また来ますよ、黄瀬さん
顔色がよくなった黄瀬に撫でられて、サオリは嬉しそうに目を輝かせた。
「本当は、全部取ってあげられたらよかった」
少し残念そうに言うサオリに、黄瀬は
「十分助かりましたよ。その気持ちだけでも嬉しい」
と変わらず柔和に笑うのだった。
もう一度黒い泥を見ていると、溶けた床に残っている部分が気の僅かにまだ蠢いている。
「投与されれば体内全体をゆっくりと巡り、各所を破壊していく毒だよ。毒には意思があり、活力のある部分から順に細胞を溶解して食べていく。解毒剤も死を遅らせただけで、根絶などできなかった」
赤晴司令官の代で開発された、死刑執行の為の毒物だ、と黄瀬はポツリと呟いた。
「サオリさんのおかげで、また生きられる。もう退職した身だ、自由に生きてみようかね」
まだ悔やんでいるような表情を消せていない詠斗に、黄瀬はそう言って微笑みかける。
だが、毒は全部抜けたわけではない。黄瀬の身体は、また徐々に蝕まれるだろう。
「サオリさん、黄瀬さんのわるいものは回数を分けても取ることはできないんですか」
末期の患者が医者に縋るように、サオリに問いかける。
「…ごめんね、エイト」
サオリは突然立ち上がり、詠斗を病室の外に連れだした。
「おじさんの身体に、もうわるいものは根付いてしまってる。増えたわるいものは何回でも取り出せるけど、根付いたわるいものは身体と一緒になっちゃってるから、取ることができないの。
…そのこと、たぶんおじさんも判ってる」
「根本的には、治せないということですか…」
「完全に治せるのは、あのお姉ちゃんだけだと思う」
「白藤さん…」
黄瀬の毒を祓うには、白藤が必要になるとサオリはハッキリと言った。
公園での一件以来、白藤はまだ姿を現していない。いつ会えるかなど、分かるものではない。
「なるべく、黄瀬さんに会いにきましょう。そしてサオリさんには、わるいものが溜まってたら吸い出してほしいです」
固い表情ではあるが、真剣に話す詠斗の姿を見てサオリは『いいよ』と言って小さく頷くのだった。
「失礼しました、黄瀬さん」
詠斗とサオリが病室に戻ると、黄瀬はまだ上体を起こしてこちらの方を見つめていた。
「急に飛び出したから、心配したよ」
「失礼しました」
「ごめんなさい、おじさん」
サオリがペコッと頭を下げる。
「またお見舞いに来ますよ。サオリさんが毒を吸い出せますから。…命も少し延びるでしょう」
詠斗が馬鹿正直にそう伝えると、黄瀬は目を丸くした後小さく微笑んだ。
「…ありがとう。何、病室は退屈でね。いつでも待っているよ」
それじゃあ、と詠斗はサオリを連れて病室を後にした。
「白藤さんのクローン…彼女の名前もまた『サオリ』さんか。でも、いい出会いだったようだね、詠斗君」




