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3話 『不気味な怪物』

 は……?

 俺が……人間じゃない……?

 そんなの信じれるわけがない……!

 だって……そんな……!


 俺はもう一度胸に手を当ててみる。

 だがやはり、全く心臓は鼓動していない。

 

 俺が人間じゃないってことは、今の俺は何なんだよ!

 

 『今のお前は悪魔に近い。完全に悪魔ってわけじゃねぇから半悪魔ってとこだな』

 

 半悪魔……マジかよ……せっかく()()()()として生きていけると思ったのに……。


 『ま、安心すんだな。だからといって死なない訳じゃない。人間より体が頑丈になっただけで、修復不可能な傷を負ったらお前は死ぬ。それと寿命もな』


 やばい、突然のことがありすぎて頭が痛くなってきた。

 いつまでもこんな森の中にいるわけにはいかないし、とにかく歩いて考えるとしよう。


 俺はどこにいけば良いのか分からず、一応道のような場所を歩くことにした。

 場所が通った跡があるから、恐らくこのまま歩き続ければどこかの町に着くはずだ。

 

 俺は時々リュグルと会話をしながら森の中を進んだ。

 もう歩き出してから結構経っている。

 そろそろ町が出てきても良い頃だと思うんだが……。


 「おいガキ、さっさと金出せや」

 「お前みてぇなチビが調子乗ってんじゃねぇぞ」


 え、なんだ?

 今人の声がしたけど、良い雰囲気とは到底考えられない会話だった。


 やっと地獄から解放されたのにまたトラブルかよ。

 でもこれ以上問題を抱えたくないし、このまま気づかれないようにゆっくりと――。


 「なんだよテメェら。ガキ1人に男5人とか恥ずかしくねぇの?」

 「あぁ!? 自分の状況わかって言ってんのか!」

 「お前みたいな虫殺そうと思えばいつでも殺せるんだぞ」

 「マジで殺されたくなかったらさっさと金を出せ」

 「はっ! お前達みたいなやつに渡す金はねぇな」

 「なら死ね……」


 やっぱり助けに行った方がいいか……。

 でも、もし何か問題が起こったら……。

 いやでも、流石に助けないのも酷いし……。

 あぁぁぁぁぁ! 

 

 「ガキの首なんざ、この剣で十分――」

 「待てよ」

 「あ? 誰だテメェ」

 

 どうして止めに入ってしまったんだ俺は……。

 黙って逃げればよかったものを……。

 だが、もう時すでに遅し。

 止めに入ってしまったのだから、自分でどうにかしなくてはいけない。


 俺は木の影から出ていくと、そこには屈強な体を持つ男5人と1人の少年がいた。

 少年は男達に囲まれるような感じで立っている。


 「お前いつからいやがった」 

 「たった今ここを通っただけだ。そしたら怒鳴り声が聞こえたから、流石に向かわないわけには行かないだろ?」


 なに格好つけたこと言ってるんだよ。

 さっきまで逃げようとしてたくせに!

 

 「ははは! なんかテメェ強気だなぁ? もしかしてテメェ俺たちに勝てるとでも思ってんの?だったら後悔させてやるよ」

 「ちょっと待ってくれ」

 「あぁ?」


 俺は手を前に出して男達の気持ちを抑えようとする。


 「俺は別に争いたいわけじゃない。ただその子に乱暴するのは止めろって言ってるんだ」

 

 なんだこいつ面倒くせぇな、とか思ってどっか行ってくれないかなぁ。

 俺は魔体のおかげで戦えるようにはなったのかもしれないが、だからと言って平和的解決を望まないわけではない。

 やっぱり揉めずに落ち着くのが1番いいからな。


 「あぁ、そうか。やっぱりテメェ俺たちのことなめてんな。いいぜ、2人まとめて殺してやるよ!」

 

 1人の男がそう言うと、他の4人はまるでそう言われるのを待っていたかのように剣を引き抜くと、俺と少年に向かってジリジリと迫ってきた。

 

