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8話 『旅立ちの日』

 しばらく歩いてすでに街の外。

 その(かん)誰もが口開かず。

 

 あぁ……気まずい……。


 「ベスウィさん? ここ街の外ですけど、どこに行くんですか?」

 「そうだよ。お……私にくらい教えてよ」


 そのまま俺って言ってしまえばよかったのに。

 お母さんがどんな反応をするのか是非見てみたい。

 

 まあ、そんなことは良いとして。


 少し離れた場所を指差して、俺はフレアに声をかける。

 

 「あそこに立ってくれないか」

 「え? 本当に何する気……」


 まだ俺が何をしたいか分かっていないようだが、大人しく指示に従ってくれる。

 

 フレアのお母さんにはその場から動かないように頼み、俺も少し離れた場所まで行きフレアと向き合う。

 もうここまでくれば、俺が何をしたいか分かるよな。


 「いつものようにやるぞ、フレア」

 「いつものようにって……本気で言ってるのか!?」

 「あの〜ベスウィさん。今から何をなさるのですか?」

 「まあ見ててください。これがフレアの成長の証です」


 俺が声を発するのとほぼ同時に、足元がひび割れ空気が揺れる。

 フレアには何故ここに来て、何をするのかも伝えていない。

 それでも尚、漆黒の悪魔の体が染みる俺の攻撃を焦る事なく躱した。

 それだけではない。 

 フレアは体が自然と反撃しようとしているのだ。


 すぐに反撃の蹴りが来るが、リュグルの経験のおかげで難なく躱す。

 フレアの背後に周り、背中に向けて拳を打つ。

 が、それは軽く流さ俺の顔の横を、反撃の拳がすり抜けていく。


 フレアはまだ身体強化魔法を発動していない。

 それなのに俺の攻撃を躱し、完璧な反撃をしてくる。

 まさに天才、そして異常。

 人間の領域を遥かに超えた動きだ。


 フレアはさらに攻撃を畳み掛けてこようとするが、俺が手を前に出すと一瞬にして動きが止まった。

 もう十分だろう。


 「どうですか? これがフレアの言っていた『頑張った』というものです」


 フレアのお母さんは目を見開いて呆然としている。


 俺はあまり他人の家族の話に入りたくはない。

 だがこれだけはどうしても言っておきたい。


 「俺は長い間自由が許されない生活をしてきました。俺にはやりたいと思った事があったけど、何一つ行動せずただ()()()()()()()でした。

 ですがフレアは、思うだけでなく実際に行動を起こしました。やりたいと思うだけでなく、やりたい事を達成するために必死に努力できるフレアを信じてあげても良いんじゃないでしょうか?」

 「わ……私からもお願い……! お父さんは冒険者だったでしょ? お父さんはもういないけど……それでも尊敬するお父さんに少しでも近づきたい! 

 だからお母さん! 私が冒険者になる事を認めてください!」

 

 俺はフレアのことをよく知らない。

 所詮会って数日の仲だ。

 だが俺は知っている。

 フレアが必死に努力できる人間だと。

 キツイことにも立ち向かえる人間だと。


 「はぁ……」


 フレアのお母さんは小さなため息をついて額に手を当てた。

 

 これはダメかな……。

 フレアの顔も曇っている。


 しかし答えは、俺達の予想を反するものだった。


 「冒険者になりたいってことは……王都にも当然行くのよね?」

 「え、あ、うん……まあ……」

 「どのくらい離れているの?」

 「馬車で2日……」

 「そう……」

 

 俺たち3人の間に沈黙が流れる。

 聞こえるのは風と虫の声だけ。


 「月に1回は必ず手紙を送ること。いい?」

 「やっぱりダ……え?」

 「手紙を忘れずに送るって約束が出来るなら……冒険者になることを許可します」


 はい、頂きました許可しますというお言葉。

 

 俺はすかさずフレアの顔を見る。

 するとそこには、フレアと出会って初めて見るかもしれない満面の笑みを浮かべていた。

 

 「え、え!? いいの? 本当にいいの!?」

 「フレアがやりたいって言ったんでしょ?」

 「それはそうだけど……本当にいいって言われるなんて思いもしなかったから」

 「私も言うつもりはなかったけど、ベスウィさんにも言われちゃったらね。もう良いって言うしかないでしょ?」

 「ははは……口を挟んですいません……」


 我ながら行きすぎた真似をしたかもしれない……。

 今度からは気をつけるか。


 ……でもまぁ、こんなフレアの笑顔を見たら後悔なんてないけどな――っと!?

 

 俺が1人で勝手に格好つけていると、突然横から勢いよく抱きつかれた。

 その力の強さに、バランスが取れず横に倒れてしまう。

 

 「ベスウィ! ありがとう!」

 「あ、あぁ……。迷惑じゃなくてよかったよ」


 前はフレアに頭を撫でられたが、今回はハグか。

 もしこの場にお母さんがいなかったら、フレアは抱きついてきたりして来なかったかもしれない。

 普段とフレアじゃないと変な感じがするが、()()フレアもいいもんだ。

 

 俺は胸の中で密かにそう思った。


 結局その後もしばらくフレアに抱きつかれ続けた。


 そしてその後は言うまでもなく、フレアのお母さんが青ざめた顔で俺の走り寄ってきた。


 安心してくださいお母さん。

 俺の体って傷がすぐ治るんです。


 とは言うことのできない俺であった。



◇◆◇



 「ついにこの日が来たよ」

 「荷物は持った? あ、それとお金も。あとちゃんと手紙も送るんだよ」

 「分かったってば。そんなに心配しないで」


 あれから2日後。

 俺達は荷物をまとめて家の外に出た。

 これでフレアのお母さんともお別れだ。

 

 「見ず知らずの俺をしばらく泊めていただいて、本当にありがとうございました」

 「まあそんな! ベスウィさんは命の恩人なのですから、これくらいは当たり前ですよ。またいつでも来てください」

 『飯美味かったぜ! じゃあな、フレアの親!』


 どうやらリュグルは、俺が食べた食べ物の味が分かるらしい。

 リュグルが嫌いなものを食べたらどうなるんだ?

 今度聞いてやってみるか。


 まだフレアのお母さんの瞳からは、少しだけ不安さが感じられる。

 だけど、たった数日であの強さを手に入れたフレアなら、これから先もっと成長するはずだ。

 恐らくフレアは困難な事にぶつかっても、必ずやり遂げてみせる。

 そうすればきっと、フレアのお母さんと不安を取り除くことが出来るはずだ。


 「じゃあお母さん、行ってきます!」


 フレアの元気な声と共に、俺達は同時に足を一歩踏み出す。


 これから俺達の新しい世界が始まる。

 俺が見ていく世界はどんなものなんのだろうか。

 そこに自由はあるのだろうか。

 楽しさはあるのだろうか。

 美しさはあるのだろうか。


 まあいいさ。

 それはこれから知っていけばいい。

 どんな世界が待っているかは自分次第だ。


 俺は明るい未来に期待しながら、もう一歩前に踏み出した。

 


 

 


 


 

 

 

 


 

 


 

 

 

 


 

 

 

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