5話 『特訓、そして母』
「無理だぁぁぁ!!!勝てっこねぇよぉ!」
現在のフレアの様子を簡単に伝えると、赤ちゃんに戻りました。
いや、四歳か五歳くらいか?
まあどっちでも良い。
「どうやって勝てっつんだよ!」
フレアは地面に寝転びながら手足をバタバタさせている。
流石に俺も大人気なかったか?
子供相手に魔体使うなんて。
『今頃気づいたか。俺でも使わねぇぜ』
はい嘘、絶対嘘。
リュグルなんて特訓始めた瞬間殺しそうだ。
てか、俺もいつまでもこんな姿でいるわけにはいかないな。
怖がられちまう。
俺はスキルを解除して元の姿に戻った。
それにしてもこのスキル本当に危険だな。
フレアはギャアギャア騒いでいるが、それも仕方がないように感じる。
なんて言ったって、俺はフレアに一度も触ることなく勝ってしまったのだから。
当てるのは流石にやばいってわかってたから、ただ手を左右に振るだけにしていたが、それだけで突風が発生してフレアを吹き飛ばしてしまった。
早く力加減というものを覚えないと、取り返しのつかないことになりそうだな。
「てか、なんで体がそうなるんだよ」
「なんかスキル使ったらこうなるんだよな」
「そんなスキル聞いたことねぇわ。そのスキル人前じゃ使えねぇな」
「え? どうして?」
俺が普通に疑問に思い、そう聞き返すと本気で馬鹿を見るような目で見られた。
まあ、あんなごつい体で歩き回ったら皆怖がるもんな。
それくらいは流石にわかる。
「そんなことよりも! 早く特訓の続きしようぜ!」
「いいけど、大丈夫か? 結構吹き飛ばされただろ?」
「あんくらい大丈夫に決まってるだろ」
確かにそうだよな。
こんな元気の塊みたいなやつが、あれくらいで倒れるわけないか。
もう帰るものだとばかり思っていたせいで、魔体を解除してしまったが俺自身の訓練もしなければいけない。
時々、思い切り攻撃を食らうことになりそうだけど仕方ないよな。
俺はそう思い切り、腹に容赦なく蹴りを食らった。
◇◆◇
俺は今日だけで、かなり魔体の力加減を出来るようになった。
フレアも恐ろしいほど成長が早く、もうすでに身体強化魔法の魔力のブレが無くなってきていた。
待てよ。
俺はフレア以外に教えたことないからわからないけど、世の中の子供はこのくらい成長が早いのかもしれない。
ていうことは……俺が遅いのか……?
二日目。
使いたい部分だけ魔体で変化させられるようになった。
だけど少しでも気を抜くと、軽く触っただけで気を木っ端微塵にしてしまう。
フレアは俊敏さが増した。
魔力が安定したおかげで、結構戦いやすそうだ。
三日目。
力加減がだいぶ出来るようになった。
しかし、今日は魔獣と遭遇してしまい、焦って跡形もなく吹き飛ばしてしまった。
フレアが戦いたがっていたから、しばらくの間怒られ続けた。
そんなフレアだが、俺が教えた魔法と身体強化魔法をかけ合わせて模擬戦をしたが、厄介さが圧倒的に増した。
俺も強くならなくては。
四日目。
母に出会った。
◇◆◇
「あ、えと、お邪魔してます……」
俺は目の前に立つフレアのお母さんに向かって、何度もペコペコと頭を下げた。
また特訓に行こうと、家を出ようとした瞬間フレアのお母さんと出会ったのだ。
どうしても大人相手になると体が硬くなり過ぎてしまう。
緊張とかそういうのではなくて、俺の体に染み付いたトラウマのせいだ。
俺は子供の頃から、大人に良い扱いをされたことがない。
今は十七歳だが、それでも年上はどうしても怖い。
『は? お前って十七歳なの?』
『そうだけど』
『てっきり十六歳かと思ってたぜ。マジかぁ。マジかよぉー』
えぇ……?
そんな悔しがること?
てか、一歳くらい同じようなもんだろ。
「あ、もしかして……フレアのお友達……?」
俺はそう聞かれてどう答えればいいか分からず、フレアの方をチラッと見た。
俺はどうすればいい!?
こういう時、普通に人なら何て答えるだろうか。
はい、友達ですって言うのだろうか。
俺はまだ、いまいち友達とかわからないからなんとも言えないが、友達ですって言って相手がそう思っていなかったらどうしようと考えてしまう。
だから、俺は今まで友達ですって言えずにきた。
言う機会なんてなかったが。
「友達っていうか、ベスウィは命の恩人って感じかな」
「命の恩人?」
「うん。森で盗賊みたいな人達から私を助けてくれたんだ」
あれ……?
なんか口調がいつもと全然違くね……?
それに私って言った?
私……私……?
えぇ……? どういうこと?
