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【黒と…】

私は、私はどうしたらいいの…


飛び出してしまった。あそこにもどる事もできない。


孤独、あるいはこれが自由…いや、ただ無力にあても無く彷徨う事が自由であるのならなんて寂しい事だろう。




このまま、死んでしまえば…


ふと思う思考は生きたいと願う身体からの音によって遮られる。

『こんな時にもお腹は空くのね…』

少し先に見える小川の水を飲む。足はふらふら、そろそろ歩けないのではないか…



あたたかい…


耳に焚き火が弾ける音が聞こえる。


目を開けるとそこには黒い者が焚き火をはさんで反対側にいた。

私が目を覚ましたの気づくと黒い者は立ち去ろうとする…

『待ってください。あなたが助けてくださったのですか』


私の声を聞いて一瞬動きを止めるが、また動き出してしまう。

追いかけようと立ちあが…


目の前に近づく火の赤。


その赤が私に触れる事はなく、黒い者は私を静かに座らせた。


『ありがとうございます』

『無理はしないほうがいい』



『私はセントと言います。あなたは』

『解らない…記憶が曖昧なんだ。どこへ行けばいいのかも…』


『同じです…私も…どうしたらいいのか…』


『そうか…』

『魔王さんがなぜこんな力を渡したのか…』

『…魔王…』


突然頭を押さえて地面を転げまわる黒い人、必死にその体を押さえようとする私。

2人が砂まみれになってぼさぼさになってやっと動きは収まった。


『大丈夫ですか』

『ああ、いくつか思い出した事がある。私を従える気はないか』


突然の申し出に戸惑う私を落ち着かせるようにゆっくりと口をひらく。


『お願いできないだろうか…どの道、1人で野外生活するのもどうかと思って…』

『お1人で野外生活なのですか』


スッと立つと地面に手を当て、次の瞬間。


人が1人入るくらいの穴が空いていた…


『こんな力がある以上、普通に暮らすこともできないし』

『確かに…』



特異な力は周囲への影響力も強い、私と同じ…


この人は力の種類は違えど、私と同じなんだ。


気が楽になった私は今までの自身に起ったことを話した。

何もきかずにただ頷きながら聴いてくれる。嬉しかった。心強かった。


いつの間にか周囲はうっすら明るくなってきていた。


『今、セントに必要な力は私が持っている。先ほどの話し、私を従えて貰えないだろうか』

『お友達では、だめですか…』

『周囲への配慮も必要かと』




『気持ちは友人と言う事で納得してもらえないだろうか、セント』

『わかりました』


恭しく私の前で頭を下げる。


『私に名前をつけてもらいたい』




その言葉を受けて私が思った名前はただ1つ…

『ノワール』


『このノワール、あなたの力となります』






『というわけで、偶然出会って力を貸してもらうことになったの』


一言も発せず集中して聞いている面々…




しばしの沈黙ののち…


『偶然出会う、似た境遇の男女なんて…運命的で素敵ね…』

『名をつけられて…首輪がつくのも、時間の問題』

『いい話しですわぁぁぁっ、よかった。本当によかったですわぁぁぁ』


三者三様の反応が暫らく続いた。




『これで鼻を拭け、猿よ』

『ずみばぜんべすわ』

チーンといい音を立てて受け取ったハンカチで鼻をかむフランさん。


『洗って返しますわ』『いらん』


『そういえばポント様が見つけたとき、銀の仮面をしてたって言ってたけど』

『いや、あれは…ノワールが「セントには銀が似合うから」って作ってくれて、それを付けているときにポント様が来たの』


『あの黒いの手先も器用なのか…使える…のはセントだけか』

『手作りのプレゼントなんて素敵ですわ。仲良き事は美しい』

『ノワールさんもセントにべた惚れなのね。世界最強のカップルじゃない』


『そ、そんな、私達はそ、その…友達だから…』


『『『はいはい』』』


『『『ごちそうさまでした』』』


乙女の集いは和やかに過ぎている。






ふむ…今日はなにやら嬉しそうに見えるが。


『ゲンよ、何かよいことでもあったのか』



『はい、私の自慢の鎧が使い物にならなくなりました』

『ほう、それはよかったのう。して、どうするつもりじゃ』


『己の技術と鍛錬により再度挑戦したいと思っています』

『それでは、わしも全力で協力するとしよう。今以上に厳しいぞ』

『源様、望むところです』


静かに燃え上がる気持ちに寄り添うように一丸となった師弟の姿があった。






それから暫らくして、各国は今後の戦略を大きく見直さなければならない事に気がつくのだった…


セントが街に戻ったときの宣言。


『ノワールは、今まで私に無かった力を持っています。今の私は力なき調整者ではなくなりました………皆様と同じように好きにさせていただきます。今後、調整者の力が必要であれば内容をノワールに伝えてください。お手持ちのポイントと私への鉱石量によって皆様の希望をできる範囲で叶えます』


