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9話 『王都に到着』

 ここは氷河の大陸の北に位置する極寒の地。

 そんな場所に1つの城が立っていた。


 「()はどう動いている?」

 「以前変わらず特別な動きはしておりません。ですが……」

 「なんだ、さっさと言え」

 「はい。魔界から……漆黒の悪魔が消え去りました」

 「……なに?」


 白銀の長髪の男は、飲んでいた紅茶を静かに置くと、扉の前に立つ人狼(ヒューマンウルフ)に向かって鋭い目を向けた。

 人狼はしばらく睨みつけられ、一筋の汗が流れ落ちた。


 「まあいい。どうせ俺達に影響はない」

 「分かりました。ではこのまま監視を続行致します」

 「そうしろ」

 「了解しました。ラル様」


 人狼はラルと呼ぶ人物に跪き、その場を後にした。


 「はぁ……」


 ラルは一度座り直すと、綺麗に手入れされた窓から外を眺めた。

 ただ眺めたところで、白く染まった世界しか存在しない。


 もうこんな世界など飽きた。

 俺は新しい世界を手に入れたい。


 ラルの視線は大地から空へと移り変わる。

 空には幾つもの星が光り、巨大な惑星が自由に浮かんでいた。

 

 嗚呼……あの惑星が俺のものだったらどれだけいいことか。

 

 ラルは空に向かって手を伸ばす。

 

 俺は必ずこの世界を手に入れる。

 まずはそこからだ。

 

 手を下ろし飲みかけだった紅茶を一気に飲み干す。

  

 この男はいつでも自由を欲する。

 自由をどこまでも欲するこの男の名は、ラル・デュレラリ・クルス。

 またはこう呼ばれている。

 氷帝、と。



◇◆◇



 馬車に揺られて約1日。

 外はすでに真っ暗だ。

 この時間帯は夜行性の魔獣や魔物が活発になるが、俺達が今いる周辺には魔獣は出ないらしい。

  

 魔獣と魔物の違いだが、魔獣は名前の通り獣であり、知恵がない。

 多少仲間と連携は取るが、所詮は獣。

 本能のままに生きるもの達だ。

 それに対して魔物は、人間と同様に知恵があり言葉を操る。

 外見が人間とは異なる種族もいるが、それ以外はほとんど何も変わらない。

 変わるとしても、人間より身体能力が高いということだけだ。

 魔物は人間の国で普通に暮らしたり商売をしたりしている。

 

 そして俺達が乗っている馬車を操縦しているのは、人間ではなく魔物だ。 

 頭から2本の角を生やしている。

 鬼人族らしい。


 俺の前に座っているフレアは、頭をクラクラさせて眠たそうにしている。

 

 「横になって寝れば?」

 「まだ俺は……眠くない……」

 

 どう見ても眠そうだろ……。

 

 「そういえばこの前……お母さんの前で言いこぶってるって言ったの覚えてるか……」


 フレアは両目を充血させながら、ぼーっとする感じで突然口を開いた。

 

 「覚えてるよ。それがどうかしたのか?」

 「あれは……嘘だ」


 ん? 嘘?

 あれのどこら辺が嘘なのだろうか。

 全然普通の理由に感じられたけど。


 「本当はあれが……素の俺だ……」

 「はぇー、あれが素のフレアか。そうかそうか……」


 は……?

 ん、あれ?

 あれが素のフレア?

 こいつ絶対寝ぼけて逆のこと言ってるだろ。


 「フレア寝ぼけてるのか? 今のフレアが素のフレアだろ?」

 「それが逆だわ。お母さんの前の俺が素の俺だ」

 「まじで……?」

 「まじで」


 ていうことは……今のフレアは演技をしているってことか?

 俺はてっきりお母さんの前だけ演技していると思っていたが、まさか逆とはなぁ。

 でもどうして演技をする必要があるんだ?

 別に俺の前でもあんな感じで良いのに。


 「今こんな喋り方してるけど……別にわざとやってる訳じゃねぇよ。なんかわからないけど……家族の前以外だと、勝手にこうなるんだよ」


 じゃあフレアにとったら無意識ってことか。

 なんか不思議だな。

 変えようとしてる訳ではないのに、勝手に変わっちゃうなんて。


 「多分だけど、俺が心を許してる相手だとあんな喋り方になるんだと思う」

 「なるほど、そういうことか。じゃあ俺がフレアにとって、心を許せる存在になれば良いってことだな」


 そう言ってフレアの顔を見ると、動きが完全に止まって顔が赤くなっていった。


 「はぁ!? 馬鹿! 何言ってんだよキモ! もういい寝る!」


 突然と照れと暴言の嵐。

 その後フレアは俺に顔を見せないようにして、寝転がってしまった。

 