 どうやらこいつらは、俺と少年を本気で殺すつもりらしい。

 俺には魔体があるからいいが、少年は死ななくとも大怪我は負うことになってしまうだろう。

 それを防ぐには、俺が()()()()()()()()


 『俺がまたやってやろうか?』

 『どうせ全員殺すんだろ』

 『ああ。その通りだ』

 『だったら俺がやる。さっきみたいに、怖気付いたりしない』

 『あんだけ震えていたくせどうした? もしかしてお前も殺したくなったか?』

 『俺はリュグルみたいに簡単に誰かを殺したりしない。それに、俺がやらないと1人の命が消えるんだぞ』


 俺はジリジリと近づいてくる男達に対して、一歩大きく踏み出した。

 俺が逃げるとでも思っていたのか、近づいてきたことに目を見開いて驚いている様子だった。

  

 俺は少年を見捨てるほど薄情なやつではない。

 俺も今まで誰にも助けられず、見向きもされず、生きているのに生きている心地がしなかった。

 もし今、俺は少年を助けずに逃げたら、俺を助けずに冷たい視線を送ってきたあいつらと同じになる。

 俺は絶対に堕ちたりしない。

 必ずこの少年の命を救う。


 「魔体」


 俺がそう声に出すや否や、胸から噴き出る黒の霧に俺の体は包まれていった。

  俺の体はすっかりと変わってしまい、完全に悪魔の体になってしまった。


 『クハハハ、存分に暴れちまえ』


 リュグルが何か言っているが無視しておこう。

 俺は誰かを傷つけるつもりはないし、ましてや暴れるつもりはない。

 とにかく穏便に事が済めばいい。


 「な、なんだテメェ!」

 「この化け物が!」

 『化け物だとよこいつらぁ! おもしれぇなぁ』


 俺に強気だった男達は完全に怯えきってしまい、顔を真っ青にしている。


 早くどっかいってくれよな。

 こっちだって行きたい場所があるからさ……。


 俺は一歩踏み出し怯える男達に近づいていく。


 「お、おい! 近づいてくんじゃねぇ! それ以上近づいたらこのガキがどうなっても――」 

 「おい待てよ……この化け物もしかして……!」


 本当に面倒くさいな……。

 仕方がない。

 少しだけこの力を使うか。


 俺は拳を握り、すぐ横にあった巨大な岩を力強く殴った。

 殴られた岩は当然ながら粉々になっていき、この場から姿を消した。


 「近づいたら……なに?」

 「ひぃぃぃ!!!」

 「おいおいヤベェよ!」

 「殺されるぞ!」

 「くそっ! てめぇら逃げるぞ!」


 男達は急いで剣をしまうと、置いておいた荷物を抱えて森の奥に走り逃げていった。


 はぁ……。

 ようやく行ってくれた。

 もういいよな。


 俺の体からリュグルの体が剥がれていくと、さっきと同じように霧状になって俺の胸に入っていった。

 俺は肩を回して体が軽くなったのを実感する。


 「え……」


 少年は口を大きく開けながら地面に座り込んでいる。

 突然現れた男が化け物に変化して、巨大な岩を粉砕する様子を見たらこうなってしまうのも無理はない。


 とにかく今は、少年を怯えさせないようにしないとな。


 俺は両手を上げてゆっくりと近づいた。


 「安心して。俺は君に危害を加えないよ」

 「……」


 そう言ってみるが、少年は全く動かずに口を開けたままだ。


 あんな姿に変化した奴に、危害を加えないなんて言われても信用できるわけないよな。

 でもどうにかして信頼を得ないといけないよな。

 流石にこんな森の奥で放置するわけにもいかないし……困ったものだ……。


 そんなことを考えながらも、俺は一歩一歩近づき続ける。


 ゆっくりと、怯えさせないようにゆっくりと近づいて……。

 頼むから怯えないでくれよ……。

 俺は襲うつもりなんかこれっぽっちも無――。


 「すげぇ!」

 「え?」


 す、すげぇ?

