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10話 『剣を握れば』

 「えぇぇぇぇぇぇ!? なんでだよ!」

 「そういうルールですので……」

 

 俺はフレアと無事合流し、冒険者ギルドで冒険者申請をしようとしていたのだが……申請をすることが出来なかった。

 理由として、申請をするための条件を俺達が満たしていなかったからだ。

 その条件なのだが、D級以上の依頼を達成することだ。

 依頼にはそれぞれランクがつけられていて簡単な方からF、E、D、C、B、A、Sとなっている。

 

 Dランクくらいの依頼を達成できない奴を、冒険者にする事は出来ないって事だろうか。

 まぁ、ここはDランクの依頼パパッと達成してしま――。


 「じゃ、これお願いします」


 Dランクの中でも簡単なものを受けようと、依頼一覧を眺めていると後ろでフレアが受付人に話しかけているのが聞こえた。

 何故か嫌な予感を受けつつも、俺はそれが外れていてくれと願いながら振り返る。 

 だが俺は最悪な光景を目にした。

 

 フレアの手にはAランクと書かれた紙が握られていて、それを受付人に出しているのだ。


 「ちょっと待て!」


 俺は今までで1番かもしれない程の俊敏な動きでフレアに駆け寄ると、急いで紙を取り上げた。


 「何考えてるんだ! これAランクだぞAランク! 別にDランクの依頼を受ければいいじゃん!」

 「ベスウィこそ何考えてんだ! そんなんつまんねぇじゃねぇか! Aランクの方が楽しいに決まってるだろ」

 「これは楽しむためにやるんじゃなくて、冒険者になるために受ければいいんだ!」


 そして俺は依頼の紙が貼られている掲示板に戻そうとすると、受付人の女に人に呼び止められた。

 

 「あの〜、もうその依頼の受付は完了しているのですが……」


 言いずらそうにして受付人は紙に目をやった。

 俺もそれに釣られて、持っている紙を綺麗に伸ばして表面を向けた。

 そこには難易度、依頼主名、受理者名、日付、報酬、そして印章が押されていった。


 「つまりこれは、すでに依頼を俺達が受けてしまったって事ですか?」

 「はい、そうなりますが……」

 「じゃあこの依頼を受けるのを取り消してもらう事は出来ますか?」

 「申し訳ありませんが、一度受けられた依頼を取り消す事は出来ません」

 「え!?」


 まさか取り消せないとはな……。 

 やってくれたなフレア……!


 どうしてフレアはAランクの依頼を受けようとしたんだ。 

 Aランクがどれくらいの難易度なのかまだいまいち分からないのに、それを受けようだなんて危険すぎる。

 俺はまだしも、フレアにもしもの事があったらどうするんだ。

 王都に来て初日だぞ!?


 だけど、いくらここで文句を言っても意味がないよな……。

 受けてしまった依頼は達成しないといけないんだし。


 俺は諦めて小さくため息をつくと、後ろで笑顔を浮かべているフレアの顔を見た。


 「嬉しそうだな」

 「もちろん。だってAランクの依頼を受けれるんだからな」

 「はぁ……」


 今度は大きなため息が出てしまった。

 仕方ない、やるか。


 「大丈夫ですか?」


 受付人の女性が心配そうに尋ねてくる。


 「一応頑張ります」


 と、言っておく。

 これぐらいしか思い浮かばなかったからな。



◇◆◇



 今回俺達が……いや、フレアが勝手に受けた依頼内容は、時々森の中に出現する琥珀竜の討伐だった。

 俺は実際に見た事はないが、まるで体が琥珀のようらしい。

 それになんと、琥珀竜が口から吐き出す液体に触れれば、俺達も琥珀のようになってしまうとのこと。

 

 『最高だな』

 『2人とも揃いも揃って頭おかしいな』

 『頭がおかしいのはお前だ。琥珀竜とやれるんだぞ? 楽しまねぇと』

 『2人とも残念なほどそっくりだよ』


 俺達はすでに王都を出て、琥珀竜が出現する森へと入ってきていた。

 こんなに早く王都を出ることになるとは思わなかった。

 まあ特訓の続きと思ってやるか。


 「なぁベスウィ」

 「どうした?」

 「俺剣使ってみたい」

 「剣? どうして?」

 「いつも素手で戦ってるけど、剣も使ってみたいなって思ってさ」


 そう言われて俺は悩んだ。

 確かに剣を使う事は悪いことではない。

 素手でも戦えて、剣を使えるとなればより一層戦いの幅が広がるからな。

 だけど俺達は今から琥珀竜と戦うのだ。

 まだ扱ったことのない武器をわざわざ実践で使うのは、自分から危険度を上げているようなものだ。


 「今日はやめておこう。危ないからな」

 「えー、別に大丈夫だって。いざとなったら身体強化を使って素手で戦うからさ」

 「それでもダメだ」

 「いざとなったらリュグルがいるだろ?」

 「リュグルはさらに危ないからダメだ。何を始めるかわからん」

 『おい』

 『事実だ』


 ここで俺が許可を出して、フレアを危険な目に合わせるわけにはいかない。

 少しでも危険度を下げるためにも、余計な事はしない方がいい。

 俺はそう思ってフレアには許可を出さない事にした。

 だが、俺はそこである事に気が付いた。


 「でも俺剣持ってないぞ。フレアも持ってなさそうだし」

 

