わな
お昼になると、上田がにこにこしながら、川岡に机を寄せようとする。
「悪い。
今日はちょっと、用事があんねん」
そう言って立ち上がる川岡。それに続いて、山本とその取り巻き連中が顔を見合わせて、頷きあって席を立ちあがった。
教室を出て行く川岡を追うように出て行く山本とその取り巻き連中。
教室の中の生徒たちは何が起ころうとしているのか、おおよその推測はできた。上田も事態を予測して、開けようとしていたお弁当をそのままに、一度立ち上がり出て行く生徒たちを呆然と見送った後、心配そうに席についた。
体育倉庫の裏側。体育倉庫は学校の敷地を囲む壁に沿うように立っていて、壁との間に数mの空間があるだけで、普段から人通りはない。しかも、壁はコンクリート製で、壁の向こうからも見えない、隔離された空間である。
先に向かった川岡が一人で立っているところに、山本と取り巻き連中がやって来た。
「よっ、転校生」
「よっ、馬鹿」
この状況でも怖気づかず、いきがっている川岡に山本の怒りはふつふつと湧き上がってくる。
「馬鹿はお前やろう?
ここにはお前しかおらへんのんやで。
俺らに勝てる気でおるんか?
だとしたら、お前の方が馬鹿ちゃうんか?」
「ははは。
お前らはほんま呑気なぁ。
この場所を指定したんは俺やで。
何でやと思うとんねん。
ここは完全に学校の教室からは見えへんだけとちゃうでぇ。
人が潜んでいても分からへんねん」
そう言う川岡の顔は、不利な立場の者が見せる表情ではなく、弱者をいたぶる時に見せる強者のようなにやついた表情だった。




