服を買う
いい加減行きましょう、と詠斗はサオリの濡れた右手を引いて足早に噴水のある広場を抜け、服屋が並ぶエリアに入る。
サオリに似合う服はどれだろう、と詠斗なりに懸命に考えながらショーウインドーを見て回る。
フェミニンな服は可愛いだろうが目のやり場に困る。やはり今とあまり変わらず飾り気のないものがいいだろう。だがあまり飾り気がないのも味気がないか…?
当のサオリは周囲を見回してはいるが、さほど何かを思うという感じではない。風景の一環でしかないような興味の薄さだ。サオリのためにこのエリアにきたのだが…と詠斗は内心ため息をつく。
「サオリさんが気になるものはないんですか」
「服、分からない…」
見れば見るほど、他人の、しかも異性の服というものはどれを選んでいいか分からなくなる。
詠斗もサオリにどれを選んでいいか見ているうちに分からなくなってきた。
とりあえずエリアの服屋全部を見る覚悟がいるのだろう、と詠斗は腹をくくろうとした。
「あ」
そう思った矢先、サオリがピタッと一軒の服屋の前で立ちどまった。
「何か、気になるのが?」
「ん」
その店は『5001』という、シンプルなデザインを売りにしている服屋だった。
サオリが指したのは、窓ガラスから見えた淡いピンク色のシャツだった。
「入ってみましょうか」
年季の入った緑色の木の扉を押して開けると、カランカランと扉の内側に付けられた金属ベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり」
レジで店番をしていた壮年の男性店員がそう一言言って、静かに頭を下げた。
よくある声掛けをしつこくしてくることがないこの店を、詠斗は気に入った。
こちらから声をかけるまで、店員は干渉してくることはないようだ。
「上下を選ぶんですよ」
「分かった」
サオリは詠斗から離れて服を見始める。どうやら上の服は外で見つけた淡いピンクのシャツは揺るがないようだ。
どうやらこの店は中性的なデザインが多く、男女選ばない形のようだ。
下のパンツも、あっさりと決まった。ベージュのカジュアルなデザインのものだった。
「すいません、お願いします」
詠斗が店員に声をかけると、レジからサオリの元へ来てくれた。
「このシャツと、パンツを3着ずつお願いします」
「畏まりました。採寸して身体に合ったものをご用意させていただきます」
店員はサオリを採寸機に案内し、すぐにサイズをスキャンした。
「丁度在庫がございます」
店員はレジの側にあるクローゼットに行き、すぐに服を出した。
「しめて4万になります。お支払いは如何いたしますか?」
「認証でお願いします」
「畏まりました」
詠斗がストレスカウンターを見せると、店員はレジの読み取り機を近づけて決済を済ませる。
「1セットはここで着させてください。あと、袋に2セットそのまま入れてください」
「畏まりました」
シャツとパンツを1式受け取り、サオリに試着室で着替えてもらう。
「…纏わりつかない。着てた服と違う」
試着室から出てきたサオリは、見た目年齢相応の冷静沈着で綺麗な女性に見えた。
サオリもシャツの袖を触り、素材感に満足しているようだった。
「ありがとうございました」
脱いだ服も袋に入れてもらい、店を後にした。
来た道を戻って駐車場に戻ろう。そう伝えると、サオリは道を覚えているのか、詠斗を誘導するように数歩前で軽やかに歩くのだった。