「まぁ! それは本当に有難うございました」
「え、あ、どうも。あはは……」
ヤベェ、色々突然すぎて話が頭に入ってこない。
今の俺の笑顔を酷い事になってるだろうな……。
「ベスウィさんは冒険者なのですか?」
フレアのお母さんに笑顔を向けたまま話しかけられた。
俺は人に笑顔を浮かべて話してもらったことが全くないから、変な緊張をしてしまう。
「い、いえ。ちょっと色々あって、村を出て森を歩いてたら偶然フレアを見つけて……」
「そうなんですか……。もしよかったらですが、行き先がないならこの家に泊まっていきませんか?」
もうすでに泊まらせて貰ってるんだけどな……。
フレアとかには普通の生活なのかもしれないが、俺にとったら全てが感動でしかなかった。
「でも迷惑になりますし……?」
本音を言うと、このままこの家に泊まっていたいが、流石にフレアのお母さんに迷惑はかけられない。
「そんな迷惑だなんて思いもしませんよ! この子の命を救って頂いたんです。なので、お礼の一つくらいさせてください」
ここまで言われてるのに、逆に断るのも失礼か?
でもどうなんだ?
どうするのが正解なんだ……!
俺が心の中でジタバタしながら考えていると、横腹を肘でつつかれた。
「分かりましたって言えば良いんだ、こういうときは」
俺にしか聞こえない声でフレアはそう囁いてくる。
「そうなのか?」
「そうだ」
「そういうことなら……」
親子2人にこう言われてるんだ。
こうなれば断る理由なんてない。
「では少しの間だけお邪魔させてもらうことにします」
「ええ! こんな家ですがゆっくりしていって下さいね」
ということで、俺は正式にこの家に泊めてもらうこととなった。
◇◆◇
「なあ、どうしてお母さんの前だとあんな話し方になるんだ?」
俺達は今、いつもの場所に来ているが俺にとったら特訓どころではない。
フレアがあんな喋り方をしていたんだ。
緊急事態だ。
「なんだよ。何か悪いか」
「そういうことじゃなくてだな、急に私とか言って喋り出したら誰でも俺みたいな反応するだろ」
「ちっ、めんどくせぇなぁ。お母さんの前では良い子やってるだけだ。もしお母さん前ではこんなふうに喋ったら、絶対白目剥いて気絶しちまうからな」
なんか凄いな……。
あれだけ上手く自分をコントロールしてるって事だろ?
俺には真似できないな。
「そんなことより早く始めよーぜ」
どうやら普段よりやる気に満ちているようで、ジャンプしたり回し蹴りの動きをしたりしている。
俺も力をコントロール出来るようにならないとな……。
あ、そういえば……。
『リュグル、ちょっと良いか?』
『……』
『リュグル?』
『あぁ……? なんだよ。せっかく寝てたのによぉ』
一体リュグルは俺の体の中でどう過ごしてるんだ……。
て、そんな事はどうでも良くはないが、今言及する事ではない。
『この体を外に出して使えたりしないか?』
『外に出すだと? 意味がわからん』
『俺って魔体を使う時って、体に黒くて硬いやつを纏ってるだろ? あれを武器とかに変換するんだよ』
『あー……そういえばそんな事も出来たな』
『本当か!?』
『ああ。だが俺は武器とか使わず素手で戦うのが1番良かったからよ、武器とかに変換して使うとか数えるくらいしかした事ねぇぞ? よく他の悪魔に変わってるって言われたもんだ』
『でもやったことあるなら、やり方は分かるってことだよな?』
やり方さえ分かってしまえば、あとはこっちのものだ。
すぐには出来ないだろうが、無から始めるよりはだいぶマシなはず――。
『忘れた』
無から始めるか……。
◇◆◇
「何やってるんだ?」
「ちょっと自分の体を応用してみようかと思ってな」
リュグルは分からないんだったら、自分で考えてやるしかない。
出来ない事はないらしいし、それだけわかったのなら十分――と考える事にした。
まずは想像してみる事にしよう。
俺の脳内には一本の剣がイメージされていく。
そうしたら……手のひらの上に剣を作るんだ。
俺のイメージは完璧だ。
後はイメージ通りにやるだけ……。
余分な事は考えるな……考えるな……考えるな……。
俺の額から一筋の汗が流れ落ちる。
と同時に、胸から黒い霧が出ていくと俺の手のひらに集まってきた。
来た来た来た……!
後は剣を作るだけ――。
だが実際は上手くいかないものだ。
手のひらに集まってきた霧は少しの間だけ固形になっていたが、集中が切れてしまった途端霧に戻り胸に入っていってしまった。
「やっぱり一筋縄ではいかないな……」
仕方ない。
練習あるのみだな。
「よし、じゃあ特訓を始めるか」
「そういえば俺! 昨日自分の部屋で新しい技覚えたんだぜ!」
ああ、そういうことか。
俺はフレアの隣の部屋を貸してもらっているのだが、寝ようとした時にフレアの部屋からドスドスと響くような音がしていたのだ。
なんだったのか気になっていたが、まさか家の中でも特訓していたとは。
フレアはそこまで特訓をして何を目指してるんだ?
