【その後…】
あれから、どれくらい立っただろう。
気ばかり焦る。それほど時間は経っていない、わかっている。
最後に待つ、それは作戦だけではない。皆に話した考察は嘘ではない。
もし、魔王がイマジニア破壊を阻止するのならば、一番初めの「荒野」もしくは一番最後のここ「平原」だと考えている。
予想では最後の1つである「平原」が最有力…そうなれば、「平原」はどれほどの被害が出るだろうか…こんな作戦を立ててる時点で俺は王の器ではないのかもしれない。
それに、ポントは気づいているはずだ、「荒野」を一番最初にしたことで魔王がすぐに現れたら「荒野」が被害を受ける可能性を…
顔色1つ変えずに作戦を受け入れた…伊達に年を食っているわけではないな。堂々としたものだ。
正直どれ位の時間がかかるのかわからない。場合によっては日をまたぐ可能性だってある。各国がこれほど時間をかけてもたどり着けない領域…あれほどの力を持ってしてもそうすんなりと行くものか…
いつも以上に何か考えていないと落ち着かない…
黒い靄が現れる。
おぼろげに見える姉様の姿に声をかける。
『何か問題でも起こりましたか』
その靄が晴れるにつれて、人影は増えていく…その数は6…
次の声をかける前に黒い影は飛び出していく。
背後で響く轟音…
『ナセキ、問題等いまは起こっていませんよ。いまはね…』
姿がハッキリしてきた同志の顔は驚きと期待の入り混じった表情をしている。
『ナセキ。すぐに振り返って見たほうがいいぜ。イマジニアの最後をな、早くしないと終わっちまう』
慌てて後ろを振り向く、足に伝わる振動は徐々に弱まり、静かにその色を変えていく…
『終わったのか…』
『何も無きゃな…イマジニアは全て沈黙した』
『そうか…』
辺りに変わった様子は無い、目の前の景色はイマジニアの色以外は何も変らない…
『姉様、なぜ何も起きないのでしょうか』
あれから日が傾くまでこの場所で変化を待ったが何も起らない時間だけが続いた。
どうしていいかわからない空気を感じて姉様に声をかけたが帰ってきた返事は…
『わからないわ…』
そんな一言だった。
『まあ、ここにいても仕方がないんじゃねーか。今日のところは解散でどうよ。俺達はこれからも忙しい身だろ』
確かに、ポントの言う事は正しい、これで世界は変る。鉱石の力任せで行っていた事を人の手で行うのだ、生活の安定を図るために全ての人々の意識を、感覚を変えなければ、やる事は多く、そして早く行わなければ混乱は大きくなり、この世は混沌に支配される。
『では、それぞれ国に戻り次第。新しい世界に変ったことを表明するのだ。今のうちなら各国への通信もまだ使えるはずだ、急げ』
『ナセキ、ではその役目は私がやりましょう。調整者としての最後の仕事として…』
無言で深く、姉様に頭を下げる。
皆が靄に包まれる…姉様の事だきっと皆を送り届けてくれるのだろう。ありがたい。
【本日を持って、調整者セントの役目は終わる事になります。今後鉱石の力は使えなくなります。皆さん1人1人が手を取り合い、国の垣根を越え協力できると私は信じたい】
頭に直接響くようなやさしい声…これで大きな混乱は起きないだろう。短い時間であったが鉱石の力の個人使用は徐々に制限を加えてきた。大規模の工事くらいにしか使用していない。各国の食料事情も流通も人の手だけでも十分に回るように整備してきたつもりだ。
あれから一年が経った…世の中は思ったよりも混乱する事はなかった。
腕に自信のある荒くれ者や、独自に鉱石を集めていた一部商人などはしぶとく抵抗をしていたが、調整者が力を行使しない以上ただの石ころ同然になったモノを安く買い叩いてやれば静かになった。
今俺は随分と懐かしい階段を上っている、この一年は忙しくユーロの顔もみんなの顔も見ることはできなかった。
『随分と遅かったな。俺は待ちくたびれたぜ』
円卓の間に1人飾りつけをしている男…ポントが居た。
『遅いとは随分な言い方だな。まだ、お前しか居ないじゃないか。2番なら早いほうだと思うが』
肩をすくめる。
『確かに、うちの国はすでに俺無しでもしっかり回るから暇なんだ』
『本当に誰もきていないのか…』
『ああ、来ていない。誰も、何もだ』
ちょうどいい…
『1つ聞きたいことがある。一年前、俺の立てた計画の危ういところを知ってなぜ何も言わなかった』
『必要だったのは、それを指摘することじゃねーと思ったからだ。あそこで「荒野」が消し飛んだとしても仕方がない。そう思ったのさ、いっそ皆で消えるのならそれもありかとな』
