【是か非か】
楽しんでもらえているようだ…目の前のセントの表情からそれは伺える。
用意された食事も、テーブルセットなども素晴らしい物ばかり、自分ではここまでの物は到底用意できなかった。
そんなことを考えていると目の前のセントは不意に涙をこぼす。
『何か気に触るような事をしただろうか…』
セントは馬鹿じゃない、俺1人でこれほどの用意ができないだろうこともわかっているはずだ。俺1人で用意出来なかったからか…セントの口から出た言葉は俺の考えもしない内容だった。
『ノワールが他の人とも仲良くできそうで、それが嬉しいの』
『俺は子どもじゃない、必要があれば他者との協力も出来る』
目元を軽く拭き、やわらかな笑顔で言葉を続ける。
『今回は誰が協力してくれたの』
やたら嬉しそうな声で話すセントに仕方なく話す事にした。
『ナセキ、ユーロに味のいい酒を貰った。ゲンが紹介してくれたフランがこれだけのものを用意してくれたんだ…俺は、ほとんど何もできていない…』
『そんな事はありません』
そっと俺の手に温かいものが触れる…
『ノワールが用意しようとしてくれたから、こうして2人きりで食事ができている。本当に嬉しいの…やっとノワールが私の傍に来てくれた感じがして。だから、だから、自分のことをそんな風に言わないで…』
強く握られた手の上に俺が選んだ人形を乗せる。
『…俺がプレゼントにと選んだモノだ…よかったら貰ってほしい…』
セントは両手で大事そうにぐるぐる巻かれたリボンをゆっくりほどく。
『頼もしく、凛々しくて、それでいてとっても可愛いです』
嬉しそうに眺めている姿を眺める…
喜んでくれたのはもちろん嬉しいが…思った以上の高評価にかえって驚いてしまう…
『ノワールだと思って肌身離さず持っています』
俺はあれと同じか…どこにも俺の面影は無いと思うが………喜んでいるならそれでいいか。
ノワールの話を聞きながら私は本当に幸せな気持ちで一杯だった。ノワールも私も皆と仲良く出来たのなら。対等に付き合うことができるのなら、2人で普通に暮らしていけるかもしれない。
強大な力は異質でも、ほかの人との間にある意識の壁が無くなればきっと仲良く、分け隔てなく毎日を過ごす事ができるかもしれない。
きっとノワールの事だから、人の手を借りた事もないし、自分でできなかったって責めているんでしょうね。
でも。
こんなかっこよくて、可愛い贈り物を見つけてくれた。
『今日の締めくくり「グリーンアビス」とチョコレートだ。俺も飲んだ事が無いから言われたとおりに冷やしただけだが…』
まだ気にしてる…
『一緒に乾杯しましょう、ね』
細やかな気泡が静かにグラスの中に立ち上る。
『『乾杯』』
どちらからとも無く乾杯の合図をして一口…
『『…美味しい…』』
ほろ酔いでも判る美味しさに、そして同じタイミングで同じ思いを口にしたことに気持ちは舞い上がる。
酔いは気持ちに引っ張られる…ふらつく私をノワールが支えてくれる。
『少し横になるか…』
『…うん…』
ノワールにお姫様のように抱えられベッドに運ばれながら私は意識を手放した…
あのまま、寝てしまったのね…
部屋には私一人。
ひょっとしたら、隣にノワールが、なんてちょっとは考えたけれど。
「楽しい食事だった。ありがとう」
机の上にはノワールからのメモ、彼らしい。
彼からのメモの上には彼から贈られた彼?彼女?…彼かな。
その3つの足でしっかりとメモを押さえていた。
『ありがとう』
一瞬、彼が片手を上げたように見えたけれど…まだ酔いが醒めていないのかしら…
円卓の間を抜けて外へ向かおうとすると、フランさんが右へ左へ落ち着き無くウロウロしている。
『フランさん、昨日はありがとうございました』
『あ、あら、セントさん。偶然ね、こんなところで会うなんて。私お礼を言われるような事はしていませんわよ』
『ノワールから全て聞いていますよ』
それを聞いて天を仰ぎ、片手を目の上に乗せながら。
『これだから、男は駄目なのですわぁー』
女性にとってそこに至る過程も大事だとか、意外性を見せてからの飛込みとか、あれやこれやとぶつぶつ暫く言い続けてその動きをピタッと止めた。
『全て知っているのなら仕方がありませんわ…それで、どうでしたの…』
『美味しかったです。あまりに嬉しくて酔ってしまって…ベッドに運んでもらいました』
『それで、どうでしたの』
『すぐに寝てしまって、朝にはメモだけ残して居なくなってました…』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・……
『根性なしぃめぇぇぇ、乙女の勇気を汲めぬ玉無しには 制 裁 ですわわわぅわゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、げほげほぁぁぁぁぁぁぁっ』
