保健の先生
上田が迷わず、保健室に飛び込む。
上田の目に、勢いよく開いた扉に何事かと振り向く保健の先生の姿が映った。
白衣を着て、濃い茶色の長い髪、すらりと通った鼻筋に二重瞼でぱっちりと大きく見開いた瞳。
首から下げたネームプレートに山口みのりと書かれていて、20代の若い女性。
「どうしたの?」
その声に、はあはあと息を切らせるばかりで、何も言えない上田に、山口が心配そうな表情で近寄って行く。
制服の所々は汚れていて、胸のネームプレートはまだ新しい感じの輝きを放っていて、上田と書かれている。
山口がそう観察して、再び上田に問いかける。
「上田君なのね。
どうしたのかな?
転んで怪我したの?」
保健室の中。
教室とは隔離された世界。ここには同級生たちはいない。その安心感と屈辱感から、俯いた上田の頬を一粒の涙が伝う。
「こっちにおいで」
山口が上田の肩に手をかけ、保健室の奥にある椅子に上田を誘う。
「何組かな?
保健室で休むって、担任に言っておかないとね」
その言葉に顔を上げた上田の顔には、何か安堵感のようなものが漂っていると山口は感じた。
上田からクラスを聞きだし、担任に連絡すると、再び山口は上田に話しはじめた。
「何があったのかな?
けんか?」
優しげな口調の問いかけに、上田は嗚咽を始めた。
結局、その日一日上田は保健室で休んでいたが、何があったのかは全く言わなかった。
そんな上田が元気なく保健室を後にする姿を見て、山口は職員室の小谷の所に向かう事を決めた。