「行くぜ! 光し神よ聞くがいい。我が肉体を解放し、己の力を解き放たせよ! 身体強化」
フレアはいつも通り身体強化魔法を発動しながら俺に突進してくる。
だが初日とは比にならないほど成長している。
魔力がぶれることが一切なくなり、攻撃も人間の急所を狙ってくる。
俺は攻撃を受けそうな場所を【魔体】で防ぐことができるが、他の人がもろに食らった場合骨の一本はいってしまう可能性はある。
だけど、別に特に変化はないな。
技に精度は日に日に上がっているものの、大きな変化が見られるわけではない。
もしかして、ただ俺を脅すためだったり――。
「考え事してんじゃねーぞ! 光し神よ聞くがいい。我が肉体を解放し、己の力を解き放たせよ! 身体強化!」
「……!」
もう一度身体強化魔法の詠唱……!?
もしかして身体強化魔法を二重で発動したってことか!?
でもそんなことが出来るなんて、魔法の本には一行も書いてなかった。
火魔法と水魔法など、異なる種類の魔法なら組み合わせて使用することが出来るが、同じ魔法を被せて発動出来るなんて書いてなかった……!
しかし、実際にフレアの攻撃の威力は格段に上がっている。
魔体で守っても痛いくらいだ。
さらに二重に魔法を発動すれば、その分使用魔力量が倍になる。
通常の魔法は発動した瞬間に魔力は消費され、その後徐々に回復が始まっていく。
だが身体強化魔法に場合は違う。
この魔法は発動し続けている間、常に魔力が消費されているのだ。
さらに今は、二重に発動しているため倍の量を消費していることになる。
だけどフレアの表情に特に変化はない。
フレア……お前の体は一体どうなってるんだ……!
もし俺が魔法の本を見ていなかったら、このフレアの凄さに気付くことが出来なかったな。
ただ働いて生きてきた俺なんて、所詮本で読んだ魔法の世界しか知らない。
だけど、実際に魔法の世界を見てみると、本に書いてあることを遥かに超える魔法が広がっている。
ははは……!
魔法って楽しいなぁ!
魔法を使えない俺が、魔法を楽しいと思える日が来るなんて思ってもいなかった。
全部フレアのおかげだな。
「身体強化魔法を二重で発動させてんのに、どうしてベスウィは平気そうな顔してんだよ……!」
「平気? 俺はそんな風に思ってないよ」
横腹に入ろうとしていた蹴りを受け止めながら、俺はフレアの真紅の瞳と目を合わせた。
「俺が今思ってることはな、楽しいって事だけだ」
「はははっ! なんだよ! 俺もだ!」
受け止めた足を離さず、そのまま一回転して投げ飛ばした。
だがフレアはなんの問題もないように空中で回転すると、両足そろえて綺麗に着地した。
「やっぱりあれだけじゃ効かねぇか」
「でも良い蹴りだったぞ」
「じゃ、もう一超だな。
闇を赤く染め、どこまでも紅で照らす炎よ――」
あれは火魔法の詠唱だな。
身体強化と同時に使用するつもりか。
だが甘いぞ、フレア。
魔法は全てを完璧に詠唱しないと発動しないのだからな!
俺は足だけ魔体を使い、一瞬でフレアとの距離を詰めた。
これで終わ――。
しかし俺は思った。
こんなことフレアが予測しない訳がないと。
詠唱中のフレアの表情に笑みが浮かぶ。
罠か!
俺はすかさず上空から気配を感じ取り、顔を上に向ける。
「マジか……!」
「そういえば言ってなかったな。俺ってひとつだけ魔法を無詠唱で使えるんだよ」
俺の真上には無数の燃える矢が存在していて、鋭い先端が向かってきていた。
あの魔法は火炎の矢か。
本当に凄いなフレアは。
実戦を全く積んでいないのに、この攻撃能力と判断能力。
俺はそれによって、まんまと罠にはめられてしまった。
俺の村にも冒険者が来ていたが、多分フレアよりも弱いんじゃないか?
俺がフレアと同い年ぐらいの時なんて、ただ言われたことを逆らわずにやっていただけだ。
だから……だからこそ俺は……。
「負けられないんだよ」
ここで手加減をするのは、フレアに失礼極まりない。
だからここからは本気で行かせてもらうからな。
「魔体を使うとするか」
さあ、お前の本気を見せてくれ、フレア。
リュグルの体になった俺を、炎の矢は貫くことが出来ない。
俺に体に当たるや否や、ジュッと音を立てながらその場から消滅していった。
「ようやく本気のベスウィとやれるぜ」
「来い」
「おらぁぁぁ!」
フレアの鋭い蹴りが下から俺の顔に向かって上がってくる。
俺はそれを躱すと同時にしゃがみ込むと、フレアの腹に向かって拳を打ち込む。
力加減を覚えたおかげで、もう跡形もなく消し去ることは無くなった。
「ぐがぁ……」
「どうした。そんなんじゃ次の攻撃は躱せないぞ」
俺は立て続けに横腹に拳を打ち込む。
今度は少し力を強めにしたせいか、フレアの体は浮き上がっていき地面に転がっていった。
それでもフレアは笑いながら立ち上がる。
「……ま……ぇな……」
「え?」
「やっぱりまだ……勝てねぇな……。ベスウィには……」
フレアは絞り出すような声でそう言うと、右に傾き踏ん張ることなく倒れていった。




