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黄瀬さんの状態

詠斗とサオリが室内に入ると、ベッドの周りにはカーテンはかかっておらず、上体を起こそうとする黄瀬の姿がすぐに見えた。

「詠斗くんと…もう一人は…」

力が入らないのか、黄瀬は自力で起き上がることができないようだ。

「無理しないでください、黄瀬さん」

「しかし来客に失礼だろう…」

少しでも動くと身体が軋むのか、すぐに苦悶している。

「気にする関係でもないでしょう。黄瀬さんが辛い顔すると、サオリさんも気にするんで」

「サオリさん…ああ、一緒にいるのは君が言っていた…彼女か」

詠斗はベッドの近くにある丸椅子を二つ黄瀬のそばに寄せ、入り口付近で立ち止まっていたサオリを手招きして座らせた。

「初めまして、サオリさん」

痛む身体に耐えながら、黄瀬は薄っすらと目を開けてサオリの姿を見つめた。

サオリはというと、何かを勘づいているのか神妙な顔で黄瀬の顔を座った席で固まっている。

「おじさん、辛そう…身体の中に何か悪いものがいるみたい」

『悪いもの』というサオリの言葉に、黄瀬はフッと微笑した。

「悪いもの、かね。フフッ、確かにそうかもしれない」

黄瀬は最後に会った数日前まで健康上の問題は何も抱えていなかった。そしてサオリが言った『悪いもの』。

あの時話していたのは桜井司令官に関することだったことを思い出し、詠斗は青ざめる。

「黄瀬さん、すいません」

無表情ではあるが、何か後悔しているのは読み取れる。

「何を謝っているんだい」

「私が聞かなければ…こんなことにはならなかったですね」

俯いたままの詠斗に、サオリは困惑しどうしていいか分からなくなっていたが、それを黄瀬が大丈夫と宥める。

黄瀬は黙秘遵守の規則を破ったため、毒物が注射されたのだ。そしてそれは、詠斗が尋ねたから黄瀬は答えざるをえなかった。

「私が自分の意思で話しただけだ。君が気に病む必要なんてないよ。それに、まだ私は生きている」

「黄瀬さん…」

優しく微笑む黄瀬の胸に、サオリが徐に手を当てた。

「サオリさん?」

「おじさん、優しい人。でも、悪いものは確実におじさんの体を食べちゃってる。悪いもの、ワタシ少し捕まえられるかもしれない」

サオリが右手を翳し、目を瞑ると黄瀬の周りに淡い緑色の粒子が漂い始めた。

「吸い取られるような…感じがするな。何を…」

黄瀬も詠斗も状況が分からないが、サオリが何かを発現しているのは分かる。

「うーん!!!」

サオリは何かを釣り上げるかのように、右手を引き上げた。

彼女の右手の周りに、ドス黒い泥のようなものがへばりついている。

「全部はやっぱり無理だった…胸の辺りに居たのだけ、取れた」

サオリが右手をブルブル振ってその汚れを床に落とすと、床が溶けた。黄瀬の中にあった毒物の塊だったのだろうかと詠斗は焦る。

痛みが取れたのか、黄瀬は戸惑いながらも痛まなくなった上体をすんなり起こした。

「…ありがとう、サオリさん」

黄瀬は優しい微笑みを携えて、未だ心配そうにするサオリの頭に軽く触れるのだった。

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