その後、ノワールの姿を見たものはいない。



つまり、いつどこに現れるか解らない者にしか鉱石の力は使えない。その上その時点でのポイント保有量と調整者への鉱石が必要となる。

ポイントを増やしすぎれば調整者への鉱石が不足するかもしれない。それでは、力が使えない。

逆も同じ事。


各国はその戦略を決めあぐねている。

材料が無いのだから仕方がない。ポイントは調整者失踪の直前の情報からある程度推測できるかもしれない。問題は調整者への鉱石の方…




『危険すぎるのでは…』

『俺がやらなくても、誰かがやるさ。それにやるのは俺だ』

『だから心配しているのに…』


『近いうちにそっちに行くから。よろしく言っておいてくれ。その方がいい』




ある朝、クロネさんが私を訪ねてきて、こう言った。


『ポント様が調整者を殺しに来るそうよ。よろしく言っといてくれですって』


『あはははっ、まあ、怖い…さすがポント様だわ。クロネさんも大変ね』

『セント、私の苦労を解ってくれて嬉しいわ。できれば、調整者さんにはお灸を据える程度で勘弁してあげてほしいわね』


『そこのところはなんとも言えないけれどね』


『そう…セントに言う事じゃないけどポント様到着までに準備があるからまたね』




1人部屋に戻る…


ポント様は行動力がある。新しい世界に一番適応している王様。

私は嫌いじゃないけれど、ノワールはどうするかしら。


聞いてみましょう。


目の前にモッキーが現れる。


『ノワール、ポント様が調整者を殺しに来るそうよ』


『問題ない、私はいつでもセントの傍にいる…』


『そうね。ポント様の狙いがなんであれ…楽しみに待ちましょう』

『万が一もある。注意だけはしておいてほしいな』


『守ってくれるんでしょう』

『もちろん』



明日かしら、あさってかしら…




ノワールのくれた銀の仮面をつけて、首からは小鳥の首飾りを下げて街へ繰り出す。


『セント様、その首飾り使っていただいているのですね』


『ゲンさん、こんな素敵な物は仕舞っておくだけではもったいないですし。この小鳥も外の景色が見たいかと思いまして』



『確かに。立ち話もなんですからお茶でもいかがですか』


『…でも…』


『ご都合が悪いのでしたらまたの機会にしますが』

『いえいえ、ひょっとするとゲンさんに迷惑がかかるかもしれないので…私、命を狙われていますので』



『ほう、なら尚更ご一緒したいですね』


近くにあったお店でお茶を頂く。


『そういえばゲンさん、鎧を新調されたのですね』


『はい、源様に新しい加工のアイデアをいただき。ゲンム様にもご協力いただいて作成しました。源様には稽古もつけていただき、本当にセント様には感謝しております』


『きっと、源様も喜んでいるのではないかと思います』



『機会があればまたノワールさんにまた手合わせ願いたいものです』


『それは本人でないとなんとも言えませんね』

『確かに』


ゆったりとした時間が過ぎる、ゲンム様の腰の調子が悪いとか最初の通信のときにいた方がマス様という名であるとか、稽古中に時たまユーロさんが差し入れをしてくれるとか、他愛のない会話が続く。



ゲンさんはふっと外を見て。


『この街の賑わいは子どもが成長するかのように活き活きしていますね』



『そうね…』


この街は各国の交易の場としてその規模は始めからあった位置から外への広がりを見せていた。


『嵐が来ますね…会計を頼む…』


ゲンさんは私の分も支払って先に外へ出て行く。後追う私。


外にはにこやかなポント様とその斜め後ろにクロネさんが心配そうな表情で立っている。


『セント…いや、調整者。殺しに来たぜ。よろしく、その仮面やっぱりいい感じじゃね』

『ありがとうございます…』

『何が目的か知らないが、知人が目の前で害されるのを見過ごせないな』


ゲンさんが私達の間に割ってはいる。


『やろってのか、この俺と…後悔するぜ』

『それはどうかな。来るがいい』


『じゃあ、やめた。お前とやり合っても俺に得は無いからな。クロネ、帰るぞ』


私達に背中を向けて無防備に帰ろうとしたように見えた…

『なんてな』


ゲンさん周りに煙が立ち始める。


嵐が私に迫る…本気…私の首元目掛けて、殺意が牙を剥いていた。


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