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【言葉に出すのは大事】

私は怖がる必要はない…そう、あれほどの殺意を前にしても。怖がる必要などないの。


『ね、ノワール』

『セント、注意だけはしておいてほしいと言っておいたはずだが』

『あなたでも慌てる事があるのね。人前ではセント様じゃなかったの』

『緊急事態と言ってもいい状況だと思うが』

『私はみんなの前でもセント、って呼び捨てでもいいのよ』

『その話しはまた今度にしよう』


ノワールはポント様の右腕を根元から切り落としてその腕を蹴り飛ばしながら私と話しをする。


地面にうつ伏せで寝ているポント様は動かない。


『殺したの…』

自分でも声が冷たくなるのを感じる。

『いや、腕を切り落とし、残りの手足は腱を切って動けなくしただけだ。今の時点では死んではいない』


『そう、クロネさん。とりあえず仰向けにしてあげて、苦しそうだから』


クロネさんはハッとした顔に戻り、慌ててポント様の傍に寄り身体を抱き起こし仰向けにする。


『なにを…』

『黙ってもらおうか』


ノワールは仰向けになったポント様ののど元に剣先を突きつける。


『口を開けろ…』


ポント様の口の中を確認したノワールは剣を収めた。



『ポント様、どうされたのですか』

『いやー、ちょっと試してみたくてさー。おっふ、クロネ、痛い痛いそこ腕無いから、当ると痛いって』


『私が治しましょうか』

『いや、セント。それじゃあ痛い思いした意味が無くなるんだわ』


そういうとポント様はノワールの方を向く。


『調整者に依頼したい。俺の身体を治してほしいと伝えてくれないか』


『伝えよう。暫らく待つがいい』

『早めに頼むわ。目が霞みそうだ…』


ノワールは私に跪き、深く頭を下げた。


『調整者様、この者の身体を治療してほしいとのことです』

モッキーが現れ、一枚の用紙が排出される。

『これを、了承できるのならば』


ノワールは私から用紙を受け取り、意識を失ったポント様に代わりクロネさんが目を通す。

『お願いします。早く、ポント様が死んでしまう』



『契約は交わされました…』

モッキーから出た用紙は青い炎を上げて跡形もなく消え去った。


ポント様は光に包まれ、切り飛ばされた腕もまた同じ光に包まれる。

それはひとつになり、光の収まりと共に腕も傷も元通りのポント様の姿が現れる。


腕は繋がり、衣類は破れたままだけれど、体に傷はない様子。


ポント様は目の前で体の調子を確かめながら。

『クロネ、どうだった』

『ポイントと調整者への鉱石は約同量でした』



そのやり取りを見ながら…



『ポント様、そのために態々命を懸けられたのですか』

「荒野」の2人は少し驚いた表情を浮かべる。


『聞いてくださればお教えしましたのに…』



『『ええっっっっっ』』


『ねえ、ノワール』

『セントは教えないとは一言も言っていないからな』


項垂れる2人に声をかける。


『言葉に出すのは大事ですよ』


クロネさんと目が合う、私は片目をパチリと閉じる。

『セント様、このような危ない真似は控えてほしいものだが』

『でもね、ノワール。もとはと言えばあなたがあまりにも姿を現さないからこうなったのでは』

『今後は気をつけるようにしよう』



『解ってくれればいいのよ。ゲンさん、ノワール。お茶の続きでもしましょう』




「本当に、心配したんですから…本当に…」

「悪かった。もう無茶はしねぇから、な」

クロネさんの泣き声と、オロオロしているポント様の声を背にその場を後にする。



『セントも、人が悪い』

『ノワールさん、今一度手合わせ願いたいのだが』

『理由がない…』

『そこを何とか』

『セント、助けてくれ』

『嫌よ、ノワールは助ける側でしょ。私を』


ふーっと息を吐きだし、ノワールは突然走り出していった。

その動きにすぐ反応してゲンさんがノワールを追っていく。


『ノワールも相手してあげればいいのに』

1人呟きながら。街をぶらぶら歩く事にした。




日は傾き、空を茜色に染める頃。「平原」の区画で珍しい2人を見つけた。


『へい、小鳥ちゃん。おっす、おいでおいでウマイヨ』

『姉様…私は失礼します…』

『そんなに急いでどこへ行く。セントはただのセントになったんだ。堂々とすればいいじゃないか。そんな態度はかえって怪しいZO』


『ナセキ、あなたの真意はどうであれ。私は「平原」の人間ではないのです』


ナセキは静かに立った席に座る。


『小鳥ちゃん、楽しそう…』

『そうですか。今日は殺されかけましたけれど』