 一切予想していなかった言葉に、少し焦りを感じていた俺の脳内は意味不明な言葉に混乱し始めた。


 この状況でのすげぇって一体どういう……。


 「お前強いな! 俺に戦い方教えてくれよ!」


 少年は目にかかる輝くような赤の髪を払いながら、吸い込まれてしまいそうな真紅の目で俺を見つめてきた。


 まじか……こういう展開で来たか……。

 この少年の勢いに、俺が逆に後ずさりをしてしまった。


 「いいだろ? 俺に教えてくれよ」

 「ちょ、ちょっと待てよ。戦い方なんて教えられないし、俺はただ町に行きたいだけだ」

 「だったら俺が連れて行ってやる。だから、その代わりに教えてくれよ」

 「えぇ……」


 戦い方を教えてくれと言われても無理がある。

 俺は今までずっと言いなりになって働き続けただけだし、戦ったことなんて一度もない。

 ましてや、戦うどころか一方的にやられていただけだ。

 そんな俺が教えるなんて無理に決まってる。


 『こいつおもしれぇなぁ』

 『何、面白がってるんだよ。俺が戦い方なんて教えれるわけないだろ』

 『そう思っているベスウィにいいお知らせだ。俺はこれまで、数え切れないほどの戦いを行なってきた。その経験が、お前の体に()()()()()()()()

 『そんなわけないだろ』

 『そうか。だったら質問だ。相手は太刀使い。それに中々手強い相手だ。ベスウィ、お前はどう戦う』


 そんなの知るわけがない、そうリュグルに伝えようとして息を呑んだ。

 俺の頭の中には、そんな相手への戦い方が何故か分かるのだ。


 『クククク、これでお前はそのガキに教えてやれるな。せいぜい頑張りやがれ』


 リュグルの声はそこで途絶えるが、俺の頭の中には様々な戦い方が流れ込んでくる。

 戦いの基礎や応用、さらに実践など俺が経験したことない事が、なぜか経験済みなように脳内に流れてくる。

 拳の打ち方、蹴りの放ち方、攻撃の回避方法……。

 何故かしたことがないのに、何故かもう出来る気がする。

 本当にどういう事なんだ。

 リュグルが俺の中に入ってからあり得ないことがずっと――。


 「おい!」

 「あ?」

 「何急にぼーっとしてるんだよ。早く行くぞ。町はこっちだ」


 少年は俺の返事を聞かずに、さっさと歩き出してしまった。

 俺はどうすることもできず、とりあえず少年の後ろをついて行った。

 生き返ったと思ったらもう人間ではなくなっていて、それに戦い方を覚えているこの体。

 俺はこの体でどうやって生きていけばいいんだ。

 リュグルに生き返らせて貰えれば普通の生活ができると思っていたが、そんな考えは甘かったらしい。


 木から生える枝や葉の間から青い空を見上げ、俺は足を進め続ける。


 「普通の生活って、どういうのなんだろうな……」

 「何か言ったか?」

 「気にするな」


 俺は普通の生活を探すために、悪魔と共に生きていく。



 ◇◆◇



 俺の隣で歩く少年は鼻歌を歌いながら、地面に転がっていた小さな石を蹴った。


 「そういえばお前って名前なんていうの?」


 少年は鼻歌を歌うのを止めると、俺を見上げながらそう質問してきた。


 「俺? 俺の名前はベスウィだ」

 「ベスウィか……。これからお前のことベスウィって呼んでいいか?」

 「別にいいけど」

 「ベスウィ、これからよろしくな」

 「あ、ああ。よろしく」


 これから……か。

 俺は後どのくらいこの少年と関わっていくのだろうか。

 まともな人間と関わった事のない俺からしたら、人間関係など未知の領域だ。 

 友達ってなんだ?

 親友ってなんだ?

 恋人ってなんだ?

 ていうか、家族ってなんだ?