 良いこと言ったと思ったのになぁ。

 これを女性に言ったらキモいかもしれないけど、別にフレアになら良いじゃないか。

  

 俺はそれから納得出来ないまま、馬車に揺られて王都へ向かった。

 


◇◆◇



 「おい見ろよあれ!」


 フレアは随分とテンションが上がっているようで、俺の肩をグワグワと揺さぶりながら遠くを指さした。

 体を揺らされたまま俺は外を見る。


 「おぉ……すげぇ……」


 口から勝手にそうこぼれ落ちていた。

 

 俺の瞳には、敵を絶対に侵入させないと言わんばかりの壁が聳え立っていて、王都を固く守っていた。

 フレアの街でも大きいと感じたのに、王都はさらに数倍の大きさはある。

 ずっと村で暮らしてきた俺からしたら、王都など未知の世界だ。


 俺もまるで子供のように体がワクワクしてきた。


 馬車が進んでいくにつれて、()()は次第に大きくなっていく。

 王都に入るための門付近まで来れば、数え切れないほどの馬車や人が行き来している。

 国の中心の場所だからこれが普通の光景なのだろうか。

 なんとも不思議だ。


 そして遂に俺達は門をくぐった。


 俺が見る初めての世界。

 その世界は実に――。


 「すげぇぇぇ!」

 

 俺もフレアと同様、凄いとしか言うことができない。

 なんだこの活気に溢れた世界は。

 まるで祭りをやっているみたいではないか。

 地面は綺麗に整備されていて、ここにいる人達はもう服装が違う。

 見るだけで高級なものなんだと感じることができる。


 フレアはジャンプをして馬車で大騒ぎ。

 俺も内心大騒ぎ。

 

 ここから俺はどんな世界を広げていけるのだろうか。

 ただただ期待が高まっていくばかりの俺であった。

 


 俺達は馬車を降りて、フレアのお母さんがくれたお金で運賃代を支払った。

 銀貨5枚だったが、中々痛い出費だ。


 その後、どこに向かうか話し合った結果、まず最初に冒険者ギルドへ向かった。

 俺は宿を探そうと言ったのだが、フレアが冒険者登録をしたいと言うことを聞かないから、仕方なく行くことになったのだ。

 フレアがどれだけ強くなろうと、まだこういうところは子供だな。


 設置してあった地図で冒険者ギルドの場所を確認して、俺達はしばらく歩き続けた。

 そこで気が付いたのだが、いつまで歩いても人の数は減らない。

 つまり、一部の場所が栄えているのではなく、王都全体が栄えているということだ。


 そんな事を考えながらゆっくり歩いていると、フレアは早く行きたいせいで、俺を置いて走って行ってしまった。


 「俺を置いてくなよ!」


 俺も急いで後を追う。

 だが人が多いせいでなかなか前に進めない。

 そんな俺に対して、フレアは体が小さいおかげで人と人との間を蛇のように抜けて行く。

 

 迷子になったらどうするつもりなんだ。

 連絡手段がまともにないのに、俺を置いて行ったらしばらく会えないかもしれないじゃないか。


 『そんな事は心配するな。俺とフレアは繋がっている』

 『そういえばそうだったな』


 でもフレアのことだ。

 1人にすると何をやらかすか分からない。

 誰かと揉めるかもしれないし。


 そう考えると俺は居ても立っても居られなくなり、もう一度走り出した。

 が、やはり人混みで思うように動けず、その上女性の冒険者らしき人にぶつかってしまった。


 「あ! すいません!」

 「いや、私こそ不注意だった。申し訳ない」

 「やめてください。走ってた俺が悪いんです。あ、そういえばこのくらいの男の子を見ませんでしたか?」

 

 俺は自分の胸くらいの高さで手のひらを動かした。

 女性は少し考えるような仕草を見せた後、俺が来た逆方向を指差した。


 「確か向こうにそのくらいの背丈の子供がいたぞ。冒険者ギルドの前だったはずだ」

 「教えていただきありがとうございます。では俺はこれで」

 「ああ、では私も行くとする」


 良かったぁ……怖い人じゃなくて。

 胸ぐらでも掴まれたらどうしようかと思ったよ。

 まあ一件落着――ではないか。

 早くフレアの所に行かないと。

 

 そしてまた走り出そうとしたが、一旦足を止めた。


 やっぱり歩いて移動しよ。

 

 

 

 

 

 


 

 


 

 

 

 

 


 

 

 


 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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