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2話 『人間と半悪魔』

 闇に包まれた視界に突如が差し込み、俺は重い瞼を持ち上げた。

 眩しさに目を細めながらも周りを見渡すと、そこは俺が殴られたまくった場所だった。

 

 もしかして……さっきのは夢だったのか……?

 

 だが、俺のそんな疑問はすぐに解決した。

 殴られて重傷を負ったはずの体が、全て完治していたのだ。

 殴られたのは夢じゃない。

 ていうことは、俺は本当に悪魔と――。


 『ようベスウィ。目が覚めたか』

 『はぁ……。どうして悪魔が俺の中にいるんだ』

 『悪魔って呼ぶな。リュグルって呼べ』

 『わかったよ。それで何でお前がいるんだ。俺に体から出ていけ』

 『それは無理だな。俺がお前を生き返らせる条件は、お前の中に住みつくことだ。その条件を聞かずに、お前は生き返らせろとか言ったんだろ』


 あぁ……そうだった……。

 勢いで生き返らせてくれって言ったけど、条件聞くの忘れてたわ……。

 

 俺は後悔するように頭に手を当てながら、完全に治った体で立ち上がる。

 毎日殴られてたせいで、どこかしら痛い場所があったが、今は何一つ痛みが無い。

 最高だ。


 そういえば、悪魔が体内にいるのなら魔法が使えるかもしれない。

 魔法の種類はいくつかあり、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法、闇魔法、光魔法がある。

 それ以外にも、身体強化魔法や治癒魔法などどこにも属さない魔法は、無属性魔法として扱われる。

 

 まあ、とにかく試しに使ってみよう。


 「激流の乱水(ウォータークネア)


 本来魔法を使用する際は詠唱をしなくてはいけないが、それは魔法を発動するための術式を正確に構築するためだ。

 魔法の開発者なら自身の魔法を無詠唱で言えるかもしれないが、ただ本を読んで魔法を使用するものは複雑な術式を覚えるのに時間がかかってしまう。

 だから皆詠唱をするのだ。


 しかし、もしもだが、複雑な術式を頭の中で正確に構築することができれば、無詠唱で魔法が発動できるってわけだ。

 ちなみに俺はそれがすることが出来る。 

 物置みたいな場所で暮らしていたが、そこに魔法と術式が載った本が置いてあった。

 暇だからずっと読み続けていたら、詠唱どころか術式も覚えてしまったのである。


 しかし、詠唱やら術式を覚えたところで使用者に魔力がなくては意味がない。

 昔も今も。


 俺は水魔法を使ってみようとしたが、全く反応を起こさない。

  

 なんだよ。

 結局魔法は使えないままか。

 

 『お前は魔力がないんだから使えないだろ』

 『体の中に悪魔がいるなら、もしかしたら使えるかもって思ったんだよ』

 『フハハ、それは無理だな。だが、スキルは使えるようになった』

 『スキル?』


 スキルというものは魔法とは違い、魔力は関係なく突然手に入れることの出来るものだ。

 手に入れやすいのは、身体強化や天眼などだ。


 しかし、俺はスキルを手に入れたような感覚はない。

 特別何か体が変化したわけでもないし。


 俺は全身を触ってみるが、やはり特に変わった部位はない。

 こんなに分かりずらいって事は、どうせ役に立たないスキルなんだろうなぁ……ん? 

 なんだこれ?

  

 そんなことを考えていると、突如俺の視界に白く光る文字が浮かび上がった。

 

 「魔体? なんだこれ」

 『それがお前の手に入れたスキルだ。一回使ってみろ』


 どんなスキルか説明もなしかよ。

 とにかく使って試せってことか。

 

 出来るだけ有能なスキルがいいが、あまり期待をするのはやめよう。

 ゴミスキルだった時に、ショックが大きくなってしまうからな。

 

 「魔体」


 俺の声と共に、スキルが発動された。

 胸の辺りから出現した黒い霧が、俺の体全体を包み込んで隙間を埋めていく。

 止まる事なく包まれた続け、そして頭までもが包まれた。

 しかし、黒い霧に包まれるだけでは終わらず、その霧が岩のように固まり始めた。

 

 自分の腕を見てみると、人間の腕とは思えないほどゴツゴツしている。

 

 全然想像と違うぞ!

 俺の体どうなってるんだよ!

