第110話 ベストカップルと、最高に可愛い笑顔
「――今年のベストカップルコンテスト、見事グランプリに輝いたのは……エントリーナンバー7番、甘野・ななかペアです!!」
司会者の弾むような声が大講堂に響き渡った瞬間、ドワァァァッ! と、まるで爆発のような歓声と拍手が巻き起こった。
色とりどりの紙吹雪が舞うステージの中央で、僕はただ目を丸くしていた。
「うそ……僕たちが、優勝?」
「……伊織くん」
隣から嬉しそうな、ふんわりとした声がして振り向くと、そこには、これ以上ないほど輝く笑顔があった。
「……やったね、伊織くん。……わたしたち、一番に……なれたよ……!」
ぴょんぴょんと小さく跳ねながら喜ぶななか先輩は、誰もが恐れ多いと感じていたミステリアスな『高嶺の花』ではなかった。
年相応の、等身大の女の子。彼女らしい柔らかな口調のまま、でも確かに感情をいっぱいに表に出したその笑顔は、胸が苦しくなるほど、最高に可愛らしかった。
「はいっ! 本当に、先輩のおかげです……!」
僕もつられて満面の笑みを返す。見えない殻を破った先輩は、本当に眩しい。
そんな僕たちのもとへ、司会者がマイクを持って駆け寄ってきた。
「見事なグランプリ、おめでとうございます! ステージでの息の合ったお二人の姿、まさにベストカップルでした! さて、ななかさん。優勝の喜びと共に、パートナーである甘野くんへ一言お願いします!」
向けられたマイクを前に、ななか先輩は少しだけ頬を染めた。
そして、僕の方をじっと見つめ、体育館中が静まり返る中で、はっきりと、けれど彼女らしいおっとりとした声でこう言ったのだ。
「……伊織くんは。……わたしの、大切なひと……です」
――一瞬の静寂。
その直後。
「きゃあああああああああっ!!」
「な、ななか先輩がデレたぁぁぁっ!?」
「甘野おおおお!! お前っ、ふざけんなマジで許さねえええええ!!」
女子生徒たちの鼓膜を破らんばかりの黄色い悲鳴と、男子生徒たちの血を吐くような嫉妬の咆哮が、地鳴りのように大講堂を揺らした。
(ば、ば、爆弾発言すぎるっ!?)
「た、大切な人」って、どういう意味!? いや、もちろん後輩としてとか、そういう意味合いだって頭では分かっているのに、この熱狂の渦の中でそんな甘い言葉を向けられたら、心臓が爆発しそうになる。
「さ、さぁぁぁて! 会場のボルテージも最高潮ですが! 甘野くん!!」
「ひゃいっ!?」
「ななかさんからの熱烈な言葉を受けまして! 甘野くんにとって、ななか先輩とはズバリ、どんな存在ですか!?」
司会者の煽りに、無数の視線が僕に突き刺さる。
頭が真っ白になった。
ええと、ななか先輩は、いつも僕を助けてくれて、僕が作った新作の和菓子を誰よりも美味しそうに食べてくれて、その笑顔を見るだけで新作作りのモチベーションが湧き上がってくるような、そんな……!
「な、ななか先輩は、僕にとってっ!」
(和菓子を最高においしいと言って試食してくれる)
「女神のような存在です!!」
――言ってしまった。
勢いのあまり、一番肝心な部分がすっぽりと抜け落ちた状態で。
「うおおおおおおおおっ!?」
「甘野お前それ公開プロポーズじゃねえかああああ!!」
「あーっ! もう尊い!! 尊すぎる!!」
もはや収集がつかないほどの熱狂。自分の失言に気づき、「あっ、いや、ちがっ、和菓子の試食の――」と弁解しようとした僕の右腕に、ふわりと温かい感触が押し当てられた。
「……ふふっ。……ありがとう、伊織くん……」
ななか先輩だった。
彼女は僕の腕に両手でギュッと抱きつき、肩にこてんと頭を乗せて、とろけるような微笑みを浮かべている。
「――っ!!」
僕の弁解は、完全に喉の奥に消え去った。
可愛すぎる。そして、密着しすぎだ。
腕に伝わる柔らかい感触と、先輩の甘い香りに、僕は茹でダコのように顔を真っ赤にして固まることしかできない。
「だああああ! もう見てらんねえ!!」
「甘野おおおおお! 表出ろおおお!!」
祝福と嫉妬が入り交じる、阿鼻叫喚の地獄絵図。
鳴り止まない歓声の嵐の中で、僕はただ、隣で幸せそうに笑う僕の『女神様』の温もりを、全身で感じていたのだった。




