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【向ける矛先】

『おい、ちょっといいかい。お嬢さん』

『内容による…つまらない話はノーセンキュウ』


報告の通り掴みどころがない女だな…


『クロネに何をした…』

『なにも…ただ聞かれたことに答える前に覚悟を量っただけ…逃げ出したけどね…』


しまった…


『他国の代表にこんなものを突きつけて…どういうつもり…あなたが王では民も、クロネも救われない…』


『申し訳なかった…』

剣を戻し、口に出せたのはその一言だけだった。



目の前の女はふわふわとおどけながら言葉をぶつけてくる。


『盲目の王よ。いい言葉を教えてあげます。「短気は損気」いかに大切なものと天秤にかけられようと短絡的に動けば先にあるのは自滅のみ…今の貴方のように。でも、私は先ほどのことを大事にする気はない。少しでも傷がついたのなら容赦しなかったけれど…自身の腕前がへぼじゃなくてよかったですね。やはり、貴方には資格がない、クロネさんのほうがまだマシだった。私は貴方と話す事に意味を見いだせない。それでも知りたいのなら「平原」に聞くといい。知る事はできないでしょうけれど…バイバイ、つまらない王様。「島国」に文句があるなら源爺に言って頂戴、専門だから』


ひらひらと手を振りながらゆっくりとその場を去っていく後ろ姿を見つめ続ける事しかできなかった。


頭に血が上っていた。昔の自由な自分のように振舞ってしまった…

クロネをあんなふうにされたから…違う、不安に負けた。もし4国が手を結び、「荒野」だけが取り残されるのでは、滅ぼされるのではないか。折角良くなってきた今のみんなの生活が崩れ去ってしまうのではないか…


あのような言い様に対して怒りの気持ちはおきない…「大事にする気はない」この一言に安堵したそれだけだ、助かった。そう思った。



でも、はいそうですかって訳にはいかないんだよ。俺の心配が考えすぎだって保証は何もないんだから…


「平原のナセキ」に会わなくては。同じ失敗は繰り返せない。

近くの店で軽い食事と熱いお茶をゆっくり頂く。

向かう、覚悟を決めて。






ふむ、これは…

『先程は失礼した…そして、なぜここにいる』


『ナセキは私の婿になる男。故に私がここにいる…以上』

名前を発表された方を向く。


静かに首を振る。


『素直じゃないところも可愛げがあってよい。なかなか抱かせない初心なところも気に入っている』


男女逆なのか…お互い実は性別が違うのか…


『ポント様、僕は男ですし、この者の言う事をまともに聞いては疲れますよ。聞き流す事を提案します。それで、何か御用ですか』


拍子抜けするほど穏やかな口調と態度、そして隣には不思議な踊りをする女…


『4国で何をしているのか教えてもらえないだろうか』

先ほどの教訓を活かして穏やかに切り出した。



『…4国では何もしていません』


穏やかな笑みを浮かべたまま顔色1つ変える事なく俺に告げる。



『誤解を生んでいるようなので、補足しますが…』




『「荒野」がこそこそ嗅ぎ回っているあれは、あくまで個人的活動であって国は関係ないのです。ご理解いただけましたか。こそこそ人をばら撒くのは前時代的かと思いますよ、貴方の国の区画でも同じでしょう…人が交わってきていても判るでしょう…よそ者は…』


背中に悪寒が走る…何かが根本的な何かが違うというのか…



『貴方は僕に聞きたいのでしょう。個人的な活動に参加するには…と』


『教えてもらえるのかい』

精一杯の虚勢を張る。




『いいですよ。あなたはいち早くホルダーの呪縛から逃れた王ですから。その一点について僕は貴方を評価していますから』


これは馬鹿にされているな…


『教えてくれるならありがたいが』

『貴方に敬意を表して、はっきりと言いましょう。貴方には無理ですね。可能性はクロネさんですが、覚悟が足りないかと…もしポント様が活動に参加するなら………王をお辞めになればいい…』





