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4話 『俺の知らないもの』

 「ベスウィその花好きなのか?」

 「どうして?」

 「だってずっと見てるだろ」

 「あー……いい匂いのする花だと思ってね」


 俺が住んでいた村にはこんな花は咲いていなかった。

 森の中は質素な花や、緑一色の草などそのくらいしか生えていない。

 当然、俺なんかに花をくれる人なんていなかったし、見るという行為でさえ許されなかった。

 

 「いい匂いもなにも、こんな花どこにでも売ってるだろ」

 「そうなのか?」

 「そうなのかって……この花誰でも育てられるくらい簡単だし、花屋でも安価で売ってるだろ」

 

 こんないい花が安く売られているのか……。

 金が手に入ったら買いに行こうかな。


 「嘘だろ……まさか知らなかったのか……?」

 「まぁな。驚くかもそれないんだけど、俺って魔法が使えないんだ」

 「魔法が使えないのか? どうして?」


 フレアは首を傾げた。

 この世界では魔法が使えることが当たり前だ。

 そんな世界で、目の前にいる人間が魔法がつかないと知ったら心底驚くだろう。


 「俺は生まれつき魔力がないんだ。そのせいで親に捨てられ、拾ってもらえたと思ったら奴隷のような生活。俺はずっと奴隷のような……いや、奴隷として生きてきたんだ」


 魔法が使えない俺は、この世界からしたらゴミでしかない。

 俺が誕生したことで、今までに出て来なかったゴミが出てきたのだ。

 そんなゴミを見てお前はどう思う、フレア。


 「へぇ……。じゃあベスウィは宝だな」

 「え……? 宝……?」

 「そりゃそうだろ。だって魔法が使えない人間なんて、きっとこの世界にベスウィしかいない。宝以外に何があるっていうんだよ」

 

 宝?

 魔法が使えない俺が……宝……?

 はは……。


 俺の顔には微かに笑顔が浮かび、そして一粒の雫が勝手にこぼれ落ちた。

 

 「えっ、おいおい、何泣いてんだよ」

 「俺だって泣きたくて泣いてるんじゃないよ。だけどさ……」


 産まれた時から人として扱われず、暴言を吐かれて生きてきた。

 そしてこんな俺に良い未来が待ち受けるわけもなく、これから一生半悪魔として生きていかなくては行けないと思っていた。

 けれど今、それは変わった。

 フレアが俺を()と言ってくれたおかげで、俺の暗闇の人生に微かながら光が差した。


 暗闇しかなかった世界にたった一筋の光。

 それがどれだけ嬉しいものか、俺以外の人間には計り知れないだろう。


 「全く……」


 ため息と共に呆れる声が聞こえた。

 腕で涙を拭いているせいで前が見えない。

 コツコツと音を立てながら、俺に足音か近づいてくる。

 そして、白く子供らしい華奢な腕が上げられ俺の頭の上に置かれた。


 「……!」


 そうだ。

 俺は()()()()()()()()()()()

 誰かに褒められて、抱きしめられて、頭を撫でて欲しかった。

 まるで子供が欲しがるような事だ。

 だけど俺は、それが心の奥で欲しいと思っていたんだ。


 「俺の妹だってそんな泣かないぞ。早く泣きやめよ」


 口調は多少荒いものの、声音は包み込むような優しいものだった。

 フレアの手から体温が伝わって、俺の()を温めていく。


 「ごめ……」


 俺は顔を上げて謝ろうとして、言葉を止めた。

 今言うべきは謝罪の言葉ではない。

 欲しかったけど貰えずにいて、ゴミと同様に扱われてきた俺の存在を宝と言ってくれた相手に言うべき言葉は――。


 「ありがとう」


 感謝の言葉だ。


 「別に俺は何もしてねぇよ」


 と、言っているものの、フレアは少しだけ顔を赤く染めている。

 どうやら照れているらしい。


 

 顔を横に向けながら俺の頭から手を離すと、次は手を握ってきて軽く引っ張ってきた。


 「ていうか、早く戦い方を教えてくれよ」

 「そうだったな。じゃあ、今から外行くか」

 「ふふん! これで強くなればお母さんを納得させられる」


 照れていた顔はいつの間にかどこかへ消えてしまい、今は興奮気味や顔になっていた。

 その目はキラキラしていて、やはりまだ無邪気な子供なんだと感じさせられる。


 「早く行こうぜ」

 

 おっと、案外力強いな。

 

 『これは鍛えがいがありそうだな』

 『当然だけど、鍛えるのは俺だからな』

 『なんだよつまんねぇな』


 リュグルに任せておくと何をするかわかったもんじゃない。

 

 そんな事を考えながら、俺は駆け足で外へ向かっていくフレアに手を引かれるのだった。




 ◇◆◇◆◇

  



 という事で、俺達は近くの草原にやってきた。

 街の中にも出来そうな場所はないか探したが、建物が密集しているせいで訓練が出来るような場所はなかった。

 どうやら他の街とかには訓練場という場所があるらしいが、この街にはないらしい。

 訓練場がある事は普通の事のことだと言う。

 街って便利だな。


 「よっしゃ! 始めようぜ!」


 今から訓練を受ける本人はやる気に満ち溢れている。

 でも正直、どうやって教えれば良いのかわからない。

 俺が教わってきたならまだしも、戦ったどころか戦闘の知識さえ何もない。

 戦ったというのに入るかはわからないが、一応魔獣を吹き飛ばした事はある。

 

 うーん、でも本当にどうやって教えれば良いんだ? 

