【惹かれあう意思】
部屋に影は2つ。
『………これが、僕が考える鉱石の仕組み、イマジニアに関する予測です』
『俺にはその話しに乗るしかない』
影は満足気に頷く。
『あくまで予測でしかない、僕の妄想かもしれない話しにそんな簡単に乗ってもいいのですか…』
『どの道、得体の知れないモノを相手にする以上、確実なものなどない…妄想でも縋るしかないのはお互い様ではないか』
『確かに。せめて…タブーの内容が解れば。大きな材料になると思うのですがね…』
明るく柔らかな日差しが降り注ぐ小高い丘に、小鳥のさえずりが響いている。
『セント、これもおいしいな』
『材料がいいから、美味しくて当然だと思うけど』
『そんなものか。セントの腕がいいと思うのだが…お前達にもおすそ分けだ』
ノワールは小鳥達にパンくずを投げてやる。その横顔は穏やかで、つい見とれてしまう。
『俺の顔に何かついてるか』
『最近は笑うようになったなって思って』
『…俺にはセントがいる。そうだろ』
『そうね…私には貴方がいるから』
手に持ったサンドウィッチを口に放り込み、もぐもぐして、飲み込む。
『それにいろいろな事が分からなくなって、考えるのを1回やめてしまおうって…』
『それは、諦め…それとも』
『頭の中を整理しようって、それだけだよ』
横顔は悲観的ではない、心配しすぎだろうか。
『セント、魔王が言っていたタブーについて教えてもらえないだろうか』
『…いくらノワールであってもそれは教えられないの…』
『すまない。ちょっと気になっただけだから。セントにそんな顔させたかった訳じゃないんだ』
『ごめんなさい』
小鳥達が一斉に飛び立つ。
『明日はどこに行こうか。森の奥の泉、海の小島、高い山の頂上…』
『明日は、調整者としての見回りがあるから…私の部屋で何か美味しいものでも用意して待っててくれる』
『女性の部屋でひとりで待つのは気を使うな…戻ったら連絡をくれればいい。街で何か美味しそうな物を見つけておくよ』
頬を指で掻きながら少し顔を赤くしているノワールを可愛いなって思う。
次の日、私は暗い部屋に居た。
『ここも異常なしね』
目の前の数値と私の頭の中にある数値を照らし合わせ状況を確認する。
鉱石の数値は時間の経過に伴い一ヶ所に集まってきている、あの子の狙いは解らないけれどこの動きがタブーに触れる可能性は高い。
気づいてくれるといいのだけれど…気づいても、どうするつもりか…
考えても仕方がない、今はできることをやって戻らないと。
『ノワールが待ちくたびれてしまう』
誰に聞かせるでもなく、一人呟く。
街を巡りながら、品物を見て回る…考える事はたくさんある。
何がいいだろう、赤ワイン…いや、セントには白のほうが似合うかな。淡いピンクのロゼも似合いそうだ。
意外な点を突いての選択も驚きがあっていいかもしれない、本当はオリジナルのカクテルなんかがいいけれど。俺にはわからないからな。
『そんな悩めるあなたに朗報…』
『何か用か…』
『ナセキからのお届け物…「グリーンアビス」美味しいよ』
黒い瓶に控えめな金色のラベル…
『さわやかな香りに、ほのかな甘み。口をくすぐる刺激に後から来る深い旨み…きっとあの子も気に入るはず…お勧めのつまみはチョコレート。食後に頂く、これ最高』
俺にさっと持たせて踊りながら去っていく。くるっと振り返り。
『キリッと冷やす、これ至高』
1人で楽しそうに踊りながら行ってしまった。手に持った瓶を持ってとりあえずチョコレートでも探しにいこうか…
今日も源様の指導は厳しかったな…最高だ。
ウォルン様、ゲンム様がお亡くなりになり、ただ忙しいだけの日々だった。
今は違う、目標があることは素晴らしいな。どんどん自分を高めなければ、皆においていかれてしまう…ん、あれはノワール殿…
『ノワール殿、お手合わせをお願いしたいのですが。是非』
ふと、その手に持っている物に気づく。