 

 近くにあった小さな水溜りに駆け寄り、自分の姿を見てみると、俺の姿はどこにも居なかった。

 俺の代わりに水溜りに映っていたのは、体全体が岩のような筋肉で包まれていて、顔には赤い鋭い目と鋭い牙が生えそろう口しか残っていなかった。

 巨大な黒狼のようだ……。


 なんだよこの姿……こんなのまるで――。


 『いいだろ? それは俺の姿だ。つまりお前のスキルは、悪魔である俺の体を自由に扱うことが出来る』

 『もちろん……スキルを解除すれば元の体に戻れるよな……?』

 『当たり前だ。戻れなかったら、スキルの意味ないだろ』


 はぁぁぁぁ……。

 俺は胸の手を当てて、心を落ち着かせる。

 このまま戻れなかったら、どうしようかと思ったぞ。

 町にも行けないし、人とも会えない。

 結局普通の生活が出来なくなってしまうところだった。


 しかし……どんな行動しても、この姿だと怖く見えるな。

 

 俺は水溜りを見ながら、胸に手を当てる俺を見てそう思った。


 『でも、見た目が変わるだけか……。そんなの人を怖がらせるだけだし、使いどきはあまりないな』

 『はぁ? 俺は一言も見た目だけなんて言ってない。試しにそこの太い木殴ってみろ』


 俺は水溜りから視線を上げると、そこには今の俺の体の2倍は太い気が生えていた。

 こんな木を殴ろうとする奴は、ただの頭のおかしい奴だ。


 『殴るわけないだろ。俺が痛くなるだけだし』

 『悪魔の体が、そんな木に負けるわけない。いいから殴れ』

 『わかったよ……』


 そこまで言われたら仕方がない。

 木を殴らなかったら、いつまでもぶつくさ言ってきそうだし。

 軽めに殴って終わりにしよう。


 俺は木に近づいて、拳を握る。

 そして自分の被害を減らすために、ほんの少しだけ後ろに下げた。


 痛くありませんように。

 そしてゆっくりと腕を振って、俺の拳が巨木に触れた直後、メキメキと凄まじい音を立てながら、葉を散らして遠くの方へ吹き飛んでいった。


 え……は……木が……。


 俺の頭では、一瞬何が起こったのか理解できなかった。

 ほんの少し触れただけで、目の前にあった大木が、吹き飛んでしまったのだ。


 しかし、そんな俺の反応とは別に、リュグルは自慢気に頭の中から話しかけてくる。


 『どうだ? その力があれば、魔法なんて使えなくても戦えるだろ?』

 『いや、戦えるけどさ! 危なすぎるでしょ! ほんの少しの力で殴っただけなのに、この大木が吹き飛んだんだぞ! 人間にやったらどうなることか――』

 『落ち着け。そんなの、完全体で殴ったらそうなるに決まってる。だから、お前には力の調節が必要だ』

 『調節ってなんだよ』

 『そのままの意味だ。お前は今、体全体を俺の体に変化させたが、次は、腕の()だけを変化させて攻撃すればいい。そうすれば、力一杯殴っても人間がぐちゃぐちゃになることはない』


 そう聞けばいいように聞こえるが、言い換えれば力調節が出来なかったら、人間をぐちゃぐちゃにしてしまうってことだろ。

 そんなリスクを負って戦えるかよ。

 俺には敵をぐちゃぐちゃにする趣味はない。


 いつまでも、こんな姿をしているわけにもいかず、俺はスキルを解除した。

 すると、俺の体に纏わりついていたリュグルの体は、霧状に変化していくと俺の胸に集まっていき、そして吸い込まれていった。


 こんなものが体内にあるのか。

 なんか嫌だな。


 「練習あるのみか……」


 と、俺はここであることに気がついた。

 それは何かというと、服が綺麗なのである。

 それがどうしたと思うかもしれないが、俺にとってはすごい事だ。

 俺は散々殴られ蹴られで服がボロボロになっていた。

 だがそれが、体の傷が治ったように服も治っていたのだ。


 そう考えると、魔法も使えず、さらにスキルさえ手に入れることが出来なかった俺にしたら、この【魔体】というスキルはいい方なのかもしれない。

 だけど、俺はずっと奴隷のように働き続けてきた。

 そのせいで戦い方を一切知らないし、剣の振り方さえ知らない。

 そんな俺がこんなスキルを手に入れても、どうせ使えな――。


 「……!」


 なんだ今の音は……。


 周りが木で覆われているせいで状況を確認できないが、確かに何かが動くような音がした。

 木から何かが落ちたとか、草が風に揺られたとかそういう音ではなく、ガサゴソッと一部分で何かが動くような音が聞こえたのだ。

 しかし、どこから聞こえたのかがいまいち分からなかった。

 

 俺の気のせいという可能性も否定できないが――。


 『後ろだ』


 後ろ……!?