フランさんは激しい気迫を撒き散らしながら階段を駆け下りていった。
私が階段を降りた時には影も形も無かった。
なんとなく幸せな気持ちで街を歩く。
いつもの景色がなぜだか違って見える気がする。
『おっ、セントじゃねーか…ん、何かいいことでもあったか』
『ポント様、そう見えますか』
『見えるね、幸せオーラが迸りすぎだぜ』
『ふふふ、そうですか』
いつもの軽い感じの中にどこか無理をしているような感じがある。
『クロネさん…調子はどうです…』
『あんまりよくねぇ…部屋からは出てきたんだがな。外には出たがらない。ご機嫌とる為にいろいろやってんだけどな…』
とても辛そう、
『お見舞いに伺ってもよろしいでしょうか』
ちょっと驚きながらもすぐ真剣な表情で暫く考えている様子。
ばっと私に頭を下げて。
『頼む、来てもらえるか』
『頭を上げてください、クロネさんのことは大切な友人だと思っています。少しでも気が紛れれば…』
一緒に歩きながら最近の様子を聞く、ポント様がクロネさんを大切に思っている気持ちがいっぱい伝わってくる。
館の入り口に着くと少し真面目な表情でこう言った。
『驚かないでくれよ。さっきまで話したとおり情緒不安定でだいぶ痩せちまってるから』
『はい…』
中に入り1つの部屋の前に来る。
『クロネ、入るぞ』
『お邪魔します…』
ベッドの上に居たの人物は頬がやせこけ、髪はぼさぼさで一瞬誰か解らない姿になったクロネさん…
その目にはどす黒い憎悪が込められて私を射殺すかのような力に満ちていた。
『…何しに、来たのよ…私を馬鹿にしに来たの…』
『クロネさん、わた…』
『ポント様を誘惑する気…殺すわ、お前を殺してやる』
ベッドから崩れ落ち、床に這いつくばる。それでもその目は強い殺気を宿したまま真っ直ぐに私を捉えて放さない。
『クロネ。セントはお前を心配して…』
『ポント様は黙っていて。私をひとりにしてこんな女を連れて…殺す、セント、あんたを殺してポント様を取り戻すのよ』
パシンッ
部屋に乾いた音が響く…
『ポ…ント…様…』
『いい加減にしないか…クロネ…俺がお前を見捨てるとでも言いたいのか…』
『クロネさん、そんな身体では私を殺す事はできませんよ…』
私は鉱石の力を使う…覚悟を込めて。
クロネさんの髪は輝きを取り戻し、痩せた体も力が満ちるにつれて私が知っている状態に戻っていく。
『どうです。その状態なら…私を殺す事ができますか』
『セントッ』
『ポント様は口を挟まないでください。女同士の話しです。外に出てください。いいから、ここは私に任せて』
クロネさんはその手に短剣を握り締めている。
『ポント様、出てください』
2人から出て行けと言われてもポント様は動こうとしない、私は力を行使してモッキー達に無理やり連れて行かせる。
『どうせ、あの男が私を殺すのでしょう』
『いいえ。私に手も出せないノワールなんかに頼りません』
胸元から土人形の彼を取り出す。
『なによ、それ』
『彼です。情けないノワールより頼りがいがある姿でしょう』
『ぷっ、何よそれ…私、1人で熱くなってそんなずんぐりむっくり出して…そんな怖い顔しないでよ』
『これはノワールがくれた大切なモノです。馬鹿にしないで』
『ごめんなさい…よくみると吸い込まれそうな瞳ね』
ベッドに並んで座る。
『ノワールッたら、私をベッドに運んでくれたのは素敵だったけれど。起きたらメモ1枚残していないんだから。別にいやらしい事をされたいって事じゃないのよ。でも、昨日の幸せな時間を思いながらもう少し一緒に居てくれてもっておもったの』
『わかる気がするわ、セントの気持ち…ポント様が大事にしてくれてるのは理解できるの、でも、子ども扱いされてる気がして…私なんか必要としてないんじゃないかって』
俯きながら、クロネさんは言葉を続ける。
『他の代表達は集まって何かをやってる。あの女に言われたの「国を捨てられるか」って。その時の…あの女の目が怖かった…自分の無力さを突きつけられているようで…』
「同じ吸い込まれそうな瞳でもこっちの彼とは別物ね」と軽く言い直してはいたが、その身体は小刻みに震えていた。
『愛する人の役にって…頑張ってきたつもりだけど…私、どうしたらいいのか…』
『クロネさん、抱かれればいい。きっと、その愛を体で感じればいいのよ』
『セント、なんか今日は随分と雰囲気が違うわね』
手を叩くと入り口からは慌てた様子でポント様が入ってくる。
「あいつ等、なんて力してやがる」なんていいながら。
並んで座っている私達を見て
『…2人とも…大丈夫…みたいだな…』
私はスッと立ち上がり。
『乙女の気持ちを汲めない玉無し。クロネさんが大事だというのなら抱きなさい。クロネさんは待っていますわよ。それではクロネさん、また食事でも一緒にしましょう』
それだけ言って、部屋から出て行く。
なぜか私はすっきりした気持ちだった。