 この隣にいる少年にとって普通なことが、俺にとったら普通ではない。

 だから、俺はこの少年とどう関わればいいか、いまいち分からない。


 「そういえばまだ俺の名前言ってないな。俺の名前は、フレア・リリルだ。俺のことはフレアって呼んでくれ」

 「フレア……いい名前だな」

 「そうか? 俺は特別良いとか思ったことないけど」

 「親から貰った名前だろ? それがどんな名前であれ、いい名前には違いない」


 俺の名前なんて、拾った奴が適当に付けただけの名前だ。

 なんの意味も、愛情もない、ただの名前。

 誰かが名前を呼ばれているのを聞くたびに思う。

 俺も愛のある名前が欲しかった、てな。

 名前があるだけで十分なのかもしれない。

 そうだったとしても、俺は……。


 「見えてきたぞ。あれが俺が住む街だ」


 フレアの声で現実に引き戻され、俺は下を向いていた視線を上にあげた。


 「あれが……」


 何故だろうか。

 ただの街なのに……家が並んでいるだけなのに……それが美しく感じてしまう。

 自由であるというだけで、これだけ見える風景が違うんだな。


 自由になった俺は、これからどんな景色を見ていくのだろうか。






 俺は街に入ると、フレアが家に案内すると言い人通りの多い道を進んだ。

 小さい子供と手を繋いで歩く親子もいれば、鎧を全身に装備し、なんでも斬ってしまいそうな剣を腰に差す者もいる。


 視野を広げて見てみると、様々な人がいるということが身に染みた。

 俺は今まで自分のことで精一杯だった。

 明日も無事に生きていられるのか、分からなかった俺にとって他人の事など考える余裕がなかった。

 だが、こうやって余裕がある今、こうして見渡せば俺以外にもこの世界に人が生きていることを実感する。


 「おい、おせーよ。はぐれるだろうが」

 「え、あ、ごめん」


 屈強な男達に隠れてしまいそうだったフレアを見つけると、俺は慌てて走り近づいた。


 それにしても人が多いな。

 この街に人が多いのか、俺がいた村の人数が少な過ぎたのか分からないが、なんだか疲れてしまう。


 『そんなことで、この体が疲れる訳ないだろ』

 『そういうことじゃない』


 リュグルが不満そうに言ってきたが、どうやら勘違いをしているようだ。

 だが、いちいち訂正するのも面倒だから、この話題をすぐに終わらせることにした。


 「ここが俺の家」


 そう言いながら立ち止まると、そこはレンガを積み上げて作った頑丈そうな家だった。

 それにレンガに塗装してあってオシャレだ。

 俺もこういう家に住まわせて欲しかったものだ。

 俺が住んでいた所はまるで物置で、埃は舞っていて虫もうじゃうじゃいた。

 今考えてみたら、あんな所に住んでいて変な病気にかからなかった俺は凄いな。


 俺はそんな事を考えながら家を見つめていると、フレアは勢いよく扉を開けた。


 「お母さん! ただいま!」


 フレアはその勢いのまま帰った事を知らせるが、返事は一向に返って来ない。


 「あれ? いないのか? まあいいや、ほら、上がれよ」


 どうやらフレアの家族は出かけているらしく、この家には今誰もいないらしい。


 「お邪魔します……なんかいい匂いがする」

 「そうか? 多分あの花だろ」


 そう言って近くにあった窓を指差した。

 そこを目をやると、花が花瓶に差してあって外の光で美しく薄い赤の色を浮かばせていた。


 俺はその花に近づいて、腰をかがめて顔を近づけた。


 確かにこの花の匂いだ。

 こんないい匂いを出す花があるのか。

 初めて知ったな。


 「なんだよ。しばらく帰って来ないのかよ」

 「どうした?」

 「机に紙が書いてあってよ、隣街まで向かったらしい。多分3日くらい帰って来ないだろうよ。まあいいか。お母さんが帰ってくるまで好きにこの家で過ごしていいぞ」

 「それは流石に悪いよ。そんな何もしない俺が住まわせてもらうなんて」

 「は? 何言ってんだよ」

 「え?」

 「ベスウィには俺の特訓に付き合うって仕事があるだろ」

 「あー……」


 やべぇ……すっかり忘れてた。



 

 


 

 


 

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