表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
109/120

第109話 こっちへおいで。自ら割る殻(ななか視点)

 ステージの袖。幕の向こう側からは、体育館を埋め尽くす生徒たちの熱気と、地鳴りのような歓声が響いてくる。

 司会者の声が、いよいよ私たちカップルのエントリーナンバーを呼び上げた。


「行けそうですか、ななか先輩」


 伊織くんが、私に向かってそっと右手を差し出した。

 その手を見つめて、私は小さく息を吸い込んだ。

 さっきの控室で、私を助けようと必死になってくれたみんなの姿が脳裏に浮かぶ。みんなが、私の周りの透明な壁を外からトントンと叩いてくれた。


(……今度は、わたしの番だ)


 みんなに守られ、遠くから祈られるだけの『高嶺の花』は、もう終わりにしよう。

 飾られているだけの女神じゃなくて、「私も、みんなを笑顔にしたい」。


 私は心の中で力強く願いながら、思い切って――自分を孤独に閉じ込めていた冷たい『ガラスの箱』を、私自身の手でパリンッと叩き割った。


「……うん。行こう、伊織くん!」


 見えない殻を脱ぎ捨てた私は、彼の手をしっかりと握り返し、みんなに笑顔を返したい、みんなを笑顔にしたいという願いを込めた、晴れやかな微笑みで、光の差すステージへと歩み出た。


 ステージの中央へ進み出た瞬間。

 会場を埋め尽くしていたざわめきが、魔法をかけられたようにふっと消え去った。

 誰もが息を呑む気配が、肌を刺すように伝わってくる。


 無理もないかもしれない。今まで、学園の誰も見たことがなかったはずだ。私が一人の男の子のエスコートを受けながら、会場のみんなへ向けて、こんなにも無防備で、心からの笑顔を見せている姿なんて。


 絵美里ちゃんが飾りつけてくれたドレスのレースが、歩くたびにふわりと揺れる。

 静まり返った大講堂。

 私たち二人だけを、真っ白なスポットライトが照らし出していた。


 たくさんの視線を浴びて、少しだけ足が竦みそうになった私。すると、隣を歩いていた伊織くんがスッと足を止め、私と正面から向き合ってくれた。

 そして、いつものように――まるでおいしいお菓子を差し出してくれる時のような、気負いのない、最高に温かくて優しい笑顔を向けてくれたのだ。


 その温度に触れて、私の緊張はふわりと解け、表情はさらに柔らかく和らいでいく。

 自分でもわかる。今の私が、彼に向けてどんな顔をしているか。

 ただの先輩と後輩じゃない。私を孤独から連れ出してくれた彼に対する、まるで恋人に向けるような、甘くて、愛おしさを隠しきれない微笑み。


 次の瞬間だった。 


「うおおおおおおおおっ!!」

「な、ななか先輩ー!! なにあの笑顔、破壊力やばい!!」

「甘野おおお! お前マジで羨ましいぞ!! そこ代われ!!」


 静寂を切り裂くように、会場のボルテージが一気に爆発した。

 割れんばかりの歓声と拍手、そして悲鳴にも似たエールが、光の海となって私たちを包み込む。

 それは、私を遠ざけるための崇拝じゃなく、私たちの姿を心から祝福してくれている、熱くて心地よい波だった。

 箱の外の世界は、こんなにも眩しくて、温かかったんだ。


「すごい歓声ですね、先輩」

「……ふふっ、そうだね」


 私は繋いだ手をもう一度ギュッと強く握りしめる。私たちは向き合い、互いの瞳を見つめ合ったまま、鳴り止まない歓声のシャワーを全身で受け止めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