『…狂っているな…』
『そうか。どんなに頑張っても全ては救えない、それにお前が考えたとおりになっても「荒野」だけで済む保証もない………なら、俺の大事なもの全て賭けてでも乗るのが、王だろう』
……………そういう考え方もあるのか。
『姉様が聞いたら露骨に嫌な顔をされるぞ』
『お姉ちゃん子め』
どちらからともなく笑いあう
『皆が来る前にビシッと飾りつけようぜ。女は記念日にうるさいからな』
『確かに、2人して何をやっていたのかといわれては敵わんな』
他愛の無い話をしながら1人、また1人と現れる。
気がつけば円卓の間は関係者で賑やかになっていた。
『あとは、姉様とノワールだけか…』
『きっと…すぐに来る。この光景はセントが望んだものでもある…』
そうだな、始めよう祝いの宴を…
『みんな、少しメンバーは足りないが始めるとしよう、乾杯』
皆が幸せそうな表情だ。
これでいい、これで…
楽しい時間は儚く、あっという間に過ぎ去る。
姉様達は姿を現さなかった…
円卓の間に残った5人は宴の余韻に浸りながら近況を話しあう。
『ポント殿、これをどうぞ。お約束していた物です』
『おお~、いいねいいね。源爺さんに渡してたのみてひょっとしてって期待してたんだよ』
『あの短刀より質は落ちますけれどね、悪く無い出来ですよ』
『鞘に収まった姿も美しいですわね』
『…確かに』
『各国で何か問題は起っていないか』
一同を見回す。
『無いんじゃないか。得意分野による住み分けだけじゃなく、人と文化と技術といろいろなものが行き交っている…この街を基点に』
『そうですわね。どの国も活き活きしていますわ』
『助け合う。言葉では簡単ですがそれを実感できる事が素晴らしいです』
『セントは…来なかった…』
ユーロの言葉に俺達はしばし静かになった、それぞれに思うことがあるのだろう。
俺もそうだ。
楽しみにしていた、きっと今日という日に姿を現してくれるって。そして、今の世の中について話をしたかった…平和になったと思う、姉様が望んだ平和ではないのかもしれない。それでも話がしたかった…褒めてほしかった…
しかし、我々は民の為の王だ。個人的な感情で物事を捉えていてはいけない。
『そろそろ、次の段階に進む準備を始めよう。平和を永く維持するための準備を』
『その話しなら、話す必要すらないかもしれないって俺は思ってる。ナセキがやればいいだろう。どう思う』
『そうですわね。実質私達のリーダーはナセキさんですしね』
『異論なしです』
『…意外性をついて私という手も…ないね。賛成』
『嬉しいが、この流れであればこの件は暫く保留になる。僕は自分が本当にその役割に相応しいか決めかねている』
『まあ、慌てる事はないし、しっかり各国安定してからでいいからな。また、明日からがんばんべ』
笑いあい、支えあい、今の世のができた…姉様、ノワールさん…あなた達もその一員なのに…
『皆、嬉しそうだったわね』
『姿を現してやればよかったのではないか』
『私の役目は終わったわ…私には貴方がいるもの、十分以上よ。ノワール、私は大丈夫だから少し出かけてきたら』
『すぐに戻る…』
皆が去った円卓の間の上で楽しそうな声を聞いていた2人は短く言葉を交わす…そしてノワールは姿を消した。
『暗いぃ~夜道を~たぁ~だ~ひとりぅぃ~』
音も無く抜刀、金属の澄んだ音が美しく響く…
『無防備に歩いているわけではないのだな』
『これでも、まだまだ仕事があるんでね。死んでる暇も無いんだなこれが…随分なあいさつじゃない、それにしても』
月明かりに浮かぶ顔。
『ノワール…元勇者様…どうでもいいかいまになっちゃ』
『靴の礼をいいにきただけだ』
『普通、切りかかりながら礼は言わないんじゃないか』
『俺は、普通じゃないからな…』
『冗談言う時は笑いながら言えよ。今回の靴はただ丈夫なだけの靴だぞ』
以前の靴にはホルダーの力で細工してあったからな。
『あのときの靴が無ければ、あの時魔王に殺されていただろう、セントに出会うこともこうして力を得ることもできなかった。感謝する』
『あんときはお前さんに同情しただけだ、気にすんなよ。今回は気持ちの盛り方が違うからいい物になったと自負しているけどな。お前は何を…まあ、いい』
沈黙…
答えは無い。
『セントに伝えてくれ。俺に恩を感じているならな…みんな寂しがってるぞってな』
『わかった、伝えよう』
月が雲に隠れるな…