 

 『模擬戦でもしてみればいい話だろ』

 『確かにそうだな……』

 

 もしかしたらだけど、俺よりリュグルの方が教えるの上手いんじゃないか?

 悲しい。

 

 「まずは模擬戦といこう。フレアの強さがどのくらいなのか知りたいしな。来い!」

 「はははっ! 死ぬなよ!」


 フレアはそう高々に笑うと詠唱を始めた。


 「光し神よ聞くがいい。我が肉体を解放し、己の力を解き放たせよ! 身体強化(クレヴァシス)!」


 詠唱が終わるとフレアはニッと俺に笑ってみせて、地面を強く踏み込んだ。


 「行くぜ!」

 

 その踏み込みは硬い地面を抉っていき、通常の人間の力では出せないほどの速度で接近してきた。

 

 俺が働いてる隙の時間に、身体強化魔法を使って模擬戦をしている人を見たことがあるが、フレアはその人達よりも遥かに身体強化が出来ている。

 俊敏さが全く違い、通常の人なら目で追うことはできない。

 俺は半悪魔のせいで出来てしまうが。


 これだけ身体強化魔法が上手く扱えていれば、悪いところは何もない――と言いたいところだが。


 『こいつ全然安定してねぇな』

 『そうだよなぁ』


 半分悪魔になったせいなのか、人間では見えるはずのない()()()()()が見えるようになった。

 常に見えているわけではなく、見ようとしたら見えるって感じだ。

 フレアの場合、全身に身体強化魔法を使用したことで通常の倍の魔力が全身を駆け巡っている。

 のだが、それも少し不安定だ。

 駆け巡る速さが遅くなったり、逆に速くなったりしている。

 遅くなってしまえば動きが鈍くなってしまうし、速すぎる場合は余分な魔力を消費してしまう。

 

 そして、俺の目の前まで移動してきたフレアの今の魔力の流れ方は遅くなっている。


 俺は体を少し横に傾けて、フレアの拳を難なく躱した。

 

 「え!? マジか! 避けんのかよ!」


 結局身体強化魔法を使ってる事で、鈍くなると言っても通常よりは明らかに速くなっている。

 しかし、安定して魔力を使用出来なければいけない。

 最悪の場合、魔力切れを起こしてしまう。

 

 と、本に書いてあった。

 意味が無いと思いながら読んでいた本が、まさかこんな形で役に立つなんて。

 世の中わからないものだ。


 フレアは体勢を整えると、空中で1回転してその勢いを使い俺の頭に蹴りを入れようとしてきた。

 リュグルの戦闘経験のおかげなのか、俺の体にも戦い方が身に付いてしまい、次はどんな攻撃が来るのか大体予測できてしまう。

 リュグルが入った時はそんな事出来なかったが、この数時間で色々染み付いたらしい。


 俺は蹴りを避ける事はせず、右手を出して掴むことにした。

 

 俺も【魔体】を使えるようにしないといけないから、フレアの特訓で俺自身も特訓するか。

 そう考えながらフレアの腕を掴む。

 そしてフレアの足に手は押され、俺の頭に直撃して軽く吹き飛んだ。


 「よっしゃ当たった!」

 「いっ……たぁ……」

 『何やってんだ』

 『腕の外は変えずに中だけ魔体を使って強化して、それで蹴りを受け止めようと……』

 『俺が入って数時間のお前にそんなことが出来るわけねぇだろ』

 『うぅ……やってみないと判らないだろ』

 『それでやってみてこのザマか。面白いな』


 流石は悪魔。

 煽りがお達者のことで何よりです。

 

 でも、確かにこのままだとフレアの特訓にならないか。

 こうなってしまっては仕方がない。

 【魔体】を使うか。

 別にフレアには1回見られてるしいいよな。


 「フレア、ここからは本気で行くぞ」

 「そんなこと言っちゃって本気だったんじゃないの〜?」

 

 このガキも煽ってきやがる。

 まあいい。

 とことん懲らしめてやる。


 「魔体」


 そう口に出すと、俺の体は黒い霧に包まれ悪魔の姿へと変えていった。

 

 




 


 

 

 

 

 

 

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