『…それは、できない…』

『でしょうね。それができるなら、きっと望まなくてもポント様に話がいくでしょう』


圧が消える…俺は負けたんだな…



『ご安心を、個人的活動は「荒野」の民に害を与えるものではありませんよ。たぶん』

『そうかい。折角の2人きりを邪魔して悪かったな。またな』

『邪魔者は去れ…クロネに気にするなと伝えておくれ…』


完敗だ。悔しいが今の俺にはどうにも勝てないわ…

いろいろ練り直しだ、凹んでなんていられねぇ。俺は王様だからな。


新しい気持ちで「荒野」の区画へ一歩一歩踏みしめながら歩く。






優れていても、癖は完全に抜け切るわけではないのだな…もったいない。


『ナセキ…もし、あれが本当に王を辞めたのなら…』

『仮定の話は無意味…ですが。その下についてもいいと思うぐらいには魅力がある』



『ふーん…私にはお前の方が魅力的…さあ、抱いてやろう』

『どさくさに紛れて話をそちらに持っていくのは見え見えすぎでは』

『ストレートな女…惚れないか』


まあ、いつもの事だからそっとしておこう。




考えるのは次の事、姉様の介入があるかないか。



楽しみだ…







『おーい、セント。いるかーい』

ポント様の声に部屋を出て下へ降りていく。



階段の下には少し武装したポント様がばつが悪そうに立っていた。

『悪い、結局詳しい事は何にも解らんかった』


ポント様はそれだけ言うと深く頭を下げた。


『わざわざ、伝えに来てくれたことに感謝します。悪い事になりそうですか…』



『わからないねぇ…「荒野」の民にも害はないって、「平原」のナセキは言っていたが。俺は俺でできることをやっていくしかないからな。クロネの為にも…』


『クロネさんに何かあったのですか』



少し話難そうに口を開く。


『例の件を探る時に「島国」の代表に何かやられたらしくて…部屋に篭っちまってな…』


『大丈夫でしょうか、一度…』

『今は、そっとしといてやってくれるか』



『…はい、解りました…』

『元気になったら、知らせに来るから。そんときは頼むぜ』

『はい』


ポント様は去っていった。しっかりと前を向いて。




『ノワール…出かけます』


黒いもやを通り抜ける。




『姉様、思ったより早かったですね…ちょうどお茶にでもしようかと思ってましたので、どうです…ノワール義兄さんもどうです』


『違うと伝えたはずだが』

私の後ろからスッとノワールが現れてナセキに話しかける。



ナセキはお茶のセットの追加を頼むと席に着いた。


『どうぞ、座ったらどうです。立ち話もなんですので』

『お待たせ…私のお茶を味わえるラッキーな客…セント、おっす』


ティーセットが乗ったお盆を両手に乗せて扉を足で蹴飛ばしながらユーロさんが入ってきた。


『ユーロさん、クロネさんに何をしましたの』

『ただ、聞かれたことに答えようとしただけ…逃げてしまったけどね』


手際よくそれぞれにお茶を淹れながらあっさりと答えてくれる。


『何をしようとしているの…ナセキ』




『今はまだ、言えませんね。でも、きっと僕等の願いが叶ったとき姉様は喜んでくれると思いますよ…たぶん…』

『私のお茶が冷めますわよ。お義姉様、お義兄様』


静かに、お茶に口をつける。


『美味しいです』

『でしょう。お義姉様…こんな有能な義妹が欲しいでしょう』

『それは、ナセキが決める事でしょう』


『味方を増やす大作戦は失敗…』



『話す気がないのなら、きっと話さないのでしょうね…でも、1つだけ同じお父様の子どもとして忠告しておくわね』



目線が私に集まる…



『タブーを侵しては駄目よ…』


『タブーとは、いったい何なのでしょうか』


『それを伝えることもタブーなのよ…気をつけなさい。そして、考えることね』




『失礼するわ』

黒いもやを使って自室に戻る。そこには懐かしい顔があった。


『セント、解っているな…俺の女を悲しませるような事だけはしてくれるなよ』

『魔王…貴様…』


ノワールから今まで感じた事がない強い殺気を感じる。


魔王さんは一切気にする素振りもなく私を見つめたまま待っている。


『はい、解っています』

『それだけ聞ければ用はない』


始めから何もなかったように消えた。


『ノワール、大丈夫なの』

荒い息をしながら胸を押さえてうずくまっているその背中に触れる。

ビクッと身を震わせゆっくり立ち上がる。その顔には強い疲労が見える。


『大丈夫、すまない心配をかけた。何か飲み物をもらえないか…』


冷えた果実水を取ってきてノワールに渡す。


それを飲み干して静かに口を開く。


『思い出したんだ…俺は、魔王と戦わなくてはならない…今のままでは駄目だ…』

『私がいるわ…貴方には私がいる。私には貴方がいる。それでは駄目なの…』



『そうだな…まだ頭がハッキリしていないんだ。少し時間をくれないか』


震える手をそっと握る。


私は頷く事しか出来なかった…


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