 てっきり俺はフレアが剣を持っている(てい)で話をしていたが、それらしきものはどこにもない。


 「だからベスウィに作ってもらうんだよ」

 「俺に?」

 「だって前リュグルの体で武器を作ろうとしてただろ? もうそろそろ、剣くらい作れるようになってるって思ってさ」

 「……」

 「まさかまだ作れないのか……?」


 はぁ……!?

 べ、別に作れない訳じゃないし。

 ただ作る練習をしてないだけだし!

 

 そう心の中で言い訳する俺を見透かすように、冷たい目で俺を見てきていた。


 「全然作れるから」

 「無理しなくていい。練習を積めばいいだけだからさ」

 「無理なんてしてねぇよ! 見てよろ!」


 剣、剣、剣、剣……!

 俺は頭の中で必死剣をイメージして、手に力を集めた。

 外からでは分からないが、俺の体中でリュグルの体が手の部分に集まってきているような感覚がある。

 前はこんな感覚はなかった。

 【魔体】が体に馴染んできているってことか?


 俺の意識は剣を作ることだけにしか向かれていなかった。

 とにかく今は剣を……!


 必死にそう考え【魔体】を発動していく。

 すると、前と同じように手のひらに黒い霧が集まり始めた。

 だが問題はここからだ。

 今集中を切らせばまた失敗してしまう。

 慎重に慎重に……。


 俺は剣を作ることに集中しすぎていて、周りの音は一切聞こえなくなっていた。

 ただ聞こえるのは、自分の静かな息遣いだけ。


 手のひらに集まってきた霧が今回は散っていかずに、ゆっくりと剣の形を作り上げていった。

 端から端へ、次第に出来上がっていく。

 そして遂に、俺は【魔体】で物を作ることを成功させた。


 『お前はだいぶ【魔体】に慣れるのが早いな。不思議なもんだ』

 『リュグルの体が俺の体に染み込んできたってことじゃないのか?』

 『そうであったとしてもだ。まぁいいさ。もっと他のも沢山作れるように精進するんだな』


 なんか謎に上から目線だな……。

 リュグルも数えるくらいしかやったっことがなかったはずだけど。


 「すげぇ……本当に作れたんだな……」


 意識を外に向けると、フレアの静かな感心の声がようやく俺の耳に入ってくる。


 出来上がった剣はリュグルの体と同様、漆黒で包まれていて全ての光を吸収してしまいそうだ。

 俺は両手で握って軽く振ってみるが、重すぎもせず軽すぎもしない感じだ。

 ただ、切れ味がどのくらいなのか分からない。


 「ちょっと貸してくれよ」


 フレアは目を輝かせて剣に手を伸ばしてくる。

 持たせるのは危ないような気がしたが、魔獣の気配もないし別にいいか。


 こんなにキラキラした目で見られてるのに、渡さないのもなんか心苦しいしな。


 「気をつけろよ」

 「うわぁ……! 本物だ……!」


 口を大きく開けたまま、剣を横に傾けたり空に照らしたりしながら漆黒の剣を観察していく。


 「あの木斬っていいか?」


 興奮を抑えたような声で、目の前に生える太い木を指差した。

 だがその木は、俺が初めて吹き飛ばした木よりも一回り大きい。

 こんな太い木が斬れる訳もなさそうだが、止めたってどうせ無駄だろう。

 

 「いいよ。でも怪我はするなよ。今から琥珀竜と戦うんだし」

 「わかってるって」


 そう俺に返事をすると、フレアは両手で剣をゆっくりと握り、目の前に生える巨木に向かって構えた。

 フレアの顔から笑みが消えて、真剣そのものの表情になる。


 刹那、フレアの空気が()()()()

 言葉で言い表すことが出来ないが、本当にフレアの空気が変わったのだ。


 『まるで別人だな』


 リュグルが言うように、フレアがフレアのように見えない。

 今のフレアはまるで――。


 「はぁぁぁぁぁっ!!!」


 フレアの掛け声共に、太い木に僅かな斬撃の跡が付けられて、滑るように音を立てながら倒れていく。

 

 「どうだ? 俺の剣は」


 まるで、()()()()()()()()()()()()の姿のようだった。

 

 

 

 


 

 



 

 


 



 


 

 

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