 俺はリュグルの声につられて、反射的に後ろを振り返ると、そこには鋭い牙と短剣のような鋭い爪を持つ四足歩行の魔獣がいた。

 

 魔獣……!

 どうしよう……俺……死んじゃう……!


 『慌てるな。お前には【魔体】がある』


 あるけど……俺……俺……!

 

 体の震えが止まらず、足に力が入らなくなってくる。

 声もうまく発することが出来ず、体が全く言う事を聞かない。


 『ちっ。これはダメだな。仕方ない。俺が代わりにやってやる』


 おい……! 

 何してるんだよ……!

 

 何故か体が勝手に動いてしまう。

 俺は戦うつもりはないのに、体が勝手に凶暴な魔獣へと向かっていってしまう。


 胸からもう一度黒い霧が吹き出ると、俺の体を覆うと岩のような体になり悪魔の姿に変化した。


 「この体久しぶりだなぁ……! ベスウィとの相性が良いのか問題なく動かせる! 最高だぁ!」


 俺の口が勝手に!?

 俺……! こんな事喋ろうと思ってないのに!


 勝手に動く体をどうにかしようとしてみるが、自分の体なのかと疑ってしまう程動かすことが出来ない。


 一体俺の体は……どうなって……!


 「お前が動かそうとしても、この体が動かない。この体は今、俺の支配下にある。だからお前は黙って見てろ」

 『黙ってろってそんな――』


 俺の言葉などには一切耳を貸さず、獲物を狩る目をしている魔獣に向かって走り出した。

 魔獣にとったら獲物が自ら向かって来てくれるなんて、それほど好都合なことはないだろう。

 自ら餌になりにいく奴なんて、俺は今まで見たことがない。


 魔獣は後ろ足の曲げて力を溜めた。

 そしてリュグルがさらに近づいた瞬間、溜めた力を解放して牙を剥き出しながら飛びついてきた。

 だが、リュグルはそれを避けようとはせず、走るのをやめてその場で立ち止まった。

 

 『おい何立ち止まってんだよ! 早く避けろよ!』

 「避ける? 馬鹿か。俺達は……」


 リュグルは悪魔の顔で狂気の笑みを浮かべると、岩のように硬く太い腕に力を入れて拳を握った。

 

 「グアァァァァァァッ!」


 魔獣は唾液を撒き散らしながら、首を狙って口を大きく開く。

そして、もう噛みつかれるか噛みつかれないかという距離まで近づいた時、リュグルは握っていた拳を思い切り前に突き出した。


 「悪魔だろ?」


 その拳は魔獣の顔に直撃すると、そこから腹にまで拳が食い込み破裂した。

 皮も肉も骨も全てが粉々に飛び散り、この場に残った魔獣のものは、赤く飛び散る血液だけだった。


 「久々に殺ってやったな。スッキリしたから体返してやる」


 リュグルの体は黒い霧になり俺の体から離れていくと、さっきと同じように胸から入っていき完全に姿を消した。


 ちゃんと体の感覚が戻ってる。

 自由に体を動かすことができるし、どこかに異常があるわけではない。

 俺は悪魔と体と共有したのか?

 今頃だが、どうして人間と悪魔が体を共有することができるんだ?


 『ベスウィ、お前はもう人間じゃないぞ』 

 『人間じゃない? そんなわけないだろ。今だってこうやっていつもの体に――』

 『自分がまだ人間と思っているんだったら、胸に手を当ててみろ』


 胸に手を当てるだと?

 そんな事で一体何がわかるっていうだよ。

 まぁいいか。

 胸に手を当てるだけで、リュグルの勘違いが解けるんだったらそれでいいし。

 

 俺は人間の手に戻った手を自分の胸に当てた。


 自分の体温で手が温まり、心臓の鼓動が伝わって……こない……。


 「心臓が……動いてない……」

 『これで分かったか。お前はもう、人間ではないんだよ』

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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