廊下を歩くたびに四方八方から突き刺さる視線が痛い。
「お、おい見ろよ甘野のやつ……」
「ななか先輩と優勝した直後に、今度は三色堂の看板娘とフランス帰りの美少女を両手に花だと……!?」
「甘野おおおお!! お前一人でこの学園のヒロイン枠を全部食いつくす気か! 爆発しろ!!」
男子たちの血を吐くような嫉妬の声が聞こえてくるが、僕を両脇から固める二人の幼馴染は全く意に介していなかった。
「まずは思いっきり遊ぶわよ! ほら、あそこの射的!」
ひなたが目を輝かせて指差したのは、別のクラスがやっている縁日風の出し物だった。
「ふふんっ! 見てなさい伊織、あの特大のクマのぬいぐるみ、一発で仕留めてみせるから!」
威勢よくコルク銃を構えるひなた。和装メイドの袖をまくり、真剣な顔で引き金を引く。
パンッ!
「あーっ! ちょっと右に逸れた! もう一回!」
バン、バン、バン! と連射するも、コルクは景品をかすめるばかりでなかなか倒れない。
「くやしいー! あと少しだったのに!」
「ひなた、肩に力が入りすぎてるんだよ。……貸してみろ」
僕はひなたからコルク銃を受け取ると、ゆっくりと深呼吸をした。和菓子作りで培った指先の感覚と集中力を研ぎ澄ませる。的の中心、重心を狙って……。
パンッ!
見事に特大のクマのぬいぐるみが後ろに倒れ、景品ゲットの鐘が鳴った。
「はい、これ」
「えっ……私に?」
受け取ったぬいぐるみを抱え、ひなたは目を丸くした。そして、みるみるうちに顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「な、なによ! たまたま運が良かっただけでしょ! で、でも……まあ、せっかく取ってくれたんだし、もらってあげるわよ。……ありがと」
憎まれ口を叩きながらも、ぬいぐるみを抱きしめるひなたの顔は、太陽みたいに眩しい笑顔で咲いていた。
「ひなたちゃん、嬉しそうだね。じゃあ、次はわたしのお願い、聞いてくれるよね?」
ひなたのターンが終わるや否や、今度は絵海里が僕の左袖をくいくいと引っ張った。
彼女が案内してくれたのは、教室を暗幕で覆ったプラネタリウム風の展示だった。
「うわぁ……綺麗」
星空が投影された薄暗い教室内。
「伊織、暗くて怖いな。はぐれないように、くっついててもいい?」
絵海里が上目遣いで僕を見上げ、そっと僕の腕に自分の腕を絡ませてくる。フリルたっぷりのメイド服越しに伝わってくる柔らかな感触と、甘いバニラの香りに、僕の心臓の鼓動は跳ね上がった。
「……っ、え、あ、うん。足元見えないから気をつけてな」
「ふふっ、伊織があったかくて安心する」
さらに、星空を背景にした映えスポットのカフェコーナーに移動すると、絵海里はスマホを取り出した。
「伊織、一緒に写真撮ろっか。はい、チーズ!」
パシャリ、とシャッターを切る瞬間、絵海里の顔が僕の頬に触れるくらいまで近づいてきた。大きな瞳にコンテスト直後にみせた涙の膜はない。そこにあるのは、純粋な好意と、ほんの少しの小悪魔な可愛らしさ。
「えへへ、綺麗に撮れたよ。伊織、顔真っ赤だね?」
「そ、そりゃいきなり近づかれたら……」
「伊織のそういうとこ、すっごく可愛い」
「ちょっと絵海里ちゃん! 暗闇に乗じて密着しすぎじゃない!? 私も写真撮る!」
「ふふっ、ひなたちゃんも一緒に撮ろ? 伊織、真ん中でね」
右からは活発で真っ直ぐなひなたの熱量。左からはふんわりとした絵海里の甘い引力。
お互いのペースで僕を振り回す二人。疲弊しつつも、両極端な幼馴染の魅力に挟まれ、僕の心臓は休まる暇なんて一秒もなかった。