『予想の斜め上を飛ぶとは…詳細プリーズ…』


私は、ポント様に命を狙われ、ノワールが腕を切り落として私を守った事。

調整者への鉱石はポイントと同様相当である事を話した。


『確かに、言葉にするのは大事な事…さあ、さあさあ』


私とナセキを交互に見ながらユーロさんはおにぎりを頬張る。


『ナセキ…』『姉様…』


2人の言葉が重なる…


『姉様、僕は力がほしいのです。以前のホルダーのような、今の姉様のような…唯一無二の力が…』



『その為に、鉱石を集めているのね』



『そうです。各国と交易を行い、国を潤わせながら、取引内容に鉱石も含めその量を増やしているのです。すでに姉様はご存知なのでしょう』


その眼差しは迷いも遠慮もなく私を見つめ、言葉を続ける。


『僕は、惨めな思いはしたくない…』




『ナセキ…亡くなる前のお父様はあなたの目にどう映ったのかしら』




『醜く、汚らしく、惨めで………それでも、尊く感じました』


『そう、お父様は人間の屑だわ。少なくとも私はそう思っている。あんな男が王では遅かれ早かれ「平原」は終わっていたでしょうね』

『姉様、確かに今までそう言われるような行いがあったのは事実ですが、世界が変わる3日前からのお父様は紛れもない賢王でした。姉様がどちらにいたのかは知りませんがそれだけは事実で…』

『知った事ではないわ。ナセキ、それがどうしたというの。あの男はもういない。それだけが事実よ』



『何も知らないくせに…勝手な事ばかり。偶然手に入れた調整者の力、ホルダーの娘だからと何不自由なく育った、無能がいい気になるなよ。あの男は確かにどうしようもない屑だった…それでも、あの3日間のことだけは…それだけは…お前に馬鹿にされることはない』


『それがあなたの素なのね。その屑や無能と同じ道を行こうとするお前は何が違うというの…』






『そんなに屑を庇うのなら、好きにすればいいわ。ただのセントとしての気持ちよ。ユーロさん、あなたが火をつけた結果よ。後始末、よろしくね』


『面白くなると思ったのに…これまた、斜め上の結果…セルフ貧乏くじ』


黙って下を向くナセキを見下ろして、私はその場を去ろうとする。


「俺が、殺した…」


耳に届いた小さな声。


『俺が、殺したんだ。なのに、あの男は「こんな男になるな」って…』

『そう、後はあなたの問題よ。もう、私には関係ないわ』


「貧乏くじを上回るキング貧乏くじ…マイセルフ…」



黒いもやに包まれて私は自室へ戻った。




この顔はあの子には見せられないから…






『イソギンチャク。元気出せ』


『何ですか。それ…』


両手を空にうにょうにょさせてみる。

『こんな感じの海の生き物のこと』


『なぜ、僕をそんなものの名で呼ぶのですか』

思ったより落ち着いている感じか…


『ふむ、教えてしんぜよう。セントの腰巾着ではなくなったのでイソギンチャクに改名したのだ』


『それは馬鹿にしているのですか』

『1人立ち、おめ』


『そりゃどうも』


目の力は落ちてはいない………使える…


『イソギンチャクよ。私のものになれ、婿に来い』




『ふざけるな。俺は帰る…取引の話しは生きてるだろうな…』

『もちのろん。公私混同はしない主義』


取引が出来て安心した様子で私に背中を向ける…


『イソギンチャク、婿の件良く考えることだ。いつでも抱いてやるから来いよ』

『そういうのは女が言う事じゃねーだろうが』


真っ赤な顔して走っていきおった。



『ういやつ…』


『そこの可愛い店員さん。キツイの一杯おくれ』






『ユーロ、どうしたしっかりせんか…おっ、酒臭い』

『いつの間にか瞑想していたようだ』


『違うじゃろうが、酔っ払いめ』


手足の感覚は正常、思考状態正常、視覚…源爺の皺まで確認可能、正常。

ユーロ、完全起動。


『酔っ払ってはいない。年中赤ら顔のジジイに言われるのは不本意』

『他所の区画の道の真ん中で堂々と寝ているのをたまたま通りかかったわしが声をかけた結果がこれか』


言い過ぎたか…よし、喜ばしてやろう。


『源爺、言いすぎた。わりい』

『ユーロ…言葉には気持ちがや』

『ユーロは婿を取ります。源爺様』






リアクションがない…おお、嬉しすぎて固まっているようだ。






『うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ』

源爺は私を抱えて走り出す。


楽チン楽チン。


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