ホームルーム
休憩時間終了のチャイムが鳴っても、教室の中は自分の机から離れて、友達と話続けている生徒たちが、相変わらずちらほらといる。次の時間はホームルーム。
宮崎は緊張の面持ちで、うつむき加減に机の上で握りしめた自分の手を見つめている。
廊下を歩いて教室に近づいてくる人の気配に、席を立っていた生徒たちがおしゃべりを止め、教室のドアに目を向けた。
その教室のドアが開き始めたのを確認すると、席を立っていた生徒たちが、慌ただしく自分の席に戻って行く。
開いたドアから現れた小谷は普段の表情とは違い険しい表情をしていて、それに気付いた生徒たちが、何事かとお互いの顔を見合わせている。
「起立。礼。着席」
号令が終わると、小谷が低い声で、話しはじめた。
「えー。
今日のホームルームは、いじめについて話し合う事にする」
小谷の突然のいじめと言う言葉に、教室内は一気にざわめき始め、生徒たちはお互いの顔を見合わせている。
「先生!」
小山が元気いっぱいの声でそう言って、手を上げた。その声に小谷が視線を小山に向けると、小山はすくっと立ち上がり、小谷に質問を始めた。
「それって、たとえば、このクラスでいじめがあるって事なん?」
小山がそう言いながら、教室を見渡すと、教室内の生徒のほとんどが首をかしげて見せている。上田は助けを求めるチャンスかも知れないと言う気持ちもあるが、後で仕返しを受ける事を恐れて、何も言わず下を向いて黙り込んでいる。
宮崎が心配そうに教室の反応を見渡している。
普通の生徒たちはもちろん、以前から仲間外れにされていた女生徒も上田も、何も言おうとする気配を見せないていない事に、宮崎が落胆の表情を少し浮かべている。
「いや、そんな事は言ってえへんぞ。
いじめと言うものはだな、やっている方は軽い冗談のつもりでも、受けている方はそう感じでいるかも知れんもんなんや。
だから、行き過ぎたいたずらはあかんのや。
そんな事はないか?」
小谷はそう言うと、視線を上田にしばらくとどめた後、クラス中を見渡す。その視線が上田にとどまっていた事を山本は見逃していなかった。山本は怒りの視線を上田の背中に送りつける。
「ほな、先生。
誰かが行き過ぎたいたずらされてるっちゅうんか?」
立ったままの小山が自分たちを疑うのか?と言うような不満の表情で、小谷にたずねた。
「ええか。
話は一般論や。
先生のクラスでそんな事は無いと思うけど、確認や」
「先生!」
野太い声でそう言いながら、今度は山本が立ち上がった。
「そりゃあ、この前の藤井の殺虫剤みたいに、行き過ぎたりする事も無いとは言えへんけどな、相手がほんまに嫌がっとるような事はしてぇへんで。
なぁ」
山本はそう言うと、教室を見渡した。ほとんどの生徒たちは頷いている。
「分かった。
特に問題は無いんやな?」
もう一度小谷が、席に座ってうつむいている上田に視線を送りながら言う。
教室の中はその問いかけに、言葉ではなく頷く事で、多くの生徒たちが答えている。
「まぁ、何かあったら、先生に言いや」
小谷はそう言って、いじめの話を終わらせると、ふぅっとため息をつきながら、宮崎を一瞥した。
「こんな事しかしてくれないんじゃ、言っても無駄じゃない」
宮崎は心の中でそう叫びながら、無念さに机の下で、ぎゅっと拳を握りしめていた。