『すまないが、今は探し物をしているので相手はできない』
『何を探しているのですか。よい武具なら案内できますが』
『いや、それには及ばない。上質のチョコレートを探している…』
…チョコレート…誰か……そういえば。
『なにか、心当たりがあるのか』
私の顔を見て真剣な眼差しを向けてくる…是非、手合わせしてもらいたいものだ…
『確か、フラン殿が以前チョコレートについて熱く語っていたのを思い出しまして』
『案内を頼めるだろうか……今度、手合わせをするので…』
『さあ、こちらですよ。ノワール殿、さあ』
案内するだけで手合わせしてもらえるとは、なんと言う幸運…ノワール殿の気が変わらないうちに急がねば。
歩きながら気になったことを聞いてみる。
『ノワール殿はなぜ、チョコレートを探しているのです』
少し小さな声で
『セントの部屋で食事を…するんだ。…その準備を…』
『いいですね。二人きりで食事とは、羨ましい』
『声が大きい、やめてくれ』
様子をみるに嬉しそうな感じがするのだが…
これほどの力を持っていても人であるのか、親しみが湧く。
他愛のない話をしながら目的地に着く。
『フラン殿はおられますか。もしおられればゲンとノワール殿が来たとお伝えください』
すぐに待合室のようなところに案内される。手合わせがかかっている為か心地よい緊張感が私を包んでいた。
『お待たせしましたわ、めずらし…』
『フラン殿、ノワール殿に最高のチョコレートを教えてくだされ。手合わせがかかっているのです。さあさあ、早ぐふっ』
『突然訪ねてきて、訳もわからない間に唾を飛ばしながら何を言い出すのか』
『…ノワール殿が、セント殿と2人きりで食事…を、するのです。その準備を…』
『なぜそれを早く言わないの。ノワールさん、その手の物は』
『ナセキから送られたものだ。ユーロがチョコレートが合うというので貴女に教えてもらえればと思い案内を頼んだのだが』
『訓練馬鹿にしてはよいチョイスですね。この私のところに案内するとは…おっほっほっほっほ………お任せあれ。このフラン、女の友情の為。最高の食事プランをご用意させていただきますわ。中央に運ばせますからお任せあれ。ゲン、着き合いなさい。そうそう、ノワールさん、気のきいた贈り物の1つでも用意していますわよね…当然…さあ、行きますわよ』
2人は行ってしまった。
贈り物…何がいいのだろう…
思えば、1人で買い物などいつ振りか…各区画を回りながらみて回るが迷うばかりでどうしたものか…
少し開けたところの出店に手の平に乗るくらいの土の人形が売っている…ふてぶてしくも見えるが目を引く…
その中のひとつと目があったような気がする。
『1つ欲しいのだが。これを頼む』
『どうぞ』
料金を払い目が合った一体を摘み上げる。
時間ばかりかかってしまったので中央に戻ると大きな木箱を持ったゲンと満足気に腕を組むフランがいた。
『よい贈り物は見つかりまして。こちらは準備万端ですわ』
『木箱ごと少し冷やすといいですよ。で、何を買ったんですか』
2人が気になるらしいのでポケットから無造作に取り出す。
『微妙…ですわね…』
『なぜか目を引くいい品と思いますが』
『かわい…い、とも言えないですし、何と言うか形容し難いですわ』
堂々とした立ち姿はいいと思うのだが…
『せめて、包装ぐらいしたらどうですの』
ポケットから何かを取り出したと思ったら、手際よく、目の前でリボンを使って頭の上で花のように結ばれた。
『このような感じでどうでしょう』
『応援してますわ』『手合わせ約束ですよ』
と言いながら2人は帰っていった。
立ち去る2人に頭を下げ、木箱を冷やしながら片手で持ち階段を上がる。
『お帰りなさい。準備はできてる』
階段を上りきった時にかけられた声はセントのものだった。
静かに微笑む彼女にこう告げる。
『…準備は整った…』と。




