18.ふしぎな不老不死
「……つまりあなた達は不老不死ってこと? でもメアリーさんは亡くなったって言ってなかったっけ?」
首を傾げると、チェシャ猫は笑って首を横に振った。
「いやいや僕らは不死じゃないよ。寿命が来れば死ぬし、大怪我をしても死ぬ。……だけどね、僕らは不老の体を手に入れたんだ」
チェシャ猫の体を上から下までなぞる。
一見、猫耳を除けば、何ら私とは変わりないように見える。
「……歳をとらないということ?」
「そうだね、他の国の人たちみたいに老いたりしない」
チェシャ猫が、んーっと体を伸ばした。
確かにそのしなやかさは老いとは無縁の瑞々しさがあった。
「でもさっき寿命がきたら死ぬって言ったわ」
にわかに信じがたく、彼の言葉の矛盾を突く。
「ああ、そうだよ。だから不死じゃない。不老だ」
「でもそれってほぼ不死じゃない? 老いがなければ、大きな怪我でもしない限り死なないわ」
そして大きな怪我をすることなど日常ではあまりない。
それならほとんど不老不死みたいなものじゃないだろうか。
「いや、でも寿命があるんだ。これからは誰も逃れられない」
「でも老いなければ寿命なんてやってこないわ」
「そうだね。魔術師たちも老いさえ克服できればほぼ不老不死になると思っていたんだ。だから、彼らは老いない体をつくったんだ」
「そんなことできるの?」
「簡単な話だよ。例えば、ここの窓の地点が生まれた瞬間だとする。そして、あのドアが死の瞬間だとすると、オレたちの体は自分の意志に関係なく、この窓からあのドアに向かって歩いているんだ」
そう言って、チェシャ猫はダリウスの帽子を取って自分の頭にのせると、コツコツと靴音を鳴らしながらドアに向かって歩き始めた。
「このまま行けばドアに辿り着いてしまう。だから魔術師たちはドアに辿り着くまでに体を止める方法を編み出したんだ」
窓とドアのちょうど中間地点くらいで歩みを止めると、くるりとこちらを振り向いた。
「老いのない体、それは肉体の時間を止めることだ。つまり魔術で肉体の時間を死に辿り着く前に固定させればいい」
「全然、簡単な話じゃないじゃない」
自分のいた世界とは常識や世界の摂理が違いすぎて頭が痛くなった。
「そう? 分かりやすく説明したんだけどな」
「いや、そういう意味じゃなくて……、まぁいいわ。でもその話だとやっぱり不老不死はほぼ手に入れたものじゃない」
チェシャ猫がいる場所からドアまでの間を見ながら首を傾げる。
「うん、そうだね。みんなそう思っていた。自分たちは死を克服したってね。多くの人がこのことに喜んで、さっそく国民全員に不老魔術が施された。みんな自分が不老不死になったと信じて疑わなかった。……数年後、突然、死者が続出し始めるまではね」




