第107話 学園祭本番! 賑わう和洋折衷カフェ
「――はい、こちら『キャラメル林檎の桃山』と温かいお抹茶セットでございます! ごゆっくりどうぞ!」
厨房の熱気と、注文票が重なる音。
僕は注文のセットを用意しながら、ふと気になって、フロアとの境界にある暖簾の隙間から外の様子を覗き込んだ。
そこには、僕たちが想像していた以上の、眩しいほどの光景が広がっていた。
「お待たせしました! 続いて『和マカロン』のセット、お持ちしましたよ!」
テキパキとフロアを駆け回り、ハツラツとした声を響かせているのはひなただ。
低い位置で結んだツインテールを揺らしながら、和装メイド姿で次々と注文をさばいていく彼女の姿は、まさに『三色堂』で鍛えられた本物の看板娘の貫禄があった。
彼女が通るたびに、客席がパッと明るくなる。元気いっぱいの接客と、時折見せる職人のような凛とした佇まい。そのギャップが、訪れる客を惹きつけてやまない。
一方で、フロアの逆側では全く違う空気が流れていた。
「……ふふっ。お口に合いましたか? よかった……。ゆっくり、召し上がってくださいね」
絵海里が、お人形のような正統派メイド服を優雅に翻し、一人ひとりのお客様に寄り添うように接客している。
彼女が微笑むだけで、そのテーブルの周りには穏やかで上品な時間が流れる。ふんわりとした柔らかいオーラと、丁寧に淹れられた紅茶の香り。彼女の存在そのものが、このカフェの「洋」の部分を完璧に演出していた。
元気いっぱいのひなたと、優雅な絵海里。
対照的な二人のヒロインが、僕たちの作った『和洋折衷』のメニューを最高の色で彩っている。
「……よし、僕も負けてられないな」
僕は再び厨房に向き直り、最後の一皿を仕上げた。
看板娘、パティシエール、そして僕たちクラスメイト全員の想いが乗ったカフェは、開店から一時間も経たずに満席。廊下には長い行列ができるほどの大盛況となっていた。
やがて、クラスメイトの男子が血相を変えて厨房に飛び込んできた。
「甘野! そろそろ時間だぞ! 例のコンテストの集合時間!」
「あ……もうそんな時間か」
慌ててエプロンを脱ぐ僕に、周りのクラスメイトたちが次々と声をかけてくる。
「あとは任せとけ! 甘野はこの店の立役者なんだから、胸張って行ってこいよ!」
「ななか先輩をエスコートするんだろ? 鼻の下伸ばしすぎて転ぶなよ!」
「優勝報告、待ってるからな!」
頼もしい仲間の声に送り出され、僕は教室を後にしようとした。
すると、そこに――接客を終えたばかりのひなたと絵海里が、少しだけ落ち着かない表情で駆け寄ってきた。
「ちょっと伊織! なによ、もう行くの!?」
「……伊織。忘れ物、ない……? 髪の毛、少し跳ねてるよ」
ひなたが心配そうに僕のシャツの襟を直し、絵海里が自然な動作で僕の髪を整えてくれる。
「大丈夫だよ。二人とも、お店の方は頼んだぞ」
「当たり前でしょ! ……でも……うーん、やっぱり気になるわ。私も準備、手伝いに行く!」
「……わたしも。伊織の晴れ舞台、ちゃんと近くで見ておきたいし」
二人は「お店はみんなに任せたから!」と強引に宣言すると、僕を挟むようにして歩き出した。
クラスメイトたちの温かい(あるいはニヤニヤした)視線に見送られながら、僕は期待と不安が入り混じった気持ちで、ななか先輩の待つ集合場所へと向かった。




