第106話 いよいよ開店!和洋メイドの猛攻と、僕たちの結晶
学園祭当日の朝。僕たちの教室は、かつてない熱気と、和洋が混じり合った甘い香りに包まれていた。
看板、メニュー表、座席の配置――。何度もシミュレーションを重ねた準備は万端だ。あとは、開店のベルを待つばかり。
「……よし。厨房の火加減も、お茶の準備もオッケーだ。あとは……」
僕が最終チェックを終えてフロアへ出た瞬間、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
「伊織! 準備終わったわよ。……ねえ、どうかしら。変じゃない?」
声をかけてきたのは、和装メイド姿のひなただった。
いつもの低い位置で結んだツインテールはそのままに、紺色の着物の上から純白のフリルエプロンを纏い、頭にはカチューシャ。凛とした「三色堂」の娘らしい強さと、メイドの可愛らしさが絶妙に同居している。
「あ、ああ。すごく似合ってるよ、ひなた。和洋折衷のコンセプトにぴったりだ」
「ふふんっ、そうでしょ?」
ひなたがニヤリと笑いながら僕に詰め寄る。その直後、背後からふわりと甘い香りがした。
「伊織、お待たせ。……わたしも、準備できたよ」
振り向くと、そこには絵海里がいた。
彼女はひなたとは対照的な、レースとフリルをふんだんに使った正統派の洋風メイド姿だ。お人形のような彼女の雰囲気に、クラシカルなロングスカートのメイド服が驚くほど馴染んでいる。
「絵海里まで……。二人とも、気合入ってるな」
「当たり前だよ。だって、伊織の隣に立つんだもん。……ねえ、どっちが可愛い?」
絵海里がふんわりと微笑みながら僕の左腕に寄り添い、それを見たひなたが「ちょっと!」と右腕を掴んでくる。
右からは和装メイドの引力、左からは正統派メイドの魔力。二人に挟まれ、至近距離で見つめられた僕は、心臓が口から飛び出しそうなほどドギマギしてしまった。
「え、えっと……二人とも、本当に綺麗で……」
「「で?」」
「あ、あの! それより、見てくれよこれ!」
このままではパンクしてしまう。僕は慌てて、カウンターに並んだ自慢のメニューを指差した。
「三人で試作を重ねた『和マカロン』と『キャラメル林檎の桃山』! さっきクラスのみんなに味見してもらったんだけど、めちゃくちゃ評判がいいんだ。『これ、本当に高校生が作ったの?』って驚いてたぞ!」
僕の強引な話題転換に、クラスメイトたちも乗ってくれた。
「マジだよ! 特にあの桃山、和菓子なのにキャラメルがトロッとしてて最高だったぜ!」
「和マカロンも、マカロンの概念が変わるくらい美味しい! これなら絶対、今年の最優秀賞を狙えるよ!」
クラスメイトたちの称賛の声に、ひなたと絵海里はパッと顔を見合わせ、満足そうに胸を張った。
「当たり前でしょ! 私と伊織が、それこそ毎晩のように甘野家の厨房で特訓した成果なんだから!」
「ふふっ。わたしのパティシエとしての感性と、伊織の真心が詰まってるもんね」
二人は誇らしげに頷くと、僕を離してクラスのみんなに向き直った。
いつの間にか、教室内には「やってやるぞ」という一体感が生まれていた。看板娘も、パティシエールも、そしてクラスの仲間たちも。みんながこの喫茶店の成功を信じている。
「よし、これなら大丈夫だ! みんな、気合入れていこう!」
「「「おー!!」」」
威勢のいい声が響き渡る。
僕が入り口の扉に手をかけ、ゆっくりと開く。
「いらっしゃいませ!」
僕たちの、和と洋が溶け合う特別な学園祭が、今、最高の形で幕を開けた。




