これはお前が書いたのか?
学校が終わり、生徒たちが自分の机の中に入れてある教科書やノートを自分の鞄に詰めている。そんな生徒たちの表情には解放感があふれ、いたるところで楽しげな私語が飛んでいる。
上田はそんな教室の楽しげな雰囲気とは無縁で、教科書とノートを慌てて詰め込んだ鞄を持って、逃げ出すかのように教室から出て行こうとしている。
小谷はまだ教室から立ち去っておらず、そんな上田の姿を一度目で追った後、教室の中に目を戻した。
「おい、宮崎。ちょっと職員室まで来い」
小谷が教室の中で帰り支度をしていた一人の女生徒に、そう命じた。
突然担任に、職員室まで来るように呼ばれた宮崎が驚いた表情で小谷を見る。
「あ、はい」
どうして?
そんな雰囲気の態度で、小谷に答えると、鞄を持って小谷の後を追うように、宮崎が教室を出て行く。
教室の中は一瞬、何?と言う感じの空気に包つまれたが、すぐに元の楽しげな雰囲気に戻って行った。
鞄を手に廊下を出た宮崎が、廊下の先を行く小谷に追いつこうと、小走りで後を追う。
小谷が職員室に到着する前に、宮崎が自分に追いついた事を知ると、振り返って鬱陶しそうな表情を宮崎に向け、言った。
「音楽準備室の前で、待っていてくれ。
鍵を取ったら、先生も行くから」
「はい」
宮崎はそう言って、音楽準備室に向かい始めた。
音楽準備室は教室のある本校舎から離れた場所にある小さな旧校舎の一室である。この旧校舎には音楽室と図書室があるが、音楽室と図書室は旧校舎の階段を挟んで、それぞれ反対側にあるため、音楽室や隣接する音楽準備室周辺への生徒たちの出入りは、音楽の授業の時を除けばほとんどなかった。
言わば、完全に隔離された空間である。
宮崎がそんな音楽準備室の前で立っていると、小谷が鍵を持ってやって来た。
小谷は鍵を開けると、顎で宮崎に入れと合図を送り、宮崎と一緒に誰もいない音楽準備室に入って行った。
小谷はその部屋にある椅子に座り、テーブルを挟んだ対面側に宮崎を座らせた。
「これはお前が書いたのか?」
宮崎が席に着くと、小谷は一枚の紙を差し出した。




